第5回 フェロー2・3年目

今回は、フェロー2年目と3年目の各track(研修方法・キャリアプラン)についてです。trackの詳細は下記の通りです。

Clinical track

主に開業医を目指すコースです。出来るだけ沢山の症例を診るように外来を週4日くらい行います。幅広く経験するために、指導医を定期的に変更することが可能です。アメリカの大学病院の臨床医学主体の指導医は大体20人くらいいます(基礎研究主体の指導医も別に20人くらいいます)。患者さんは化学療法や合併症で時々入院してくるので、その都度病棟へ行き、病棟の担当医(研修医とフェロー)へ病状と方針の説明をします。そのとき自分より後輩の医師には指導もします。そこの施設の臨床試験にはフェローは全員参加していますので、それを通じて臨床試験の経験も積みます。また、下記に述べますが、開業医も臨床試験に参加できる場合もあるので、臨床中心のキャリアでも研究活動を続けることも可能です。一般的に米国ではリサーチに投じられている資源(人的・物的)が桁違いで、日本とは異なる部分があります。

Translational research track

将来大学病院のfaculty(教員)になったり(アカデミックキャリア)や、最近は開業医でも複数(3人ほどのグループから20人ほどの大きなグループもある)の医師から構成される開業医グループがあり、そういうグループでは大学病院並に専門化し、臨床試験まで行うこともあります。たとえば乳がんの専門家になるには、フェロー2年目から乳がんの臨床指導医と、その指導医がもつラボ(研究室)、または一緒に研究している基礎系のfacultyのラボで研究をします。臨床研究は、私が教育を受けたノースウェスタン大学はECOG施設の1つでしたので、そこの試験をしたり(cooperative group trial多施設共同試験)、自ら独自のプロトコールを作製して臨床試験をしたり(institutional trial施設独自の試験)、drug company trialという製薬会社がスポンサーしている臨床試験を行います(既に試験プロトコールが出来ており、一番簡単)。クリニックは初年度は万遍なく経験できるように各フェローに外来があてがわれますが、2年目以降は自分で選択でき、自分の得意分野を決めることが出来ます。その後指導医から仕事をオファーされ、そのまま施設に残る人もいれば、職探しをして他の施設へ移る人もいます。どこへ行っても自分の興味のある領域の診療と研究を続けることが出来ます。

Basic research track

基礎研究者としてキャリアを積みたいひとのキャリアプランです。ノースウェスタンでは3年間、外来を最低週1日やる必要がありますが、残りの時間は基礎の研究室で研究をすることができます。この道を選ぶ人は少数派ですが、中には基礎研究が好きな医師もいるので確立されたキャリアプランとしてあります。大学やがんセンターは医師養成機関であると共に、研究機関でもありますので、大学ではこちらのtrackも非常に重要です。通常大きながんセンターなどでフェローをやる医師に多いのではないかと思います。例えばNIH(National Institute of health)などです。



ノースウェスタンは開業を目指す医師が6割位で、残りはtranslational research trackで、時々basic researchのひともいました。開業が多いのは、収入が多いからと、やはり臨床の仕事が好きなひとが多いからです。Translational research trackへ進むと、将来は各大学やがんセンターのスタッフ医師となり、その道の専門家になります。そしてECOGやSWOGなどのグループでリーダーをやったり、ASCOのような学会での役員をやったり、リサーチと診療に加え政治的な仕事もするようになります。また大学やがんセンターではフェロー、研修医、学生がいますので、彼らを教育する仕事もあります。

アメリカのアカデミック医療機関(大学やがんセンター)では既に確立されたキャリアパスと仕事内容があります。努力するとさらに発展させたり、より高い地位へ就くことも可能で、一般的に日本よりもキャリアの機会が多様で豊富と思います。また、アメリカには、日本では多い小規模病院が少なく、入院診療は地域の中核病院で行われます。また開業医も患者が入院すると自ら病院へ出向いて診療をしますので、そこで他の医師と協力してレベルの高い医療を行うため、一般的に知識と技術を高めるように頑張っています。そのため、病院には、フルタイムの勤務医、地域の開業医が多数集まっています。都市部の大病院や大学病院では規模は更に大きくなります。このように米国では医師は病院を中心に集約されており、日本の施設とは医師の層の厚さが異なります。同様に事務系職員や看護師、薬剤師も病院に集約化される傾向があり、アメリカの大病院は一箇所で医師を含むスタッフが数万人規模で働いています。例えばノースウェスタン大学病院では主治医権のあるスタッフ医師は1000人を越えていました。フェローと研修医も入れるともの凄い医師数になります。このように米国の各病院では人的資源が豊富で、そのために医療レベルが高くなっています。当然動くお金の額も異なり、全てにおいてスケールが違います。ヨーロッパからやってきた指導医が私にこう言ったのを覚えています。「一度アメリカに来ると、もうヨーロッパには帰れない。資源が違いすぎる。」アメリカに永住する日本人も同様に感じているのではないでしょうか?

日本でも医療システムが変われば米国に近づくかもしれません。日本人は限られた資源で地道に努力することが得意なので、もしもう少しだけ資源が増えれば、素晴らしくなるのではないでしょうか?

このサイトの監修者

亀田総合病院
腫瘍内科部長 大山 優

【専門分野】
がんの包括的医療、病状に応じた最善の治療の選択と実践