multimorbidity状態の患者における目標設定:総合診療診察における質的分析 (2019年第7回RJC #2)

ジャーナルクラブ 第7回 #2
2019/07/22
高橋亮太

1 タイトル

「multimorbidity状態の患者における目標設定:総合診療診察における質的分析」
Setting goals with patients living with multimorbidity: qualitative analysis of general practice consultations
Charlotte Salter, Alice Shiner, Elizabeth Lenaghan, Jamie Murdoch, John A Ford, Sandra Winterburn and Nick Steel
British Journal of General Practice 2019; 69 (684): e479-e488. DOI: https://doi.org/10.3399/bjgp19X704129
カテゴリー research journal club
キーワード 医師患者コミュニケーション 目標設定 目標 multimorbidity 患者ケア計画 患者中心のケア プライマリヘルスケア

2 背景・目的・仮説

●背景
医師患者間の目標設定は診察における中心的な事項
現実的な健康問題に対する最終目標の共有などの目標設定は患者優先順位および好みの理解に基づくものである(文献1)
長い間の伝統として、医学における傾聴、理解、証人となることが、目標設定に含まれてきた。そして、それは、診察における患者中心のコミュニケーションによる一つのメカニズムとして表現されてきた。(文献2)
患者中心のコミュニケーションが数十年にわたり叫ばれてきた。そして、慢性疾患を抱える人々に対するアプローチの鍵となる考え方とされている。(文献1、4、5)
患者は、たいてい、医師が考えているよりも医学的な介入を必要としないだけでなく、自分のことをよくしっているGPとの継続性や近接性を必要としている。(文献6)
現代の総合診療では良いコミュニケーションを妨害する要素は多く存在(文献7、8)
患者の優先順位、選択肢、目標設定には高いレベルのコミュニケーション能力が必要となる一方で、純粋に患者中心になっているのである(文献9)
目標設定は、multimorbidity状態の患者に対する患者中心のコミュニケーションを強化する際に特に有用となる
しかし、総合診療における診療の5分の4が、multimorbidity状態の患者であるにも関わらず、(文献10)それらの患者はたびたび単一疾患ガイドラインをベースにした管理となり、結果として治療負担やポリファーマシーが増加することにつながっている(文献11、12)
医師とmultimorbidity状態の患者は、患者セルフマネジメントを改善させ、GPの仕事満足度を増加させるために、一緒に課題に取り組んでいくことが必要である
それによるベネフィットとして、ポリファーマシー、入院、医療費を削減すること、そして、患者自己効力感を高め、治療コンコーダンスを改善させ、副反応を減らすこと、そして、プライマリケアへの早期の適切なコンタクトを促進することにつながる(文献13〜15)
NICEガイドライン(文献1)による推奨事項がある一方で、プライマリケアにおけるmultimorbidity患者の目標設定に関する文献は乏しい

●目的
この研究では、患者とGPによる目標設定状況のビデオ録画を分析を通して、「総合診療における目標設定のkey componentsは何か」という臨床疑問に答えを出すことを目的として研究を実施した。

3 方法・研究デザイン

●研究デザイン 質的研究
●方法
この研究のデータは、「cluster randomised controlled feasibility trial」として英国の6つのGP診療所で実施された研究(文献16)から抽出されたデータである
予定外入院のリスクが上位2%にある患者で、新しいケアプランの適応であり、2つ以上の慢性疾患を罹患しているもの(文献17)、言語コミュニケーションが可能であり、担当GPから臨床研究への参加が妥当と思われたもの、が集められた。
3つの診療所が目標設定介入のある診療所、それ以外の3つの診療所はコントロールグループとなった。
2016年11月〜2018年7月まで実施された。
コミュニケーションおよび意思決定支援における確立されたモデル(文献18〜20)をもとに、著者らは、構造化された患者中心のステップアプローチを開発し、トレーニングモデルとして採用した。

図1 ステップは、次の6段階により成り立つ
1) preparation;
2) goal elicitation;
3) assessing options;
4) making goals SMART (Specific, Measurable, Attainable, Realistic/Relevant, and Time bound);
5) decision making; and
6) evaluation

