特発性気胸の治療:保存加療か侵襲的加療か

Journal Title
Conservative versus Interventional Treatment for Spontaneous Pneumothorax
January 30, 2020 N Engl J Med 2020; 382:405-415 DOI: 10.1056/NEJMoa1910775

論文の要約
<背景>
イギリスでは15歳以上で特発性気胸にて入院するのは年140/1000万人であり、1/3の症例は肺疾患既往がないとされている。主な治療としてはドレナージ療法があり、ときに手術が必要なこともある。しかしドレーン挿入には疼痛、感染、出血と多岐にわたる副作用が随伴してくる。今回中等度以上の一次性特発性気胸の治療方法としてドレーン留置などの介入加療の代替として保存管理が適切かどうかを検討した。
<方法>
本研究はオーストラリア、ニュージランドの39施設で行われた多施設オープンラベル非劣性試験である。対象は、中等度から重症の一次性特発性気胸を初めて発症した14−50歳の患者で、気胸に対して胸腔ドレーンを留置する介入群と保存的に経過観察を行う非介入群に1:1の比率で無作為にコンピュータプログラムによって割り付けられた。Primary Outcomeは、8週間以内での肺再拡張(胸部X線画像評価)とした。副次評価項目として、Primary Outcomeの感度分析,症状寛解期間、6・12ヶ月での気胸の再発、副作用、入院期間、患者満足度を選定した。サンプルサイズは介入群での寛解を99%、非劣性マージンを-9%に設定し、検出力95%、one-side2.5%、20%の試験失格者を想定し、342人と計算した。
<結果>
316人が無作為化され、そのうち154人が介入群に、162人が非介入群に割り振られた。介入群のうち10例(6.5%)が保存的に加療され、非介入群のうち25人(15.4%)に治療介入が行われた。介入群で23人と非介入群で37人のデータが得られなかった。Primary Outcomeである8週間以内での肺再拡張が認められたのは介入群で129/131(98.5%)と非介入群で118/125(94.4%)であり、非介入群の非劣性が示された。(risk difference,-4.1%pt;95%信頼区間 -8.6~0.5; P=0.02)。Secondary outcomeでの感度分析(56日評価に間に合わなかったデータを治療失敗例として組み込んだ場合)では肺の再拡張は介入群で129/138(93.5%)と非介入群で118/143(82.5%)であり、非劣性は示されなかった (risk difference,-11.0%pt;95%信頼区間 -18.4~-3.5)。他の評価項目では、治療介入群と比較すると保存加療(非介入群)で重症副作用のリスク、12ヶ月以内での気胸の再発率が減少することが示された。

Implication
本論文の結論として著者は、統計的根拠はやや乏しいが、初発の特発性気胸に対して保存加療も侵襲的治療と比べて大きく効果に差がなく、手技に伴う二次的副作用が減ると述べている。
今回の研究においては研究対象となるまでに候補の1割程度しか適応がなくサンプルの選出に選択バイアスがあり外的妥当性が低いと考えられる。保存加療群で結果的に治療介入が必要となった症例のデータの組み込み方や評価方法が明確にされておらず内的妥当性にも懸念がある。感度解析でも56日以降の症例を全て治療失敗例とした場合で非劣性の優位性が認められなかったため頑健性に乏しい。しかし、中等度以上の気胸患者に対して侵襲的主義を必要としないことによる副作用のリスクの低下や医療資源の上で恩恵が大きいことの意義は大きい。
今後の検証試験により、保存的治療が標準治療になっていくことを期待したい。

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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科