顔の表情で病状悪化を予測できるか?

What Faces Reveal: A Novel Method to Identify Patients at Risk of Deterioration Using Facial Expressions
Crit s Med. 2018 Jul;46(7):1057-1062

この研究は、一般床の患者の病状悪化のリスクを顔の表情を使い予測する事ができるか検討するものであった。
UKのLondon Community Hospitalの一般床入院中患者の中で病状悪化のリスクにあると判断された34人の患者の顔の表情を捉えた5分間のカラービデオを録音し、Facial Action Coding System(FACS)のAction Units(AU)を25画/秒の7500枚全てで記録し、1枚ずつ結果にblindされたFACS専門の心理学者が評価した。
AUをupper face(UF), head position(HP), eyes position(EP), lips and jaws(LJ),lower face(LF)に分けて、臨床的な指標であるNational Early Warning Score(NEWS)と繋げて評価する。最多のAUは、UFではAU 43 (eyes closed, 73%)、HPではAU 51 (11.7%, head turned left)、EPではAU 62 (5.8%, eyes turned right)、LJではAU 25 (44.1%, lips parted)、 LFでは、AU 15 (67.6%, lip corner depressor)であった。ある特定の表情(Facial Displays; FD)とICU入室に関係があった。目を閉じて(AU43)口角が下がる(AU15)を基本の表情として、FD1 : (基本の表情に加えて、口が開く[AU25]i.e. FD1:(´A`), p < 0.013)、FD2: (基本の表情に加えて、頭部が左右どちらかに回旋する [AU51, AU52]i.e. FD2:←(´⌒`)→, p < 0.003)、FD3: (基本の表情に加えて口が開き [AU25]頭部を左に回旋する [AU51]i.e. FD3:(´A`)→, p < 0.002)と表情の組み合わせを作成してICU入室との関連を検証すると、FD1ではICU入室がOR8.7 (1.3-5.7,p=0.01)、FD2では18.3(1.7-188.2, p=0.0037)、FD3では∞(信頼区間なし、p=0.002)であった。FD1、FD2、FD3をそれぞれ1点、2点、3点としたVIEWS Scoreを仮定したところ、VIEWS+NEWSをそれぞれ独立した共同変数とした新しい1つのモデルを使用するとICU入室がC-index 0.71で予測できた。
こうして、パターンのある表情は、病状悪化悪化にある一般床入院患者で確認することができることがわかった。これが、現在のスコアシステムのリスク予測を今後大きく変えるツールになるかもしれない。
この論文を受け、AIの進歩と患者を見るときは所見やデータだけには頼ってはいけない事を学んだ。最近新聞などのコラムで、病院受診するために3時間待ってたった3分の診察、しかも医師は顔も見てくれず、画面のデータだけを見ているなどと書かれたものを目にするが、集中治療領域のみでなく日々の診療の中での表情の大切さについて見直せる部分があるのかもしれない。膨大なデータの中から統計的に診断を下せるAI、人が勝てる部分としては、データなどの目に見えるものではなく、人が人に直接接することで感じる「直観」などではないかと考える。
今後の研究課題としては、より大きな母体数での研究(例えば、同意書を自身で書けない人の同意を身内に同意してもらうなど)、さらには病態悪化にない患者の表情を記録したコントロール研究も面白いだろう。

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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科