胎児期に診断された血管輪の1例
ケース・カンファレンス
胎児期より指摘され出生後に動脈管が閉鎖する前に3DCTを施行できた症例です。
はじめに
- 胎児期から心血管の走行異常が疑われ、出生後血管輪の診断が確定した症例を経験した。
- 胎児心エコー検査におけるスクリーニングにthree vessel trachea viewが導入され、血管輪の胎児診断は増えている。
- 胎児期に疑われた経過と出生後の経過、退院後の注意点について発表する。
症例:母体 妊娠経過
- 18歳 初産婦 自然妊娠成立 妊娠初期は他院通院。 -2.4SD FGR認め紹介。在胎28wkの精密超音波検査で胎児心血管系奇形(右側大動脈弓、左鎖骨下動脈起始異常、血管輪)指摘。継時的な超音波評価にて気道の閉塞リスクがないか評価をした。
- 家族に状態について妊娠中にお話しし、出生後にNICU入室にて精査をする旨お伝えした。
症例:出生時情報
- 39wk1d 陣痛発来 分娩時severe PD認めたためNRFSの適応で吸引分娩にて出生。
- Apgar 8/9 初期処置のみ
<出生時緒測>
体重2876g(-0.3SD) 身長 49.0cm(+0.3SD) 頭囲32.5cm 胸囲31.5cm
入院時身体所見
- Vital sign: BT36.9℃ HR140回/分 RR35回/分
BP60/40mmHg SpO2 100%
姿勢:四肢軽度屈曲 筋緊張:良好 啼泣:あり 顔貌:異常なし
皮膚:色素斑なし
頭頸部:頭蓋骨変形なし 鎖骨骨折なし
胸部:胸郭変形なし 陥没呼吸なし
肺 呼吸音清 心雑音なし
外陰部・肛門:形態異常なし
血液検査結果
<血算>
WBC 24600/μL
RBC
Hb17.6g/dl
Plt 26.1万/μL
<生化学>
AST 216U/L
ALT 7U/L
LD 747U/L
T-Bil 2.6mg/dl
D-Bil 0.4mg/dl
CK 355U/L
BUN 7mg/dl
Cre 0.72mg/dl
<静脈ガス>
pH 7.364
pCO2 38.9mmHg
PO2 62.6mmHg
HCO3 21.7mmol/l
BE -3.2mmol/l
CRP 0.00mg/dl
AGP<20 HP<20
胸部レントゲン
胎児エコー所見
胸部造影CT所見
胸部CT 3D画像
<入院経過>
- 日齢1より経口哺乳開始し連日哺乳量増量したが、むせこみ、喘鳴出現なかった。日齢7に退院となった。
<退院時の説明・今後の注意点>
- 今後成長に伴い、喘鳴などの気道狭窄症状や嚥下困難、食道狭窄症状が出現することがある。特に感冒時には気道狭窄症状に注意が必要なことお話しした。
- また憩室があることから将来的に血圧上昇に伴う破裂、大動脈解離のリスクがあることお話しした。
- 血管輪による症状出現する場合の治療方法としては薬物療法(気管支拡張剤、ステロイド)は効果はなく手術が選択になる。
血管輪
- 胎児期に大動脈弓の発生過程で生じる疾患である。気管と食道が血管の形成する輪のなかに取りこまれて圧迫され、気道狭窄、喘鳴などの呼吸障害、嚥下障害が問題になる。
- 小児期に反復する喘鳴の鑑別疾患のひとつである。
- 血管輪以外の胎児形態異常(心血管、中枢神経系)が28%に認められるとの報告もある。
- 成人期になってKommerell憩室に拡張やねじれ、瘤が発生し、初めて呼吸障害、嚥下障害などを発症することもある。
- 血管輪により食道が圧迫され食物が停滞することによる慢性的な刺激で食道癌発生の一因になる可能性も示唆されている。
考察
- 胎児期に診断された血管輪・右側大動脈弓(RAA),左鎖骨下動脈起始異常(ALSA)・Kommerell憩室の一例を経験した。
- 出生前の診断により、事前に両親にリスクや注意点を理解してもらうことができ、出生時準備をすることができた。
- 今後成長に伴って症状が気管狭窄症状、嚥下症状が出現しないか、憩室による圧迫症状、破裂などに注意が必要である。
このサイトの監修者
亀田総合病院
新生児科部長 佐藤 弘之
【専門分野】
生まれたばかりの赤ちゃんの病気を診ます。その後の体格ののびや発達も相談を受けます。