コラム

第7回 リンパ浮腫に対する外科手術 -リンパ管静脈吻合術とは-

リンパ浮腫の治療には、大きく分けて保存的治療(第6回コラム参照)と外科治療の二つがあります。軽症なリンパ浮腫、つまりリンパ管の変性があまり進んでいない(第3回コラム参照)症例に対しては、保存的治療のみでも十分対応できます。その一方で、リンパ管の変性が進みリンパ浮腫が増悪している症例に対しては、早い段階で保存的治療に外科治療を併用することで、リンパ浮腫の症状軽減、増悪速度の鈍化、蜂窩織炎(感染)の軽減が期待できることが分かってきています。

今回は、外科治療の中でも最も低侵襲な方法である「リンパ管静脈吻合術」についてお話しします。

乳がんや子宮がん、卵巣がんをはじめとするがんの治療においてリンパ節郭清を行ったり放射線治療を行った場合、リンパ管の中を流れるリンパ液の流れが停滞してしまい、リンパ管の変性が進み、リンパ浮腫が進行します(第2回コラム参照)。

手や足から体の中心へ走行しているリンパ管は、通常、心臓の近くの"静脈角"と呼ばれる場所で、静脈(右鎖骨下静脈あるいは左鎖骨下静脈)に流入し、体液の大きな循環に戻っていきます(第1回コラム参照)。しかし、リンパ浮腫が進行するに従い、リンパ管の変性が進みリンパ管の狭窄や閉塞が起きているため、リンパ液は静脈角までたどり着くことができず、静脈に合流することができません。そのため、さらにリンパ管内の圧力が高まり、リンパ管の変性がさらに広がり、リンパ管のリンパ液の回収能力が低下してしまい、浮腫が悪化するという悪循環が続くのです。

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リンパ管静脈吻合術の大きな目的は、この悪循環を断ち切ることにあります。上肢や下肢において、狭窄や閉塞が起きている部分より手前のダメージがより少ないリンパ管を選択し、これを静脈に吻合し"リンパ管から静脈へのバイパス道"を作ってあげることで、静脈に合流できずに鬱滞していたリンパ流が解消され、リンパ管の変性をくい止めることができるようになり、浮腫の症状改善が期待できるのです。

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この手術の大きな特徴は、精度の高い顕微鏡下において行うため、2〜5カ所(重症度による)の約2〜3cmの小さな創で、出血もほとんどなく、低侵襲に行えるという点にあります。また、この手術の大きな注意点は、手術の効果はその時のリンパ管の状態に依存するということです。つまり、変性が進み狭窄・閉塞しているリンパ管が大多数を占めるような症例では手術の効果は低くなり、変性が中等度以下で狭窄の程度が低いリンパ管が多く残っていれば手術の効果は高くなります。そのため、リンパ浮腫の早期診断・早期治療は重要なのです。

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当院では、より小さな創でリンパ管静脈吻合の効果を最大限に出すために、手術前日に入院して頂き、最新の超音波などを用い最適なリンパ管・静脈を同定し、翌日の手術に臨んで頂いております。手術の翌日に手術の効果を判定させて頂いた上で退院する2泊3日(ご希望によっては1泊や2泊以上も可能)のコースを基本としています。麻酔の形式(全身麻酔、伝達麻酔、局所麻酔)につきましては、それぞれのメリットやデメリットをご説明した上で、患者様に選択して頂いております。