スポーツ医学とは11- スキーやスノーボードによる外傷

ちょうどこの文章が載る頃には、バンクーバー冬季オリンピック直前のことと思います。私個人はおそらくスノーボードのナショナルチームドクターとして北海道での合宿に帯同しているはずです。
そこで今回は冬季スポーツ、その中でもスキー・スノーボードの外傷についてお話いたします。

スキーとスノーボードは同じ雪上を滑るスポーツですが、実は競技特性からすると大きく異なります。
スキーでは滑走時に体が前方を向いており、計2枚の板がそれぞれの足についていて、強い力がかかると板がはずれるようになっています。またストックを両手に持つため、これでバランスをとったり、ターンのタイミングをはかることも可能です。

一方スノーボードでは滑走時に体が進行方向に対して垂直(側方)に向いています。両足は1枚の板で固定され、基本的には板がはずれないようになっています。また両手には何も持たず、腕を広げ、腰をおとすことでバランスをとります。

このような競技特性があるため、スキーとスノーボードでは起こりやすい外傷も異なります。

スキーでは一般的に下肢の外傷が多いとされています。例えばバランスを崩して後方重心になり、スキー板の内側のエッジへ体重がかかってしまうと膝に急激な屈曲とねじれの力がかかります。そして「前十字靱帯」という膝の中にあるきわめて重要な靭帯を損傷してしまいます。この靭帯が切れてしまうとスポーツに伴う急激な方向転換動作に対応できなくなるため、手術になる場合が多いです。他にも、片方の板の内側のエッジが雪面に引っ掛かってしまい前方へ転倒すると、膝の内側の靱帯である内側側副靱帯を切ってしまいますし、転倒時に固いブーツのちょうど上端で脛の骨を折ってしまう場合などもあります。

とはいえ、スキーにも上肢の外傷があります。多いのがストックによる親指の靱帯損傷です。ストックを握ったまま転倒してしまうと親指が開いた状態で地面に手をつき、このために親指の横(人差し指側)にある尺側側副靱帯をひっぱってしまうのです。この怪我は「skier's thumb(=スキーヤーの親指)」と呼ばれるくらいスキーヤーで特徴的に発生します。

一方スノーボードは一般的に上肢の外傷が多いとされます。これはスキーのように転倒しそうになった際にストックでバランスをとることができないため、手をついて転倒するからだ、と推測されます。そのため、手首の骨折である「橈骨(とうこつ)骨折」、手の骨折である「舟状骨骨折」、肘の後方への脱臼などが多いです。他には、転倒して手を雪面についたものの、板がそのまま滑り続けてしまうと肩関節の前方脱臼を起こす場合があります。スノーボードの板は面積が広いので安定しており、上半身はバランスを崩していても板は雪面に平行なまま滑り続けてしまうために起こります。

スノーボードに特徴的な下肢の外傷としては「snow-boarder's ankle(=スノーボーダーの足首)」と呼ばれる距骨(きょこつ)の骨折があります。これは足関節を構成する骨なのですが、ジャンプ後につま先側に重心が移動してしまい、着地時に過剰な衝撃が加わることで起こるとされています。競技動作を理解して初めて診断が可能になることもあり、注意深い診察が必要になります。

以上、今回はスキー、スノーボードによる外傷についてご紹介しました。これらのスポーツを行う上で痛みがある、不安感がある、といった場合には是非当院スポーツ医学科の受診をお勧めいたします。

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スポーツ医学科 大内洋

このサイトの監修者

亀田総合病院
スポーツ医学科主任部長 大内 洋

【専門分野】
スポーツ整形外科、関節鏡手術、スポーツ整形外科疾患に対する超音波診断
PRP療法、体外衝撃波、高気圧酸素治療の最新治療法