【耳鼻咽喉科】頭頸部がんの機能再建について

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悪性腫瘍の治療を考えるとき、治療中の有害事象をを減らすことはもちろんのこと、治療にかかわる身体機能の低下を最小限にとどめ、治療が終わったあとの本人の生活の質を保つことも重要です。

頭頸部には狭い範囲に重要な機能が集約しており、頭頚部悪性腫瘍の治療にともなって、味覚・嗅覚・聴覚などの感覚機能がそこなわれたり、咀嚼や嚥下・唾液・構音・発声といった大事な機能が低下する可能性があります。

なかでも治療に伴う機能低下として重要かつ数が多いのは、発声機能の低下・喪失です。がんやリンパ節転移が直接反回神経麻痺をおこして声帯運動麻痺をきたしたり、手術治療の過程で反回神経が損傷されることがあります。進行喉頭癌や進行下咽頭癌では喉頭摘出を行わざるを得ず、声帯とまわりの組織をすべて摘出することにより発声機能が永久的に喪失してしまうことがおおくあります。

反回神経麻痺を回避する手段として術中の神経モニタリングがあります。喉頭摘出を回避する手段として、早期の咽頭喉頭癌については、経口腔的な縮小手術の技術が近年開発・改良されています。早期〜進行咽頭喉頭癌について、放射線化学同時併用療法などが開発・改良されています。当科でも神経損傷の可能性が高い例では術中モニタリングをルーチンに行っています。また早期咽頭癌喉頭癌の経口腔的な縮小手術にも対応しております。また頭頸部外科と腫瘍内科の先生方との連携により放射線化学療法を施行し発声機能の温存が図れた例が多くあります。

これらの機能温存治療は患者のQOLを考えるときとても重要ですが、しかしながら悪性腫瘍の治療の最重要事項は腫瘍の根治であり、機能温存に目を向けるあまりに治せるがんに不十分な治療を行ってはいけません。腫瘍の状態を治療前治療中に十分検討し、反回神経を切断したり、喉頭摘出を行う場合も多くあります。

そしてまた、機能喪失にたいして機能再建が可能なのも耳鼻咽喉科の強みです。反回神経麻痺による嗄声は気息性嗄声といって息がもれるような声のかすれを起こします。患者さんが困るのは声帯が麻痺で動かないことよりも、麻痺による声帯内筋の萎縮で発生時に裂隙が出来ることです。この裂隙をうめるための治療として、外来でのコラーゲン声帯内注入療法や、甲状軟骨形成術といった声帯のボリュームを増やしてあげることで裂隙を縮小させる手術があり、いずれも当科で提供しております。

喉頭摘出後は、声帯機能が完全に失われるため本来の声は出せなくなるものの、ゲップで声を出す食道発声法や、振動子を顎下にあてて舌口腔を共鳴させる電気喉頭法などの代用音声が昔から考えられてきました。最近の動向としては、手術で分離された気管と頚部食道のあいだに手術的に一方向弁を埋め込むことで、より正常にちかい形の代用音声を獲得する手法が広がってきています。当科でも適応のある患者さまに気管食道シャント法を施行しています。

図1の説明
甲状軟骨形成術:甲状軟骨に開窓しゴアテックスを埋め込むことで外側変位した声帯を中央に押し戻し、萎縮を補完します

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図2の説明
気管食道シャント:一方向弁と気管孔の用手圧迫により発声時には気管から咽頭に空気を送り込み、嚥下時には気管に食物が落ち込まないようブロックします。


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亀田総合病院 耳鼻咽喉科 部長
越智篤

このサイトの監修者

亀田総合病院
腫瘍内科部長 大山 優

【専門分野】
がんの包括的医療、病状に応じた最善の治療の選択と実践