炎症反応マーカーは重大疾患の除外に役立たない(かつ過剰診療を生む)(2019年第7回RJC #1)

ジャーナルクラブ 第7回 #1
2019/7/22
岡田唯男

1 タイトル

「炎症反応マーカーは重大疾患の除外に役立たない(かつ過剰診療を生む)」
A) Added value and cascade effects of inflammatory marker tests in UK primary care: a cohort study from the Clinical Practice Research Datalink
Jessica Watson, Chris Salisbury, Penny Whiting, Jonathan Banks, Yvette
Pyne and Willie Hamilton
British Journal of General Practice 2019; 69 (684): e470-e478.
DOI:https://doi.org/10.3399/bjgp19X704321
B) Use of multiple inflammatory marker tests in primary care: using Clinical Practice Research Datalink to evaluate accuracy
Jessica Watson, Hayley E Jones, Jonathan Banks, Penny Whiting, Chris
Salisbury and Willie Hamilton
British Journal of General Practice 2019; 69 (684): e462-e469.
DOI:https://doi.org/10.3399/bjgp19X704309
(同じデータセットからの研究のため2本まとめてレビュー。明記がない限り引用は論文Aから)
カテゴリー research journal club

2 キーメッセージ

●所見
炎症マーカーは検査されるときには38.8%が複数検査される
異常値は27.8%
陽性的中率は15.0%、(感染症6.3% 自己免疫疾患5.6%、癌3.7%)
陽性の場合 5.7 :1の割合で疾患が存在しない (LR+ 0.18)
陰性的中率 94% (LR- 0.06)
感度50%を超える検査は存在しない(除外に使えない)
CRP>50、 ESR>50でも何らかの疾患の存在は30%程度
炎症マーカーの検査の結果、血液の再検査、再診、紹介は
偽陽性群(実際に病気のない群)のほうが真陰性群より多い(1000件炎症マーカーを検査すると偽陽性が236、そのうち、710の再診、229の採血、24の紹介が6ヶ月間で発生する)
再検査が正常だった群のほうが、再検査不要と思われた群よりも疾患が多い(18.6% vs 12.5%) (再検査正常群の5.3人に一人は疾患あり)
ただしCRPの異常を7以上としているので注意(日本での0.7mg/dlに相当)

●研究の観点から
リサーチフェローの論文!(プライマリケア検査の教授が指導?)
極めて臨床的に有用な視点のRQ

3 背景・目的

●背景
炎症反応 CRP, ESR, PV(plasma viscosity)の検査数は増加しており(1 )、GPごとにそのバラツキは大きい(2)
検査目的は大きく2つ。炎症を伴う病態の診断および、治療反応のモニタリング。ガイドラインでfirst
lineの検査として推奨されているのは少ない(骨髄腫、PMR, 肺炎)
3つ目の使用(重要な疾患がないかを除外し、患者と医者が安心を担保する目的の非特異的使用)がだんだんと増えてきている(7)
倦怠感、記憶の問題、消化管症状の患者などで、慢性疲労症候群、認知症、IBSのガイドラインに推奨されるように、他の疾患を除外する目的で炎症反応が検査されることがる。このことを支持するエビデンスは存在しない。
予想外の検査結果は解釈が困難で、偽陽性は、不確実性を増加させ、患者とGPの不安を増大させ、その後の検査を連鎖反応的に誘発する(cascade
of futher tests)(11)偽陰性は間違った安心と存在する疾患の診断遅延につながる。
cascade effectの概念は新しくない(12、13)が、どのぐらいの頻度で生じるかはあまりわかっていない(14)
炎症反応マーカーのエビデンスの多くは二次医療の現場からが多く、単独の疾患を想定したものが多い。(3)
数多くの疾患がありうる状況での非特異的症状で検査がされる状況では役に立たない。

●目的
プライマリケアの現場で除外診断的に使われる炎症反応マーカーの価値を見つけ
GPに結果解釈の根拠となるエビデンスを提供し
さらなる採血やGPの再診、紹介などのcascade effectを測定する

4 方法・研究デザイン

●被験者とデータ
Clinical Practice Research Datalink (CPRD)
プライマリケアの電子カルテから匿名化されたデータを含むコホート
18歳以上で2014年に炎症反応マーカーが測定された16万人の患者
炎症反応マーカーはCRP, ESR, PV(plasma viscosity)
index date(起算日)は2014年に炎症反応マーカー検査が初めてされた日

●対照サンプル
2014年に炎症反応マーカーの検査がされていない40000人(2014年以外の年に検査がされたかは問わない)
上記16万人の中から、ランダムに4万人抽出し
対象被験者と年齢(5年ごと)、診療所でマッチ。
マッチした被験者データの起算日と同じ日を起算日として設定。

