コラム

第11回 リンパ浮腫とスキンケア

亀田総合病院リンパケア外来では、圧迫療法やリンパドレナージの指導以外にスキンケアの指導にも力を入れています。

皮膚は私たちの体の中で一番大きな臓器と言われており、日々外環から私たちを守ってくれています。しかし、様々な要因で皮膚の働きを妨げてしまうことがあります。そのひとつにリンパ浮腫による"むくみ"があります。むくみが生じると皮膚が進展し薄くなってしまい、外からの刺激に対する防御力が下がってしまうのです。リンパ浮腫に対する保存療法において、スキンケアは見過ごされがちですが、実は私たちが思っている以上に重要なのです。

日常のスキンケアを習慣にすることが重要です。

皮膚は、私たちが思っている以上に様々な役割を果たしており、その中でも重要なものとして、角質層のバリア機能、静菌緩衝作用、温度調節、排泄作用などが挙げられます。リンパ浮腫によりむくみが進行すると、皮膚のこれらの機能が低下し、普段はなかなか進入できない雑菌やアレルゲン物質などの刺激が進入しやすくなります。また、貯留したリンパ液は栄養分が豊富なため感染が起こりやすい状況になり、第6回のコラムにもあるように蜂窩織炎やリンパ管炎を起こしやすくしてしまいます。一度感染を起こすとリンパ浮腫を悪化させてしまうことにつながりますので、スキンケアを習慣化し、日常のケアにおいて皮膚の異変に早めに気付くことが大切になってきます。

では、スキンケアとは何をすればいいのでしょうか。先ほども述べたように、リンパ浮腫によりむくんでいる皮膚が薄くなってしまい、皮膚のやわらかさが低下し硬さが増してしまいます。さらには、水分を保てなくなることで乾燥が生じます。そこで、皮膚を清潔に保ち、湿潤環境を保つことで、乾燥を予防し皮膚が働きやすい状態をお手伝いしてあげることが大切になります。

正常な皮膚

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バリア機能が失われた皮膚

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皮膚を清潔に保つためには

お風呂で体を洗うとき、みなさんはどのようにされていますか?ナイロンの垢すりボディータオルでゴシゴシと洗うと洗った感じがしてかゆみも落ち着いて気持ちいいと感じる方は少なくありません。しかし、そのような洗い方では、実は汚れはそれほど落ちてはおらず皮膚を傷つけているだけの状態になっていることが多いのです。
では、どのような洗い方がよいのでしょうか。ボディーソープや石鹸など普段使用しているものをよく泡立て、手で洗うのがおすすめです。なぜ泡で洗うとよいのかというと、泡の表面にはたくさんのくぼみがあり、そのくぼみに汚れが吸い込まれるという原理になっています。物足りない感じがするかもしれませんが、実は汚れはしっかりと落ちており、さらには必要以上に皮膚を傷つけないためバリア機能も保つことができているのです。最近では泡を作るグッズが多く売られていますので、利用されると便利です。
また、使用するボディーソープや石鹸は、中性〜弱酸性と皮膚に近い性質のものを使用することで、必要以上に皮膚のバリア機能を奪われずに済むことも覚えておくとよいでしょう。

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湿潤環境を保つためには

保湿環境をと保つためのスキンケアにおいては、現在さまざまな商品が販売されております。肌に塗りやすく使用後のベタツキが気になる方であれば、ローションやジェルタイプのやわらかいもの、乾燥が強い場合などはクリームタイプがおすすめです。また、ローションなどの後に上からクリームタイプの物やオイルタイプのものを塗布し蓋をしてあげるイメージで行うという方法もあります。保湿ローションなどを塗布するタイミングとして、入浴後約15分以内に塗布するのがよいと言われています。
弾性着衣を現在使用されている方は、注意点として、保湿後すぐに弾性着衣を装着すると繊維が弱まってしまい、必要な圧迫が得られなくなることがありますので、少し時間を置いてからの着用をおすすめしています。

保湿剤の塗り方のポイント

  1. 入浴後(あるいは水を触った後)15分以内に塗る。
    入浴後できるだけ早く塗ることで、角質内に入った水分を逃さない効果が期待できます。
  2. 全体に薄く、さーっと伸ばすように優しく塗る。
    塗る際に、皮膚への物理的刺激は避けてください。
  3. 適量を塗る。
    0.5g(チューブで指の先から一番目の関節まで、ローションなら1円玉大)が大人の両手のてひらの広さを塗る目安です。

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スキンケアにおける注意点

一方、スキンケアはやりすぎると赤く炎症を起こすことがありますので、注意が必要です。何か皮膚に異常が出た場合は、必ず自己判断をせず、主治医または皮膚科を受診するようにしましょう。リンパ浮腫においては刺激を受けやすい状況のため、皮膚が敏感になっています。製品によってはお肌にあわないこともありますので、じっくり選ばれることをお勧めします。リンパ浮腫患者様向けの製品もございますので、受診時に医師や看護師などにお尋ねください。