ARMEC ER合同 Journal club

今回は亀田の関連病院である安房地域医療センター(以下ARMEC) ERとの合同Journal clubでした。ARMEC ERとも連携することで千葉県南房総地域全体でEvidenceに基づいた救急診療が出来ることを心がけています。

「ACSが疑われる患者に対しての高感度トロポニン測定の意義とは?『High-STEACS study』」

High-sensitivity troponin in the evaluation of patients with suspected acute coronary syndrome: a stepped-wedge, cluster-randomised controlled trial. Anoop S V Shah*, Atul Anand*, Fiona E Strachan et al. Lancet 2018; 392: 919-28

・背景 
高感度心臓トロポニンアッセイは心筋梗塞の診断には低い閾値で使用されるようになったが、これが臨床的な結果を改善させているのかどうかは知られていない。今回、高感度心臓トロポニンI(hs-cTnI)アッセイの性別99パーセンタイル診断閾値の使用が急性冠症候群が疑われる患者において後の心筋梗塞や心血管死を減らすのかどうかを明らかにするために研究を行った。

・方法
本研究は高感度トロポニン検査が実施できるスコットランドの10個の2次、3次病院で行われたstepped wedge, cluster-randomised controlled trialである。対象は期間中にERを受診した患者の中で臨床的にACSを疑われ、期間中に他の入院歴のない全てのスコットランド住民であり、2種類のトロポニンI測定が行われていたものである。見込み患者数ごとに病院はペア分けされて、病院単位でランダム化割付がなされた。各々の病院にて6ヶ月間の従来トロポニン検査のみでの診療を経たのち、最初から高感度トロポニン測定を使用する群と後半6ヶ月間高感度トロポニン測定を診療に使用する群とに割付を行い、治療後のアウトカムの差を評価した。主要評価項目は1年以内の心筋梗塞もしくは心血管による死亡、副次評価項目は入院期間、計画外の再度の血管内治療、全死亡、心不全による入院、脳梗塞などであった。サンプルサイズは先行研究より推定し、高感度トロポニンによりが6.4%が再分類され、13%程度の主要評価項目該当者が出現すると考えられた。先行研究によると主要評価項目該当数は1000人に1症例であった。クラスター内の相関係数を0.05-0.10とし、再分類される比率が6-9%とすると、絶対リスク低下4.4%のための検出力は74-85%であった。

・結果
2013年6月6日から2016年3月3日までのER受診患者で48282人が登録された。その患者のうち主要評価項目に該当したのが2586人(Validation phase 720例、Implementation phase 1051例)であり、高感度トロポニン測定と従来のトロポニン測定で主要評価項目に該当した患者割合に有意差は認めなかった(14.6%(105例)対12.5%(131例) オッズ比1.10 95%CI 0.75-1.61)。副次評価項目に関しても95%信頼区間において有意差は認めなかった。一方で、高感度トロポニンで診断された割合は女性で有意に高く(83%)、心電図にてST上昇を認めた割合は低かった(2%対15%)。

・批判的吟味
本研究は世界的な心筋梗塞の定義に基づいた初めてのRCTである。また、研究途中でのデータの抜け落ちがない点でしっかりしたデータ収集がなされていると考えられる。先行研究と比較すると高感度トロポニン陽性の割合が低いものの種々のエンドポイントにおける結果の一貫性からはより大きなstudyでも結果は変わらないだろうと筆者は述べている。
一方で、日本人のデータは含まれておらず、日本で適応できるかどうかは疑わしい。また、高感度トロポニンの優位性を調べる研究でありながら、アウトカムの評価(心筋梗塞の診断)に高感度トロポニンを使用していることは研究デザインとして妥当なのかやや疑問が残る。高感度トロポニンの優位性について実証するためにはより一層の研究結果が望まれる。

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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科