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術中エスケタミンと産後うつ(PPD)

勉強会
2026.06.11 麻酔科抄読会サマリー

Intraoperative Esketamine and Postpartum Depression Among Women With Cesarean Delivery : A Randomized Clinical Trial

JAMA Network Open. 2025;8(2):e2459331.

目的

エスケタミンは、先行研究において産後うつ病(postpartum depression: PPD)の発症率を低下させることが示されている。しかし、現在のエビデンスは、実臨床におけるエスケタミンの有効性を十分には反映していない。本研究の目的は帝王切開を受けた女性において、術中のエスケタミン投与が産後うつ病の予防に有効であるかを評価することである。

PICO

P:帝王切開を脊髄くも膜下麻酔でand/or硬膜外麻酔で施行する産婦(単施設RCT)
I: エスケタミン 0.25mg/kg +生理食塩水20ml (胎児娩出直後、20分静注)
C:プラセボ 生理食塩水20ml (同等外観・同量、胎児娩出直後、20分静注)
O:産後6週 EPDS≧10点 (PPDスクリーニング陽性率)

結果

・合計308名の妊婦が、エスケタミン群(154名)または対照群(154名)のいずれかに無作為に割り付けられた。
産後6週時点における産後うつ病(PPD)の発症率は、対照群と比較してエスケタミン群で有意に低かった(10.4%[16例] vs 19.5%[30例]、相対リスク[RR]0.53、95%信頼区間[CI]0.30–0.93、P=0.02)

・術中副作用(エスケタミン群で有意に増加)(めまい、夢遊体験、解離状態)は一過性。術後3日以内・6週間以内の有害事象は群間差なし。(p=0.11)

会場での議論

・産後6週のPPDスクリーニング陽性率が低下(10.4% vs 19.5% )
一方、産後1週は有意差なし。(先行RC Tの多くで1週での有意差が報告されており結果が異なる)
→他の研究ではうつ防止効果が1~2週間続いた報告はあったが、6週間というのは比較的他の研究に比べても効果が長く続いている。

・pragmatic trial として実臨床に近い環境で実施。患者背景や周術期管理のばらつきを許容した設計。

・鎮痛スコア(NRS)は改善しなかったが、IV-PCAボーラス回数は減少。軽度の鎮痛補助効果の可能性がある。

・単回投与でも効果を認めており、実用的な投与プロトコルと言える可能性が高い。

・本文中にCSEAを受けた妊婦もいるとの記載があったが、CSEAの妊婦におけるiv-PCAと硬膜外麻酔方法の管理方法はどうなっていたのか。
→特に本文中に記載がなし。硬膜外麻酔による鎮痛スコアへの影響は不明。

・エスケタミン以外(例えばプロポフォールなど)でも効果がでる可能性もあるのでは?
→鎮静薬にかかわらず+αで処置をしてもらえたことに対する満足感が効果を来した可能性もあるのでは?
(患者同士で麻酔方法について後話した際にエスケタミンを投与された群では、鎮静されたことを実感する可能性があるのではないか)

・エスケタミンの副作用によって自殺などの重篤な事態は起きていないか?
→6週間は生存確認できている。
ただしケタミンでも鮮明な悪夢などが副作用で起こることはあり、使用するなら注意が必要そう。

・日本ではまだ採用されておらず、当院での外的妥当性は不明だが、一方で麻酔科医が産後うつに長期に渡って影響できる可能性が示唆されており、意義が大きいと言える。