第1回 腫瘍内科(Medical Oncology)と私

世界最大のがん診療の国際学会ASCO American Society of Medical Oncologyのウェブサイトの中に、少し前まで腫瘍内科の歴史を紹介するビデオが複数ありました。その中で、「腫瘍内科医の発祥当時は、poison pusher(毒薬を勧める者)と呼ばれた」時期もあったそうです。私も昔日本で初期研修医をしていた頃、抗がん剤治療を受けている患者さんを受け持った経験があります。がんが縮小して効果を示している症例もあった反面、効いているのかどうか不明で、副作用で辛そうにしている患者さんも少なくありませんでした。そして学生時代に講義の中で、ある先生が「生存期間は延びたが、単に入院して辛い思いをしている期間だけ延びた」と言っていたのを記憶しています。当時は「抗がん剤治療はどれだけ患者さんに恩恵をもたらしているかわからない」というのが一般的印象であったと思います。しかし、血液内科を学んだときに、抗がん剤(化学療法)により治癒する場合も少なくないことがわかり、疾患によっては大きな効果をもたらすことを知りました。更に元来毒薬である抗がん剤の使用には、専門的な知識と技術が必要であることを感じました。

その後私は米国臨床留学の道へ進みました。アメリカで内科研修医をしている時に日本には存在していなかった「腫瘍内科Medical Oncologyを経験しました。腫瘍内科は、米国では血液内科と合わさりHematology/Oncologyという専門科になっています。そこでは血液と全ての固形がんに加え、出血・凝固などの血液疾患も扱い、緩和ケアも同時に行っていました。

日本では血液がん以外の固形がんは、外科医や、各臓器別の医師がみていましたが、米国にはすべての悪性腫瘍を診療する内科医からなる科があります。私が渡米した当時は抗がん剤といえば、アドリアマイシンや5FUなどの殺細胞薬(いわゆる抗がん剤)が主体で、治療効果も限定的で死を迎える患者さんが多く、腫瘍内科は科としてはやや人気が低かったです。しかし、がんに立ち向かうという運動が各地・組織ではじまり、2000年代に入ると分子生物学の進歩により新剤の開発が加速してから、治療効果が飛躍的に向上し、治療対象の患者さんも増加しました。そして腫瘍内科は一気に人気の高い専門科となりました。

ICUで超重症患者の診療をするCritical Care Medicineにも興味のあった私は、内科レジデント終了後どちらに進むか迷いました。しかし最終的に、日本へ帰った後に希少価値として役立つのではないかと考えたことと、がんの治療という困難な領域にやり甲斐を感じ、Hematology/Oncologyを生涯の専門分野として選びました。

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このサイトの監修者

亀田総合病院
腫瘍内科部長 大山 優

【専門分野】
がんの包括的医療、病状に応じた最善の治療の選択と実践