頭が痛いのは誰だ?

エントリー

家族志向型ケア

キーワード

家族図、システム理論、家族ライフサイクル

post236.jpg

今日は専攻医2年目の近藤先生のポートフォリオ発表でした。
頭痛を主訴に来院した7歳男児でしたが、付き添いの母の一言で近藤先生の「家庭医スイッチ」が押されました。
「ところで先生、家で祖父が厳しくて、それはこの子の症状に関係ありますか?」
患児の頭痛に対する精査に加え、家族関係を探ろうと試みました。母の口からは、同居している祖父の祖母、子どもたち、自分への厳しい態度がこぼれました。

患児の症状フォローの外来には付き添いで祖母のみが来院しました。祖母からも家族関係を聴取し、家族図を作成しました。システムを考察する中で見えてきたレバレッジポイントは「母」にあるのではないかと仮説を立てました。また、祖母から「母に問題がある」との発言を受け、更に家族関係を探るための情報収集が必要であると考えました。
患児の症状は改善していましたが、持続している点から関連病院の小児科に紹介することとし、頭部MRIで異常がないことがわかりました。その後もフォローを継続しし症状は消失しました。付き添いの母から更に情報を収集する中で母自身も患者として受診することになりました。
患者として母をみることで、母自身の成育歴や既往歴、母と祖父母の関係性も見えてきました。また、外来に当たり、臨床心理士や上級医とも相談を行い、客観的視点を得ました。医師-患者関係のバランスをとる工夫を行い外来を重ねていきました。
家族ライフサイクルの段階における課題から、家族内のサブグループの境界があいまいであることに気が付き、自身が線引きを行う役割を担いました。患児の症状は改善し、母、祖父母の関係性も徐々に良い方向に変化が見られようになりました。
今後は、近藤先生が関わることなく、家族が自らサブグループの境界を保つ力を持つサポートを行っていきます。

発表後のディスカッションでは、祖父母の過干渉と母の対立、スケープゴートとしての患児が浮かび上がってきました。また、その背景に過去の母と祖母、母・祖母と祖父との関係性も関与していることが見えてきました。
岡田先生からは、常にアンテナを張って家族関係とシステムを考察することの重要性、医師のシステムへの戦略的な関わり方が語られました。
今回の症例から、家族図を書く大切さとそこからシステムを考察する広い視野を持つことが、見えづらい問題を紐解く鍵であると実感しました。また、近藤先生にとって初めて自身が「家庭医」であることを意識的に患者に伝えた機会でもありました。困難な事例も、まるで大好きな謎解きをするような前向きな姿勢の近藤先生を同期として誇らしく思った瞬間でした。

参考文献:「家族志向のプライマリ・ケア」 S.H.McDaniel

文責:高岡沙知(専攻医2年目)

このサイトの監修者

亀田ファミリークリニック館山
院長 岡田 唯男

【専門分野】
家庭医療学、公衆衛生学、指導医養成、マタニティケア、慢性疾患、健康増進、プライマリケア・スポーツ医学