脳血管内治療の未来

私がまだ医学部4年生だった1988年、外科の病棟には胃切除を受けた患者さんが沢山入院していました。患者さんたちは術後、元気になるとお互いにお腹を見せあって、"俺なんて20針も縫ってあるよ"などと自慢気に話をしていたものでした。この開腹手術を受けた多くの患者さん達は実は胃がんではなく、胃潰瘍で手術していたのでした。ところがその後、胃酸分泌を強力に抑えるH2ブロッカーやプロトンポンプ阻害薬などの内服薬の普及により、胃潰瘍で開腹手術を受ける患者さんはゼロになりました。さらに近年ピロリ菌の除菌が普及すると胃がんの患者数も減り、また内視鏡や腹腔鏡の発達と共に、従来の開腹手術の件数は大幅に減ってきました。つまり医学の進歩は言い換えると外科医の失業とも言えるのです。 
振り返って脳卒中の治療も、現在はカテーテル治療が主流ですが、将来脳動脈瘤に対する分子標的治療薬や遺伝子治療などが登場すれば、当然カテーテル治療もその役目を終える時が来る可能性があります。重篤な脳梗塞の原因となる心臓の左心房内の血栓が血流に乗って脳動脈をつまらせる塞栓症も、現在はカテーテル治療が最も有効ですが、この左心房内に血栓のできるスペースをなくすような新たなデバイスが近年登場し、これを心房細動患者さんに埋め込むことで、脳梗塞の患者数が大幅に減少することも期待されています。さらには原因となる心房細動を遺伝子治療や分子標的治療薬で治せるようになれば、脳梗塞リスクはさらに減少し、我々脳血管内治療医の役目はやがて無くなることも予想されます。

これは医学が進歩すればするほど、より体に楽で入院期間の短い治療へとシフトして行くことを示しています。一方で、カテーテル治療の近年の進化は眼を見張るものがあり、毎年のように新しいデバイスや新しいエビデンスがどんどん誕生していますので、この治療は今後も脳卒中治療の中心を担っていくでしょう。寝たきりになることが多い脳卒中をこうした先端技術で予防・治療して行くことは医療費の節約や介護負担の軽減にも寄与するので、持続可能な社会を支える大きな意味を持っていると言えます。

脳血管内治療科 門岡 慶介

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このサイトの監修者

亀田総合病院
脳血管内治療科主任部長 田中 美千裕

【専門分野】
脳卒中の外科治療、脳血管内手術、脳機能解剖学、脳循環代謝学、脳動脈瘤に対する血管内手術、頚動脈ステント術、脳血管奇形、脳動静脈奇形、脊髄血管奇形、顎顔面血管腫