心房細動を有する飲酒者の断酒に関するRCT

Journal Title
Alcohol Abstinence in Drinkers with Atrial Fibrillation
January 2, 2020 N Engl J Med 2020; 382:20-28 DOI: 10.1056/NEJMoa1817591

論文の要約
<背景>
心房細動は世界中で3300万人以上に影響を与えており脳卒中の主な原因の1つである。
観察研究では、アルコール摂取は偶発的な心房細動、左心房の拡大、心房の繊維化、再発のリスクが示されている。過剰な飲酒は心房細動の新規発症、および有害な心房リモデリングと関連しているが、断酒が心房細動の二次予防に及ぼす効果は明らかにされていない。
今回は心房細動を有する飲酒者が断酒をすることで心房細動の再発を予防できるか検証した。
 
<方法>
本研究はオーストラリアの6施設で行われた多施設の前向きオープンラベル無作為化比較試験である。対象は、基準飲酒量が週10ドリンク以上(1ドリンクの純アルコール量は約 12 g)で、発作性心房細動または持続性心房細動を有し、ベースラインで洞調律であった成人とした。患者は、断酒する群と通常の飲酒を継続する群に中央コンピュータ割付方式で1:1で無作為に割り付けられた。主要エンドポイントは、6ヵ月の追跡期間における心房細動の無再発期間(2 週間のブランキング期間 [再発を治療の失敗とみなさない、治療が安定するまでの期間] 後)と、心房細動の総負荷(心房細動の状態にあった時間の割合)の 2 つとした。副次評価項目として、体重、血圧、心房細動の症状、気分、QOL、入院とした。サンプルサイズは、再発を30%と仮定し、2群間の再発の20%ポイントの最小絶対値を検出するのに、検出力80%、α=0.05を見積もり、1群あたり70人と計算した。Intention to treat解析を行った。
心房細動の再発に関するイベントまでの時間の分析はカプランマイヤープロットとログランク検定を使用し一変量COXハザードモデルを使用した。

<結果>
無作為化された 140 例(男性 85%、平均 [±SD] 年齢 62±9 歳)のうち、70例が断酒群に、70例が対照群に割り付けられた。断酒群では飲酒量が週 16.8±7.7 ドリンクから 2.1±3.7 ドリンクに減少し(87.5%減少)、対照群では 16.4±6.9 ドリンクから 13.2±6.5 ドリンクに減少した(19.5%減少)。2週間のブランキング期間後、心房細動は、断酒群では 70 例中 37 例(53%)、対照群では 70 例中 51 例(73%)で再発した。断酒群では心房細動の再発までの期間が対照群よりも長かった(ハザード比 0.55,95%信頼区間 0.36?0.84,P=0.005)。6ヵ月の追跡期間中の心房細動の負荷は、断酒群のほうが対照群よりも有意に低かった(心房細動の状態にあった時間の割合の中央値 0.5% [四分位範囲 0.0?3.0] 対 1.2% [四分位範囲 0.0?10.3],P=0.01)。

Implication
本論文の結論として著者は断酒群では心房細動の再発までの期間が対照群よりも長く、6 ヵ月の追跡期間中の心房細動の負荷は,断酒群のほうが対照群よりも有意に低かったと結論づけている。
本論文の強みはこれまで直接証明されてこなかったアルコールと心房細動の関係を証明しようとしたこと、そして洗練された研究デザインにある。しかし、主要評価項目がソフトアウトカムで、追跡方法がアルコール手帳に記載の上、面談をとる形式のため報告バイアスが生じうる点、オーストラリア1国であり、しかも対象患者が140人に対しinclusion criteriaで521人が脱落しているため一般化可能性を損ねている点が弱みである。主要評価項目にカプランマイヤーの生存曲線をもちいて検討しているが、フォローアップ期間が6ヶ月という短期間であるため十分な評価が出来ていない可能性がある。また、長期的な脳血管障害などのアウトカムとの関連は不明である。そうであれば患者満足など患者中心の評価項目が重要となるが、患者立脚型アウトカムの一つであるSF-36では差が出ていない。以上から本研究は疫学的意義が大きいと言えるが、実臨床への応用には大きな溝があると言わざる得ない。

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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科