心筋梗塞を示唆する症状を呈する救急受診患者の高感度トロポニン検査データから、心筋梗塞の診断、30日間の心筋梗塞および死亡リスクを推定するリスク評価ツールを開発すること

【 Journal Title 】
Application of High-Sensitive Troponin in Suspected Myocardial Infarction
N Engl J Med. 2019;380:2529-40, DOI: 10.1056/NEJMoa1803377

【 論文の要約 】
<Background>
高感度トロポニン検査は心電図や臨床所見と合わせて、心筋梗塞の診断と除外の鍵となる。
先行研究であるASPECT試験とADAPT試験では、TIMIリスクスコア0点である低リスク症例において、トロポニンが陰性であれば、99.1%(ASPECT)〜99.7%(ADAPT)の確率で、30日以内の主要心血管イベントの発症が否定されることが示されている。
本研究では、心筋梗塞を示唆する症状を呈する救急受診患者への高感度トロポニン検査データから心筋梗塞のリスク評価ツールが開発された。
<Methods>
本研究では、心筋梗塞を示唆する症状を呈する救急受診患者を対象とした15の国際コホート研究における高感度トロポニン検査の結果を救急受診時と、2回目早期(45-120分)もしくは後期(120-210分)に分類した。複数の高感度トロポニンのCut-off値の組み合わせから、心筋梗塞の診断と予後予測をDerivation-Validationデザインを用いて評価した。各コホート研究は13ヶ国(オーストラレーシア、ヨーロッパ、北アメリカ)で行われた。これらのデータから心筋梗塞の診断、30日間の心筋梗塞および死亡リスクを推定するリスク評価ツールが開発された。
<Results>
 15の国際コホート研究に参加した23327例からST上昇型心筋梗塞であった676例を除外した22651例をDerivation群9604例(5のコホート研究:APACE、BACC-I、High-STEACS、ROMI-I、stenoCardia)とValidation群(残り10のコホート研究)13047例に分け、Derivation群のデータを元にリスク評価ツールを開発した。なお、22651例における心筋梗塞の有病率は15%であった。
 心筋梗塞低リスク群においては、陰性適中率が100~99.5%、99.4~99.0%、98.9~98.0%、97.9~97.0% の枠組みで各トロポニンのcut-off値が設定された。例えば、受診時の高感度トロポニンIが6 ng/L未満で、2回目早期(45-120分)までの変化量が4 ng/L未満である場合、心筋梗塞の陰性適中率は99.5%で、その後30日間の心筋梗塞または死亡のリスクは0.2%であった。これらの結果は、Validation群においても検証、確認された。
<Conclusion>
15の国際コホート研究から高感度トロポニン検査を利用した心筋梗塞のリスク評価ツールが開発され、救急受診時に心筋梗塞である確率とその30日間の心筋梗塞もしくは死亡リスクを推定することができた。

【 Implication 】
本研究において、心筋梗塞の新たなリスク評価ツールを得ることができた。inclusion criteriaとexclusion criteria、心筋梗塞の診断方法が各コホート研究によって異なっていること、中等度リスクの患者においては評価できない群がいるなど内的妥当性に劣る。
一方で、2回目の高感度トロポニン検査について早期(45-120分)においても99.5%の陰性適中率を得られており、トロポニンの検査間隔を短くできる可能性が示唆される。

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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科