人工呼吸器管理中の患者に対しての軽い鎮静と無鎮静の比較

Journal Title
Nonsedation or Light Sedation in Critically Ill, Mechanically Ventilated Patients
NEJM. March 19, 2020. PMID: 32068366

論文の要約
現在人工呼吸器管理の患者の多くは鎮静をされ管理されている。しかし鎮静をされている人工呼吸器管理患者に対して鎮静のDaily interruptionを行ったほうが人工呼吸器装着期間やICU滞在期間が短縮した報告や死亡率の改善や入院期間の短縮をした報告がある。本研究の先行研究では単施設の研究ではあるが鎮静を行わなかった群のほうがICU滞在期間や、入院期間が短縮したと報告された。そこで本研究は無鎮静戦略が1日1回の鎮静中断を伴う浅い鎮静戦略と比較して90日死亡率を改善させるか検証した。
本研究はデンマーク、ノルウェー、スウェーデンの3か国で行われた多施設オープンラベルランダム化比較試験である。期間は2014年1月から2017年11月までであった。対象は18歳以上で24時間以上人工呼吸管理を受けると予想された患者であった。重症頭部外傷や低体温療法を受ける患者、てんかん重積状態、48時間以上滞在した他のICUからの転送、入院時に昏睡・脳死状態、P/F比 67.4mmHg (文中は9khPaと表記)、伏臥位療法を保つために鎮静が必要と判断された患者などが除外された。患者はComputer-generated assignment sequence with a variable block sizeでランダム化され、無鎮静群と鎮静中断を伴う浅い鎮静群に1対1に割り振られた。鎮静中断を伴う浅い鎮静群はRASS?2?―3を目標に管理され48時間まではプロポフォール、それ以降はミダゾラムで鎮静を受けた。鎮静は毎朝中断され、開眼・追視・離握手・挺舌の4つのうち3つの指示が入る状態を確認され再度鎮静を受けた。主要評価項目としては90日全死亡率であった。サンプルサイズはα0.05、検出力80%、人工呼吸器管理の患者の90日死亡率が40%、無鎮静群では相対リスクが25%減少するとして計算され700人となった。解析は多変量ロジスティック回帰分析が使用された。
結果は2300人の患者が参加し、1590人が除外され710人がランダム化され、無鎮静群に349人、鎮静群の351人割り振られた。主な除外項目は昏睡や24時間以上の人工呼吸器管理が予想されない状態、他のICUで48時間以上滞在しているなどであった。集団特性は特記すべき差はなかった。主要評価項目の90日全死亡率は無鎮静群で148人(42.4%)、鎮静群で130人(37.0%)であり有意差はなかった(p=0.65、95%CI -2.2~12.2)。副次評価項目として血栓発生率や28日間の非せん妄・非昏睡日数、RIFLEスコア、28日までの死亡日数、人工呼吸器を装着していない日数などがあったが有意な差があるものはなかった。

Implication
筆者らは本試験では人工呼吸器管理の患者に対して無鎮静群と中断を伴う鎮静群では90日全死亡率に有意な差はなかったと結論付けた。
今回の試験は主要評価項目がHard Outcomeで脱落がない点は内的妥当性が高い点であるが、筆者らも述べているように無鎮静群においても初日に27%、ICU滞在期間に38.4%の患者が鎮静を受けており結果に影響している可能性はある。外的妥当性としては多国籍多施設のRCTであり外的妥当性は高いが、本研究の施設の患者対看護師は1:1の施設が多く、それだけ人員がさけない施設へのこの結果を外挿できるかは疑問である。さらに今回の試験の結果では90日間全死亡率に有意差はなかったが、わずかに無鎮静群のほうが死亡率が高く、上記バイアスを考慮すると無鎮静群の死亡率はさらに高くなる可能性がある。以上からこれまでどおり、必要であれば浅い鎮静をしてよいと考える。

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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科