バロキサビルマルボキシルのインフルエンザ家庭内感染予防効果

城東病院の総合診療科専攻医の吉田如彦先生が3ヶ月間、当科救急研修を行いました。Journal Clubで発表いただいた会の要約になります。救急研修お疲れ様でした!

Journal Title
Baloxavir Marboxil for Prophylaxis against Influenza in Household Contacts NEngl J Med 2020;383:309-320DOI:10.1056 / NEJMoa1915341

論文の要約
<背景>
家庭のような密接する環境では,インフルエンザが流行しやすい。そして家庭内のインフルエンザ流行は、特に小児を発端として発生しやすい。その原因として、小児の免疫能の未熟性,保育所や学校での流行,感染対策への関心の低さが挙げられる。感染予防策としては、手洗いやマスクなどの非薬物的介入に加えて、ノイラミニダーゼ阻害薬のウイルス曝露後の予防投与が有効であることが先行研究で示されている。バロキサビルはA・B型インフルエンザに対する単回投与治療として2018年に承認されたが、その予防投与に関する有効性は明らかではない。本研究は、インフルエンザ患者の同居者に対するバロキサビルの曝露後予防効果について検証した。

<方法>
2018年11月〜2019年3月に国内の52のプライマリケア診療所で行われた2重盲検ランダム化比較試験である。対象は、インフルエンザに罹患した家族(Index patients)と48時間以上同居しており、インフルエンザ症状がなく、腋窩温37.0度未満の患者(participants)とされた。妊娠・授乳中、免疫不全の患者は除外された。患者は1対1の割合でバロキサビルまたはプラセボの単回投与が行われた。主要評価項目は、予防投与後10日間でのインフルエンザの発症(インフルエンザウイルスPCR検査陽性かつ腋窩温37.5度以上、中等度以上の呼吸器症状)が設定された。副次的評価項目としては、インフルエンザウイルスPCR検査陽性が設定された。割り付けは、Index patientsのインフルエンザ発症時期と投与された抗ウイルス薬、participantsの年齢を考慮し、最小化法を用いて1:1に割り付けられた。 サンプルサイズは、介入群で4%、対照群で10%の発症率を想定して、検出力90%、α=0.05と設定し、748人のサンプルサイズが必要と算定された。主要評価項目については、修正ポアソン回帰分析を用いて比較された。

<結果>
752人がランダム化された。そのうち2人が除外され、374人がバロキサビル投与群、376人がプラセボ群に割り付けられた。主要評価項目では、バロキサビル群7/374 [1.9%]、プラセボ群51/375 [13.6%]であった。(調整リスク比0.14;95%信頼区間[CI] 0.06~0.30;p<0.001)。副次評価項目では、バロキサビル群49/374 [13.1%]、プラセボ群114/375 [30.4%]であった。(調整リスク比0.43;95%信頼区間[CI] 0.32~0.58)。両群での有害事象については、頭痛や消化器症状などの項目について発生件数で比較されており、バロキサビル群投与による有害事象の明らかな増加は認められなかった。(発生総件数:バロキサビル投与群83件vsプラセボ群77件、薬剤投与に関連する件数:バロキサビル投与群7件vsプラセボ群6件)

Implication
本研究は塩野義製薬によりデザインされた国内第3相試験である。家庭内でのインフルエンザウイルス曝露後のバロキサビル予防投与が、その後のインフルエンザの発症リスクを低減させると結論づけた。本研究の内的妥当性として十分なサンプルサイズと高い追跡率の点で評価できる。一方で、企業側からのCOIがあり、Exclusion criteriaには 試験データの質を低下させると医師が"判断する患者 が含まれているが、その詳細は記載されておらず、選択バイアスの可能性が"ある。また各群のBaseline比較では、インフルエンザワクチン接種や非薬物的介入(手洗い・マスクなど)が検討されておらず、交絡因子の検討が不十分である。以上から、内的妥当性は決して高いとは言えないだろう。 外的妥当性に関して、本研究は多施設研究で盲検化・隠蔽化されている。しかしInclusion criteriaを見ると、Index patientsは抗インフルエンザ薬治療を行うことが前提となっている。またIndex patientsおよびparticipantsの関係性は、約70%が若年の親子(Index patients:20歳未満の子供、participants:親)となっている。Index patients全体としても12歳未満が73.6%を占めており、世帯構成や世帯平均年齢は地域差が大きいことを考慮すると、外的妥当性も低いと言わざるを得ない。 本研究の結果は、家庭内のインフルエンザウイルス曝露後の予防薬として、バロキサビルの有用性および安全性を期待させるものだ。しかし企業C O Iの影響を強く受けた研究と思われ、予防投与の実用化のためには、外的妥当性を高めた、さらなる研究が必要である。また因果関係は不明だが、本研究ではバロキサビル投与後に変異ウイルスの出現が確認されており、予防投与の適応に関しても今後慎重に検討すべきだろう。

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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科