新着記事

Lancet Respiratory Medicine:胸部手術の片肺換気では高PEEP・リクルートメントは肺合併症を減らさなかった ― PROTHOR試験

勉強会
2026.08.12 麻酔科抄読会サマリー

The Writing Committee and Steering Committee of the PROTHOR Collaborative Group.
Effects of intraoperative higher versus lower positive end-expiratory pressure during one-lung ventilation for thoracic surgery on postoperative pulmonary complications (PROTHOR): a multicentre, international, randomised, controlled, phase 3 trial.
Lancet Respir Med. 2026;14:17–28.
DOI:10.1016/S2213-2600(25)00330-3

目的

胸部手術における片肺換気では、高PEEPとリクルートメント手技によるopen-lung strategyが術後肺合併症(PPC)を減少させるかは明らかでない。本研究では、高PEEP+リクルートメントと低PEEP+リクルートメントなしを比較し、PPCへの影響を検証した。

PICO

P:BMI<35 kg/m²、片肺換気を要する胸部手術患者 2200例
I:PEEP 10 cmH2O+定期的リクルートメント
C:PEEP 5 cmH2O、リクルートメントなし
O:術後5日以内のPPC複合アウトカム

方法

74施設28か国で実施された多施設国際共同第Ⅲ相RCT。2200例を1:1に無作為割付し、全例で肺保護換気(片肺換気時VT 5 mL/kg予測体重)を実施した。主要評価項目は術後5日以内のPPC複合アウトカムで、無気肺、肺炎、ARDS、胸水などを含めた。副次評価項目として術中合併症、重症PPC、ICU入室、90日死亡などを評価した。

結果

主要評価項目であるPPCは高PEEP群53.6%、低PEEP群56.4%で有意差を認めなかった(絶対差−2.68%、95%CI −6.36〜1.01、P=0.155)。各PPC構成要素や重症PPCにも差は認めなかった。一方、高PEEP群では術中低血圧(37.3% vs 14.3%)および新規不整脈(9.9% vs 3.9%)が増加した一方、低酸素血症に対するレスキュー介入は少なかった(3.3% vs 8.8%)。高PEEP群ではDriving pressure低下と酸素化改善を認めたが、これらは術後転帰改善には結びつかなかった。

会場での議論

・現在は個別化PEEPが主流であり、今回、それより以前に行われていたようなHigh vs Lowで比較したのはなぜか?
→Open lung戦略とPermissive astelectasis戦略があるが、Open Lung戦略があまり良くない点もあったので行ったのだと思われる。

・合併症がやや多いように感じたが、具体的に何が多かったのか?
→一つが飛び抜けて多いというようなものはなかった。

・主要評価項目の判定基準の合併症13項目に重症度に大きく差があると思うが?
→そこが今回の研究の弱い点だと思われるが、各項目毎に比較は行われている。

・低血圧がHigh PEEPで多かったとの報告だが、昇圧剤の使用等での比較なのか?
→血圧に関しては表に載っていただけのようだったと思われる。

・麻酔方法は?
→術後疼痛管理など目標は設定されている。具体的な管理は麻酔科医の裁量及び各施設の診療方針・ガイドラインに従うということになっている

・High PEEP戦略は元々はARDSを対象としたICUでの呼吸管理から生まれた考え方であり、肺癌はあるものの肺の機能は問題ない患者を対象としても変わらない可能性があり、また個別化PEEPも手技が煩雑および手術状況で至適PEEPも変わってくると考えられ術中の対応は難しいと思われる。
その点、High or Lowは実臨床で取り入れやすい簡単な介入である。重要なのはPEEPではなく、リクルートメント手技で肺を広げることであり、今回はリクルートメント手技をする・しないも変わっており、著者達の恣意を感じる。ただ結局はそこを含めても差がなかったとのことなので、他の循環・呼吸管理をしっかり行った上で考えていくべきことだとは思う。