●デザイン matched cohort +横断

●除外
起算日より遡って2年間の間に癌、自己免疫疾患、慢性感染症の診断
起算日より遡って30日の間に急性感染症
→ figure 1

●データの突合(linked data)
English Cancer Registry Data (110 245人に存在)
patient level index of multiple deprivation (IMD) (110 181に存在)

●指標となる検査(index tests)
基準値の上限を超えるものを「上昇」と定義
CRP → >7 (>6.8)(日本は10分の1)
ESR 性別と年齢で決定
PV >1.72mPa/s
同じ日に同じ検査が再検されている場合、高い方を使用
異常/正常 のbinary(二項)データ化

●アウトカム
・プライマリ
起算日から1年以内の癌、自己免疫疾患、1ヶ月以内の感染症
(起算日から1ヶ月以上離れた感染症はおそらく1ヶ月以上前の炎症反応高知とは無関係と判断)
・プロセスアウトカム
GPの再受診、追加の血液検査、紹介
再受診は対面、訪問、電話を含む。

●code list(診断コード)
複数の研究で妥当性の検証されたcode listを使用
感染症と自己免疫疾患は妥当性の検証された方法で作成しサブタイプに分割(15 本人)
the University of Bristol Data Repositoryにて参照可能(16)
https://doi.org/10.5523/bris.2954m5h0ync672u8yzx16xxj7l
起算日を含めて28日遡り主訴を多いものから200抽出 ICPCにより分類されている→ 同様の方法でcode listを作成

●サンプルサイズ
16万のサンプルでは
α=0.05 、検査の3分の1が異常(→結果的には23.8%が異常:論文B)、対象疾患の有病率が7.5%
(癌1%、自己免疫1.5%、感染5%)(→結果的には16万のサンプルの有病率は未報告)、の仮説だと93%のパワーで0.5%の差を検出可能
最も少ない癌の場合、1% vs 1.2%の差を検出するパワーは94%
パワーを大きく保つために非検査群のサンプルは意図的に小さくした。

●分析
検査群と非検査群とでの対象疾患の有病率、PPV、
線形データとしての炎症マーカーの値との相関(logistic regression)
ROCカーブ、
感度、特異度、PPV, NPV
→最終的には1000人のサンプルで提示
STARD, RECORD声明に準拠、Stataを使用

5 結果

●実施された検査
136961人が検査群、37539が非検査群
起算日に複数の炎症マーカーが検査されたのが38.8%
CRP 71.0%, ESR 58.0%, PV 10.1%
ひとつ以上の検査異常があったのが27.8%

●患者特性
検査群は女性が多く(61.6% vs 51.3%)
白人が多く (87.0% vs 85.4%)
裕福な4分位の人が多い( 23.0% vs 20%)
検査異常群は
最も剥奪された4分位に多く OR 1.31
女性に多い 1.19
人種には差がなかった

●疾患頻度
陽性的中率は15.0%、(感染症6.3% 自己免疫疾患5.6%、癌3.7%)(table1)
異常値群の中でも再検査でも異常だったグループで最も疾患頻度が高く、再検査正常で低く、起算日から90日間再検査されなかったグループで最も低い
ただし、癌は例外 再検査正常群(2.1%)よりも再検査なし群(3.6%)の方が高い。
1000人でどうなるか (fig 1)
詳細 (table 2) 炎症マーカーのどれも感度は50%未満
AUROC(AUC) 0.9を超えたものはない。0.7がひとつ自己免疫に対してのESR
容量反応関係(fig 3-5)
CRP>50、 ESR>50でも何らかの疾患の存在は30%程度

●検査の契機となった症状
table 3
マーカー陽性と陰性の比(LR+)の小さいものから順に
大きく非特異的症状、腹部症状、関節症状、感染症状にわけると
非特異的なものは陽性になりにくい vs 感染症状

●異常値後の経過(table 4)
6ヶ月後まで
血液の再検査、再診、紹介は 偽陽性群(実際に病気のない群)のほうが真陰性群より多い
疑い病名をどのように扱っているか? → 既存のデータセットからの研究の限界
CRPがdoされてしまっているのでは? → 既存のデータセットからの研究の限界
C. Salisbury(2人目の著者)はinverse care lawについての研究あり
構想から7年?(7番の総説論文 2012から)

●補足論文Bからは
何らかの疾患スクリーニングもしくは感染症のスクリーニングをするなら単独ならESRよりCRP、
何らかの疾患スクリーニングもしくは自己免疫疾患、癌、RAのスクリーニングをするならCRP単独よりはESRとCRPの両方が望ましい

以上

このサイトの監修者

亀田ファミリークリニック館山
院長 岡田 唯男

【専門分野】
家庭医療学、公衆衛生学、指導医養成、マタニティケア、慢性疾患、健康増進、プライマリケア・スポーツ医学