脊髄は眠らない2

 大脳と脊髄の総合的な働きが必要な反射もある。

 男性機能の喪失インポテンツは世の男性のみならず、奥方にとっても関心事である。多くの場合は心因性で脊髄の勃起中枢は正常であることが多い。大脳皮質に火がつかないのである。この検査方法に、患者さんのペニスに紙テープを張り付けて眠ってもらうと言う、きわめて単純な方法がある。睡眠中夢を見る「逆説睡眠期」にはペニスは勃起する。夢を見たことは忘れてしまうことが多い。しかし勃起現象が起これば、紙テープは見事に破けている。また夢を見なくても膀胱に尿が充満すると反射的に勃起する。いわゆる「朝立ち」現象である。この場合、治療は泌尿器科よりも心理療法を優先する。

 ついでながら、ペニスは三本の海綿体で勃起する。左右二本の陰茎海綿体と中央の尿道海綿体である。膀胱が充満して反射的に勃起するのは陰茎海綿体だけで、尿道海綿体は勃起しない。陰茎の亀頭は尿道海綿体の先端が膨らんだものであるから、排尿反射では勃起しない。

 「朝立ちや、小便までの命かな」

 これに比べ、尿道海綿体の勃起開始には大脳皮質の働きが重要である。尿道海綿体の勃起で尿道の奥は狭くなり排尿はできなくなる。これは精液の膀胱内への逆流防止に重要である。脊髄損傷の患者さんでも陰茎を刺激して脊髄反射で射精することが可能である。しかし脊髄が損傷されているために大脳皮質からの刺激が届かないと、尿道海綿体の勃起が不十分で精液は膀胱内に逆流してしまう。こうした患者さんが自子を望む場合、膀胱内の尿から精子を集めて人工受精しなければならない。

 レストランでは食欲のあるのは食欲不振とは言いません。念のため。

※このコンテンツは、当科顧問橘滋國先生の著書である「体の反射のふしぎ学ー足がもつれないのはなぜ?」(講談社 ブルーバックス 1994年)を元に改変・編集したものです。

このサイトの監修者

亀田総合病院
脊椎脊髄外科部長 久保田 基夫

【専門分野】
脊椎脊髄疾患、末梢神経疾患の外科治療