播種性トリコスポロン症

(2014年10月7日更新 亀田総合病院 呼吸器内科)

トリコスポロンは、呼吸器領域では、夏型過敏性肺炎の原因抗原として有名ですが、近年、日和見感染として発症する播種性トリコスポロン症が問題となっております。

概念

・ クリプトコッカスと同じ担子菌系酵母であるトリコスポロン属による感染症である。40菌種以上あるが、原因真菌のほとんどはTrichosporon asahiiである。

・ 血液・造血器系疾患の治療に伴う免疫抑制、好中球減少を起因として発症する。致死率は70%であり、予後不良な疾患である。
(田代隆良らトリコスポロン症.検査と技術 1995:23:453-454)

・ 血液疾患患者の深在性真菌症では、カンジダ、アスペルギルス、接合菌につぎ、頻度が高いとされている。(Clin Infect Dis. 2006 Mar 15;42(6):753-7)

・ 近年、キャンディン系抗真菌薬投与中のブレイクスルー感染症としてのトリコスポロン症も報告されている。

臨床像

・ 侵襲性感染症としては真菌血症が多く、肺、腎、肝臓、中枢神経、目および皮膚など全身に播種性病変を形成する。

・ 臨床経過は播種性カンジダ症と類似している。すなわち、抗菌薬不応性の発熱、肺炎、肝機能障害、腎障害など多臓器症状を呈する。

診断

・ 本性を疑うときに、最も重要なのは発症リスクを押さえておくことである。特に好中球減少とキャンディン系の抗真菌薬投与がリスクとなる。


播種性トリコスポロン症

・ 確定診断は、他の真菌症と同様に、微生物学的検査、病理学的検査で行う。

・ 喀痰、便、尿からは定着菌として検出される場合もあり、本来無菌的な血液、髄液などから検出されたら原因真菌と考える。

・ 肺は病変が生じやすい重要臓器であり、肺におけるトリコスポロン症は、血行性に播種した真菌が微小血管から肺胞内に穿破する。胸部X線所見は、びまん性のすりガラス陰影、浸潤影を呈する。

・ 全国調査では、β-D-glucanの感度は81%と報告されており、感度は高い検査である。ただし、アスペルギルスやカンジダでも陽性になるため、特異性は低いことに注意する。
(園田尚子ら トリコスポロン症 臨床と微生物 2011 Vol38 No2 3 p59-63)

治療

・ まだ質の高いエビデンスは確立されていないが、アゾール系、特にVRCZに対する感受性が良好とされている。

(Eur J ClinMicrobiol Infect Dis. 2002 Dec;21(12):892-6.)

・ キャンディン系薬は、本症に対して無効なので注意する。


播種性トリコスポロン症

参考文献

・ 深在性真菌症のガイドライン作成委員会 深在性真菌症の診断・治療ガイドライン 2014 協和企画

・ 園田尚子ら トリコスポロン症 臨床と微生物 2011 Vol38 No2 3 p59-63

このサイトの監修者

亀田総合病院
呼吸器内科部長 中島 啓

【専門分野】
呼吸器疾患