フレイル高齢者における退院後の転帰:2年間の縦断研究 (2019年第8回RJC )
ジャーナルクラブ 第8回
2019/8/15
高橋亮太
1 タイトル
「フレイル高齢者における退院後の転帰:2年間の縦断研究」
Outcomes of hospital admissions among frail older people: a 2-year cohort study
Eilís Keeble, Helen C Roberts, Christopher D Williams, James Van Oppen and Simon Paul Conroy
British Journal of General Practice 2019; 69 (685): e555-e560. DOI: https://doi.org/10.3399/bjgp19X704621
カテゴリー research journal club
キーワード ambulatory care frailty geriatric assessment hospitalisation intermediate care primary care
2 背景・目的・仮説
●背景
フレイル 年齢上昇にともなう高齢者特有の健康状態悪化
ホメオスタシスの障害、脆弱性が増す
フレイルクライシス 急性の医療機関利用の主な原因
いくつかの評価指標が開発されている
英国 General Medical Services (GMS) 2017〜2018年 GP診療に対して適切なツールでのフレイル対応を求めている > Electronic Frailty Indexなど
このように地域でのフレイル高齢者へのサービスは推奨されているが、一方で、これらの集団が急性期病院に入院する数は増加している
病院は短期間での退院をさせるよう圧力を受けている
しかし、フレイル高齢者に対するこのようなアプローチは適切なのかという疑問があがる
短期間での退院は再入院、機能低下、施設入所、死亡などの全体的なアウトカムに影響しているのではないかという懸念。先行研究では、急性期病院から退院後の患者の短期間フォローアップを分析した研究が重であった。
●目的
そこで、本研究では、2つの高齢者集団(短期間入院と長期間入院)のそれぞれにおける長期間(2年間)フォローアップでの健康アウトカムへの影響を評価することを目的として研究を行った。
3 方法・研究デザイン
●研究デザイン 後ろ向きコホート研究
●研究対象者
*2つの集団
1)ambulatory cohort(文献11)
ノッティンガム ライチェスター 大病院 都会と田舎の両方 約110万人
674 patients (57.4% female) aged ≧70 years
大きな教育病院を退院して72時間以内 between January 2009 and November 2010
2)The inpatient cohort(文献12)
サウサンプトン やや高齢 人種の多様性が低い
246 female patients aged ≧70 years
老人病棟へ入院 between November 2009 and February 2012;
*アウトカム評価のデータ
それぞれの集団 入院した高齢者のフレイル度を評価し、アウトカムとの関連を評価
(1)死亡 Office for National Statistics death registrations by NHS Digitalとリンク
(2)病院利用 Hospital Episode Statistics
> ぞれぞれ2年間フォローする
*フレイル評価
対象となる人口や状況によって異なる(文献13)
急性期における4つの一般的な評価ツールを今回の研究では採用
1)Fried,文献14
2)Rothman,文献15
3)Rockwood,文献16
4)Hospital Frailty Risk Score (HFRS).文献17
*目的変数
(1)死亡 2年間の生存期間(リクルートした日から死亡した日まで)
(2)病院利用
多くの先行研究が、"bed-days"を病院利用の指標として採用(救急入院の回数ではなく)
> 病院滞在期間としての全体的な指標として適している
"bed-days" 入院日から退院日までの日数
*統計解析
・生存分析 フレイル指標と生存期間の関連性を分析
Cox比例ハザードモデル
・病院利用の評価
クラスカルーワリス 平均値
ピアソンカイ二乗 割合
・調整変数 年齢と性別で調整(inpatient cohortは年齢のみで調整)
・感度分析
4 結果
1)ベースラインデータの特性 > 表1
・ambulatory cohort
若い 病院利用が少ない フレイル度が低い
・フレイル度
23.2-40.2% of the ambulatory cohort
48.4-80.0% of the inpatient cohort
2)生存期間 > 表2
・2年間の生存
ambulatory cohort (78%)
inpatient cohort (57%)
・2年間での死亡 フレイル度での層別化
ambulatory cohort フレイル > 32.2-36.8% が死亡
inpatient cohort フレイル > 42.4-52.7% が死亡
3)病院利用 > 表3
ambulatory cohort フレイル
> 救急受診回数・救急入院が多い(非フレイルと比べて)
inpatient cohort フレイル
> フレイル度でほとんど差がない
4)病床日数 > 表4
ambulatory cohort フレイル
> bed-daysが長い 1.5-2.1倍
inpatient cohort フレイル
> フレイル度でほとんど差がない
5 考察
1) 研究結果のまとめ
・短期間入院の集団および長期間入院の集団の両者において
フレイル度は2年間の死亡率と正の相関が認められた
・この分析結果は、退院後の高齢者におけるフレイル集団が悪い健康アウトカムのハイリスク群であることを示唆している
2) 長所と限界
*長所
フォローアップ期間が2年と長いこと
アウトカムが自己申告ではなく、病院利用や死亡などのデータであること
bed-daysデータは病院利用評価に良い指標である
*限界
2つの対象集団が別々の地域からリクルートされた(コホート間の比較には注意が必要)
もともとの研究環境は別の研究で設定されたもの
フレイル度に関する欠損データが存在 > 除外せざるを得なかった
今回の研究は10年程度前にリクルート実施されたもの。現在の状況には適していない可能性がある
3) 先行研究との比較
過去の研究では短期間の死亡を評価 30〜90日間
> 直接の比較は困難
4) 研究結果の応用、今後の展望
高齢者の不要な入院(再入院)をどうふせぐか
今回の研究結果からは、短期間(72時間以内)の入院でも、再入院・死亡のリスクをあげる可能性を示唆
フレイル高齢者の入院の多くは、フレイルクライシス(移動能力の急激な喪失、せん妄、転倒)によるもの
高齢者に対するサービスがフレイルクライシスに対応したものにしていく必要がある
> コミュニティサポート、リハビリテーションなど
フレイルクライシスへの「一次予防」は難しい課題
一方で、フレイルクライシスとなっている高齢者は識別が容易
> 「2次予防」としてのproactive care, enhanced community support, and advance care planning.を推奨していくべき
システマチックな、多職種連携が必要
エビデンスのある方法
> hospital at home,文献33
advance care planning,文献34
comprehensive geriatric assessment 文献35
*今後のリサーチ
「2次予防」アプローチの効果を検証するような研究が必要
6 日本のプライマリケアへの意味
*日本人高齢者においても、フレイルが増加
イギリスでの事例は非常に参考になる
*退院後患者のフォローアップ
再入院、死亡のリスクを減らしていくこと
以上
このサイトの監修者
亀田ファミリークリニック館山
院長 岡田 唯男
【専門分野】
家庭医療学、公衆衛生学、指導医養成、マタニティケア、慢性疾患、健康増進、プライマリケア・スポーツ医学