院内のインフルエンザ発症予防におけるN95マスクとサージカルマスクの有用性の比較

[ Journal Title ]
N95 Respirators vs Medical Masks for preventing Influenza Among Health Care Personnel A Randomized Clinical Trial
JAMA 2019/9/3
PMID 31479137

[ 論文の要約 ]
インフルエンザは飛沫感染、エアロゾル感染、接触感染の3経路により伝播され、特に不顕性感染者の呼気中にウイルスが排出されることで感染をおこすエアロゾル感染が注目されている。N95マスクとサージカルマスクの有用性の比較試験は過去にも行われているがマスク着用のアドヒアランスのばらつきが大きく、どちらが実効果として有用であるかは結論づいていない。本研究はインフルエンザを含めたウイルス性呼吸器感染症の院内感染予防におけるN95マスクとサージカルマスクの有用性を比較した。研究は2011年9月〜2015年5月に米国7施設において行われ、cluster randomizationを取り入れたrandomized clinical trialである。各施設における外来で働くすべての医療従事者を対象とし、18歳以上で7つの研究対象施設のいずれかで勤務し、その施設での勤務時間が全体の75%以上、また勤務環境が患者から1.83m(6 feet)以内で直接的な患者のケアに関わる時間が約24時間/週以上をInclusion criteriaとした。ただし研究へ参加することで安全性が担保されない健康状態である場合、もしくはN95マスクフィットが阻害されうる場合は研究対象者から除外した。各研究対象施設のうち条件が揃っている施設をペアに設定し、コンピューターによってランダムに一方をサージカルマスク群、他方をN95マスク群とし、割り付けは毎年更新された。割り付けられたマスクの着用期間は12週間/年とし、呼吸器感染症に罹患しているまたはその可能性がある患者から1.83m(6 feet)以内に接触したら必ず新しいマスクを着用するようにした。マスク着用と手洗いをすべての医療従事者に励行し、アドヒアランスレベルを被験者の自己申告により3段階で評価した。
Primary outcomeは検査に基づいたインフルエンザの発症とし、自覚症状出現から7日以内または無症状期にランダムに採取した前鼻孔または咽頭の検体から逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)によるインフルエンザA or Bの同定、あるいは各シーズン前後に採取したペア血清のインフルエンザセロコンバージョンとした。secondary outcomeはウイルス性呼吸器感染症の発症とし、症状や検査結果の組み合わせで4つの基準を定めた。
 年間のインフルエンザ発症率をインフルエンザワクチン未接種、サージカルマスクを着用した場合で20%、検出力を80%、TypeIエラーを0.05としてサンプルサイズを設定し、サージカルマスク群よりN95群がインフルエンザの発症率が25%減少すると仮定したprimary outcomeでは10024人、ウイルス性呼吸器疾患の発症率が25%減少すると仮定したときsecondary outcomeでは5104人となった。
結果として380 clustersの2862人が2群に割り付けられ、最終的に2371人(のべ5180人)が研究対象者として解析された。2群間の背景因子に大きな差はなく、primary outcomeであるインフルエンザの発症率はITT解析においてN95マスクで8.2%、サージカルマスク群で7.2%であり、群間差1.0%(-0.5%-2.5%(95%CI)p=0.18)で有意差はなかった。Secondary outcomeであるウイルス性呼吸器疾患の発症率は4つの指標においてITT解析、パープロトコル解析ともに有意差はなかった。アドヒアランスの結果は3段階評価でalwaysとsometimesと答えた割合がN95マスク群で89.4%、サージカルマスク群で90.2%であった。

[ Implication ]
 Cluster randomizationを取り入れたことで被験者の間接的な相互作用を促進し、研究結果は介入による効果をよく反映しているといえる。また異なる地域性で、多彩な人種を被験者としたことで外的妥当性のある研究となった。ただし、サンプルサイズ不足であることで期待した検出力は得られない可能性があるため、臨床応用するためにはさらなる研究が必要であると考えられる。

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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科