治療の選択

エントリー

救急→?
(救急を考えていたが、総合診療専門医のエントリーとしてなくなったため)

キーワード

プロフェッショナリズム、PCCM、システム


 8月15日、専攻医2年目、現在KFCTローテ中の濵田先生のポートフォリオ発表を行いました。今回は、救急ローテ中に経験した、診断と治療選択の上で、患者家族の意思決定に迷った症例が取り上げられました。
 症例は、2時過ぎのER当直で救急搬送されてきた高齢男性で、主訴は呼吸困難でした。到着した患者は明らかな努力呼吸を呈しており、挿管の必要性がよぎったようです。家族からの病歴では、高齢で心疾患や糖尿病などの既往はあるものの、農作業をするくらいの元気な男性とのこと。夜間に突然発症の呼吸困難が出現したようでした。診察や検査から、急性心不全とその背景に虚血性心疾患を疑い、治療を行いましたが、呼吸努力が強く挿管は避けられなそうでした。家族も、延命治療のデメリットを聞いて、挿管について迷いが見られたようです。
 担当医としても、救命できるのか、救命できても抜管できるのかという迷いと、自身の説明次第で家族の方針も変わりうることを経験しており、どう伝えるかを悩んだようです。しかし、本人含め家族の答えは「できるならすべてやってほしい」で一致していることを踏まえ、抜管できない可能性もあるが、医師として救命したいとお伝えし挿管。翌日カテーテル治療を行い、無事自力歩行で退院されました。
 この症例を通じて、方針決定に迷ったときに用いられる「臨床倫理の4分割表」は、時間に余裕のあるカンファレンス向きであり、救急診療で迷ったとき、情報を網羅する時間はないと気づいたようです。またプロフェッショナリズムのベースとなる臨床能力/医学的知識を高める必要性を感じたとのことでした。。
 今後のnext stepとして、PCCMの踏まえての救急での意思決定支援を知る、救命できない場合の身体的・精神的な緩和ケアや家族のケアに関心が向いているとのことでした。


post216.jpg
https://www.igaku-shoin.co.jp/paperDetail.do?id=PA02951_01 より転載

 全体ディスカッションでは、救急というセッティングでは救命を第一に考える姿勢で良いのではないか、医学的なエビデンスに基づいた見通しが立てられれば方針決定がよりスムーズだったのではないか、医師がすべての責任を背をう必要はないが、説明の仕方が患者家族の意思決定を左右しうることを意識することは大事だろう、などが出されました。
 また、「臨床能力が足りていない不安」は、果たして専門医になると解消されるのか?臨床能力はどこまであればプロフェッショナルたりうるのか?臨床能力がないから搬送を断るという選択肢は、プロフェッショナルと言えるのか?という視点も挙げられました。
 岡田院長からは、仮に救急医療のエントリーとするのであれば、システムの考察(現状のシステムの問題と改善)が必要だが、このような症例であれば、高齢者の事前指示が確認されていないことは論点になりうるかもしれないことが指摘されました。
全国(https://www.kobe-np.co.jp/news/iryou/201908/0012598107.shtml)で救急搬送における事前指示の問題が注目されており、例えば、自分外来患者のACPの聞き取りをカルテ以外の媒体で作成するなども検討されるかもしれないとのことでした。また、Cynefine frameworkにおいて、救急症例は、chaotic caseといえ、その場合対応は考えずに動け(act-sense-respond)というのが行動原則となっていることも解説されました。

文責:河田

このサイトの監修者

亀田ファミリークリニック館山
院長 岡田 唯男

【専門分野】
家庭医療学、公衆衛生学、指導医養成、マタニティケア、慢性疾患、健康増進、プライマリケア・スポーツ医学