バロキサビルは合併症のないインフルエンザに有用か

Baloxavir Marboxil for Uncomplicated Influenza in Adults and Adolescents
Hayden FG, et al.
N Engl J Med. 2018 Sep 6;379(10):913-923. doi: 10.1056/NEJMoa1716197. PMID: 30184455

BACKGROUND:
現在 M2 イオンチャネル阻害薬、 ノイラミニダーゼ阻害薬の 2 つが広く使用されているが、 今蔓延しているインフルエンザウイルスは M2 イオンチャネル阻害薬に対して耐性があり、 ノイラミニダーゼ阻害薬に対する耐性の出現は脅威のままである。 インフルエンザ 感染症に対してさらなる有効な抗ウイルス必要であり、 本臨床研究が施行された。 バロキサビルはインフルエンザキャップ依存性エンドヌクレアーゼを選択的に阻害し、 in vitro で は既存の抗インフルエンザ薬の耐性株も含めて抗ウイルス活性を示してきた。

METHODS:
本研究では、 合併症のないインフルエンザ患者を対象として第II相・第III相試験が行われた。 第II相試験ではバロキサビルとプラセボ、 第III相試験ではバロキサビルとオセルタミ ビル・ プラセボとの比較が行われ、 両試験とも主要評価項目は症状緩和までの時間であった。 第III相試験は 2016 年 12 月~2017 年 3 月に施行された。 ランダム化されたのはインフ ルエンザ様症状を呈した日本とアメリカの 12~64 歳までの 1436 人で、 最終的に 1366 人 が残った。 20~64 歳まではバロキサビル群・オセルタミビル群・プラセボ群にそれぞれ 2:2:2 でランダムに割り付けられ、 12-19 歳まではバロキサビルとプラセボ群にそれぞれ 2:1 で割 り付けられた。
マスキングに関しては、 本試験は二重盲検ランダム化比較試験だが、 著者のデータへのアクセスは秘密保持契約によって制限はなく、 データはスポンサー(塩野義製薬)によってま とめられた。 またスポンサーによって雇用されている統計学者によって分析がなされている。
主な組み入れ基準は、 発熱・全身症状・呼吸器症状でインフルエンザと診断された 12-64 歳までの患者で、 入院を要する重症例、 施設入所者、 気管支喘息などの慢性呼吸器疾患、 神 経疾患、 心疾患、 易感染性(免疫抑制剤使用者・担癌患者・HIV 感染者)など合併症を有する 患者は全て除外された。
臨床的なモニタリングとして、 患者自身が毎日インフルエンザ関連の症状(咳・咽頭痛・頭 痛・鼻詰まり・体熱感/悪寒・筋肉/関節痛・倦怠感)の重症度を 4 段階のスコア(0~3 点)で、 全身的な健康状態を毎晩 0~10 の点数で評価した。 また採血や尿検査も決められた日にち に施行された。

RESULT:
主要評価項目として第II相・第III相試験ともに症状緩和までの時間(定義:レジメン開始 からインフルエンザ関連の7つの症状全てが 21.5 時間以上、 0-1 点になるまでの時間、 第III 相試験でも同様)が設けられていたが、 第II相試験ではプラセボ群と比較してバロキサビル 群で 23.4~28.2 時間短くなった(p<0.05)。 また第III相試験では、 ITTI(intention-to-treat infected population)(定義:reverse-transcriptase-polymerase-chain-reaction assay で陽 性)に 1064 人(インフルエンザ A 型[H3N2]感染が各群で 84.8~88.1%で認められた)が該当 し、 バロキサビル群では 53.7 時間(95%信頼区間: 49.5-58.5)、 プラセボ群では 80.2 時間 (95%信頼区間: 72.6-87.1)(p<0.001)と有意に症状緩和までの時間が短くなり、 またレジメ ン開始後1日でのウイルス量はバロキサビル群で大きく減少した。 一方でバロキサビル群 とオセルタミビル群との比較では症状緩和までの時間に差はつかなかった。
有害事象(下痢、 気管支炎、 嘔気、 頭痛、 めまい、 ALT[alanine aminotransferase]上昇な ど)については、 バロキサビル群で20.7%、 プラセボ群で24.6%、 オセルタミビル群で24.8% に認められた。 またバロキサビルの感受性低下につながるI38T/M/F置換をともなうポリメラーゼ酸性蛋白の変異は、 第II相・第III相試験それぞれでバロキサビルを投与された患者の うち 2.2%、 9.7%で認められた。

CONCLUSION
合併症のないインフルエンザ患者において、 単回のバロキサビル投与は明らかな安全上の懸念なくプラセボと比較して症状緩和までの時間において優れており、 レジメン開始後1 日でのウイルス量減少についてはプラセボ・オセルタミビルの両方と比較して優れていた。 しかしながら、 治療開始後のバロキサビルに対する感受性低下という事実もまた観察された。

LIMITATION
内的妥当性については、 二重盲検ランダム化比較試験ではあるが、 デザインした人のデータへのアクセスが制限されていない、 分析がスポンサーによって雇用された統計学者に よって行われている、 など挙げられる。 外的妥当性については、 合併症のない患者に制限さ れており、 重症者が除外されていることが主に挙げられる。

IMPLICATION
バロキサビルは今後、 合併症のないインフルエンザ感染症に対して臨床効果が期待できるかもしれない。 また現在世間でオセルタミビルの 10 代への使用に懸念があるため、 もし コストが優れているのであれば今後バロキサビルは代替薬となりうる。 しかしながら、 現段階では症状緩和までの時間を短縮する以上のメリットは乏しいと考えられる。

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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科