3つの介入群の診療所で勤務するGPは、3時間のトレーニングワークショップに参加し、鍵となる概念、スキル、目標設定方法の練習、ロールプレイなどを実施した。

研究参加した患者は、A4で3ページのgoal-setting sheet (GSS)が配布された
3つのきっかけとなる質問 メモをとる空白部分がある

患者はGPとの2回の予約外来への参加を促された
1)20分間 目標設定の診察 話し合い、目標を用紙に記録する
2)10分間 6ヶ月後にフォローアップ

診察はビデオ記録され、非言語的な交流を含めて逐語的に描写された
フォーカスグループディスカッションを、GPグループおよび患者グループの両者
フォーカスグループに参加出来なかったGPおよび患者に対しては1対1でのインタビューを実施

*データ分析方法
ビデオ録画はリサーチチームの2人の分析担当者が独立的に分析した
BOX 1 ビデオ分析の枠組み
> 当初は9ステップ(オリジナルトレーニングモデル)に基づいて記述
> pre-beginning, preparation and opening, eliciting goals, assessing options, making goals SMART, decision making, summary, evaluation, and closure.
> その後、activity-based analysisで分析した(BOX 1)

この研究では、(様々な分析結果のうち)目標設定診察およびフォーカスグループインタビューから得られた目標設定プロセスにおけるキーテーマについて報告する。

4 結果

*Table 1. Characteristics of practices randomised to goal-setting intervention, and of participating GPs in those practices

表1
3つの介入群診療所において
4人の男性GP 1人の女性GPが研究に参加

*Table 2.
Baseline characteristics of patients enrolled in goal-setting group, N = 24

表2
24人の患者が目標設定診療に参加
22人が初回診療を完遂 18人は6ヶ月後のフォローアップを完遂
トータルで673分のビデオ記録であった

ほとんどの患者が、2〜3つの目標を設定した 健康や幸福に関連する目標
目標の詳細は別論文にて公表(文献16)

4人のGPがフォーカスグループインタビューに参加
残りの一人は1対1でのインタビュー

22人の患者のうち、6人がフォーカスグループインタビューに参加
2人が電話インタビューに参加した

目標設定プロセスを効率化するために必要なコンポーネントとして、4つのメインテーマが抽出された
> 図2にモデルとして図示した

図2
1)patient preparedness and engagement;
  患者の準備および契約
2)eliciting and legitimising goals;
  引き出し、合法化すること
3)collaborative action planning; and
  協同的なアクションプラン
4)GP engagement.
  GPの契約

5 考察

1) 研究結果のまとめ
GPは患者が目標を設定する際の傾聴および証人となることで重要な役割を担っている。
しかし、どのような目標を達成すべきかについてはいつも明確である訳ではない。
GPおよび患者の双方が、目標設定にむけて準備が整っていること、として、個別性のある、より公平なバランスのとれた診療が協同して作業していくことに必要である。
3つのメインコンポーネント 図2
1)patient and GP engagement and preparation,
2)supportive goal elicitation, and
3)collaborative action planning
患者は自分の健康にとってもっとも重要なことについて話し合う時間をもつことを希望している
患者は同じGPに診察してもらうことを望んでいる。通常の診療においてはケアの継続性がまれな場合であり、特に目標設定場面においてもそうであるが。
GPは患者中心のケアを提供することのプロセスと時間に価値を感じている。
目標設定は、GPおよび患者の双方に、時間とエネルギーを必要とするチャレンジングな行為である。
例えば、ある患者においては、診察と研究が何かが不明確であり、目標を準備していない。GPにとっては、適切な目標設定に悩んでいる。

2) 長所と限界
長所
この研究ははじめてプライマリケアにおける目標設定診察場面での医師患者コミュニケーションについて深く焦点をあてた研究である
10時間以上におよぶビデオ記録の分析
限界
GPおよび患者は、自己抽出したもの

3) 先行研究との比較
同じ分野での先行研究は乏しい
最近のシステマチックレビュー(文献27)

6 日本のプライマリケアへの意味

*意思決定支援に関するリサーチ
 患者の目標設定についてはこれまでに研究論文が少ない
 日本におけるリサーチが可能であれば十分に価値が高い

以上

このサイトの監修者

亀田ファミリークリニック館山
院長 岡田 唯男

【専門分野】
家庭医療学、公衆衛生学、指導医養成、マタニティケア、慢性疾患、健康増進、プライマリケア・スポーツ医学