GNR菌血症に対する、CRPガイドによる抗菌薬治療期間の設定

Journal Title
Effect of C-Reactive Protein-Guided Antibiotic Treatment Duration, 7-Day Treatment, or 14-Day Treatment on 30-Day Clinical Failure Rate in Patients With Uncomplicated Gram-Negative Bacteremia A Randomized Clinical Trial. JAMA. 2020;323(21):2160-2169. doi:10.1001/jama.2020.6348

論文の要約
背景:
抗菌薬の長期投与により耐性菌の出現や、 Clostridioides difficile感染、入院期間の延長、医療費の高騰などのデメリットが予想される中、近年感染症に対する抗菌薬加療を短縮する傾向がある。2019年にグラム陰性桿菌血症成人に対し抗菌薬7日VS 14日で比較したRCT(Clin Infect Dis. 2019 Sep 13;69(7):1091-1098)では90日死亡率や再入院, 菌血症再燃に有意差が無いとされた。しかしながら、ほとんどのグラム陰性桿菌血症に依然として10-14日間の抗菌薬が投与されており、医師によって著しい不均一性がある。また、病原体とその宿主の間の高い多様性を考慮すると、期間を個別化するべきである。個別化にあたり、炎症状態に対し感度の高いマーカーであるC-reactive protein(以下CRP)で治療期間の設定を試みた。

方法:
本研究は、2017年4月~2019年8月の間にスイスの3次病院で行われた前向き研究である。GNR菌血症(血液培養が1回でも陽性となった)と診断され、第5病日の時点で微生物学的に適切な抗菌薬加療が行われ、その時点で24時間発熱無く血行動態が安定している18歳以上の患者が対象とされた。患者は施設で層別化されブロックランダム化により7日間固定治療群、14日間固定治療群、CRPガイド群(CRPがピークから75%低下、48時間解熱が得られた時点で抗菌薬終了)に割り付けられた。
抗菌薬終了予定日(7日間固定治療群であれば第7病日、14日間固定治療群であれば第14病日、CRPガイド群であれば条件を満たした日)の朝に治験担当医より主治医に対して抗菌薬中止が提案された。なお、抗菌薬の選択や経口スイッチ、状態悪化時の治療継続の判断は担当医師に委ねられた。主要評価項目には治療開始30日目の化膿性合併症、遠隔部位への感染播種、抗菌薬再開、抗菌薬治療失敗に伴う死亡からなる複合アウトカムが設定された。症例数は、先行研究から治療失敗イベント発生率が10-30%と推定し、α:0.25 Power:80%と設定し、500人以上の症例数が必要と算出された。また、CDCガイダンスに沿って、非劣性マージンを10%に設定した。

結果:
504人の患者を対象とし、7日間固定治療群169人、14日間固定治療群165人、CRPガイド群170人に割り付けられた。主要評価項目の治療失敗は7日固定治療群で11人(6.6%)、14日目固定治療群9人(5.5%)、CRPガイド群4人(2.4%)で、14日間固定治療群に対して、CRPガイド群で非劣性を示した(Difference:-3.1%[-∞to1.1(97.5% CI)],p value<0.01)。また副次評価項目の60日目、90日目時点でも14日間固定治療群に対して、CRPガイド群で非劣性を示した(60日時点:Difference:-1.8%[-∞to3.7 (97.5% CI)],p value<0.01 、90日時点Difference:-3.5%[-∞to2.9(97.5% CI)],p value<0.01))。

Implication
本研究は前向き三重盲検ランダム化比較試験である。割り付け方法が妥当である点、概ねITT解析で脱落率も低い点などから、ある程度の内的妥当性を保っていると思われる。しかし、2つのLimitationが考えられる。1つ目に、仮定した標準治療失敗率と、実際の治療失敗率に大きなギャップがあり非劣性マージンや症例数の再検討が必要である点が挙げられる。2つ目に、プロトコール違反が目立つ点である。特にCRPガイド群では23%の39例にプロトコール違反があり結果に大きな影響を及ぼした可能性が高い。
本研究は、近年の抗菌薬加療期間の短縮傾向を考慮して、患者個別の状態から抗菌薬加療期間を設定しようとした重要な研究である。しかし、CRP単独での判断は実臨床を鑑みても無理があると考える。今後、CRP単独での判断ではなく、CRP参照群とCRP非参照群での抗菌薬投与期間の比較などを期待する。

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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科