未診断の高血圧者に関連する因子:ポピュレーションベーススタディー(2019年第6回RJC)

ジャーナルクラブ 第6回
2019/7/10
高橋亮太

1 タイトル

「未診断の高血圧者に関連する因子:ポピュレーションベーススタディー」
Health-related determinants of undiagnosed arterial hypertension: a population-based study
Kénora Chau; Nicolas Girerd; Faiez Zannad; Patrick Rossignol; Jean-Marc Boivin
Family Practice, Volume 36, Issue 3, June 2019, Pages 276-283, https://doi.org/10.1093/fampra/cmy075
カテゴリー research journal club
キーワード 
成人 生活習慣 危険因子 プライマリケア 未診断の高血圧

2 背景・目的・仮説

●背景
・高血圧は世界的なDALY(disability-adjusted life years)の7%を占め、世界の疾病負担および心血管疾患による死亡の最大の要因である(文献1、2)
・生活習慣の適切な管理(体重コントロール、禁煙、高い身体活動、減塩、節酒、健康な食事)および薬物治療は血圧レベルを下げ、高血圧による予防可能な疾患および死亡を防ぐことが可能となる
・高血圧の診断基準を満たす患者に対して、早期に診断してタイムリーなケアおよび生活習慣改善を測ることが重要である。
・しかし、残念なことに高血圧の診断基準を満たす17〜50%の人々が未診断であり適切なケアを受けていない。(文献8−12)フランスにおいては、18〜74歳の高血圧成人の半数が高血圧に気づいていないという報告もある。(文献13、14)
・プライマリケアにおける課題としては、高血圧の診断基準を満たす人々のうち、未診断の高血圧患者がどのような要因と関連しているのかを明らかにすることである。
・米国における先行研究では、18〜49歳のアメリカ人女性において、低体重、虚血性心疾患もしくは糖尿病の既往がないこと、プライマリケア利用が少ないことが障壁となっていた(文献15)
・別の英国における研究では、未治療の高血圧は、男性、喫煙、自己申告での健康状態の良さ、高い飲酒量、独居と正の相関があった(文献16)
・我々の仮説では、未診断の高血圧の理由として、彼ら自身が高血圧に気づいていないこと、そして、血圧を評価するGPに受診していないことにあると考えた。
・さらに、未診断の高血圧のリスクパターンはより複雑であり、十分に記述されていない。

●目的
・今回の研究の目的として、幅広いリスクファクター(生物学的因子、心血管リスク、プライマリケア利用、生活習慣、婚姻状態等)を未診断の高血圧患者の関連要因として検討することを目的としてポピュレーションベースの横断研究を実施した。
・これらのリスクファクターを明らかにすることで、プライマリケアにおいてGPが未診断の高血圧患者を拾い上げ、早期診断、タイムリーかつ適切な生活習慣管理へとつなげることを目的として実施した。

3 方法・研究デザイン

●研究デザイン 縦断研究
●研究対象者
フランス東部におけるSTANISLAS familial cohort studyのデータベース
1994-1995年に最初の集団(30〜60歳のフランス人成人、2014人)
調査開始時には、急性および慢性疾患のない成人をリクルート
フランス東部の予防医学センターにおける健康診断にて
2011-2016年 最終的な調査実施
生存している1902人のうち、995人(52.3%)が最終的な調査に参加

●調査項目
1)質問票調査
 性別、年齢、喫煙状態、アルコール摂取、定期的な身体活動、健康状態の認識、
 記憶障害の有無、心血管疾患、糖尿病、脂質異常症治療薬、
 高血圧の既往歴および家族歴、毎年のGP受診回数
2)身体計測
 体重、身長、腹囲
 Body mass index (BMI) は身長、体重から算定
3)血圧測定
 診察室での血圧および脈拍を3回測定(1分おきに)
 仰臥位で10分間の安静ののちに
 自動血圧計にて 上肢で測定
 > 診察室高血圧は sBP > 140mmHG,または dBP > 90mmHGで定義
4)24時間 家庭血圧測定
 すべての研究参加者が測定
 午前6時から午後10時まで 15分おき
 午後10時から午前6時まで 30分おき
 > 家庭高血圧は sBP > 130mmHG, または dBP > 80mmHGで定義
5)未診断の高血圧
 高血圧の既往歴がないもので、診察室高血圧および家庭高血圧の基準となったもの
6)血液検査
 空腹時血糖 総コレステロール 中性脂肪
 主観的健康観 

●統計解析
 未診断の高血圧者 関連要因の分析
 > カイ二乗検定 ANOVA
 > ロジスティック回帰分析(性別、年齢を調整)
 その後、多変量ロジスティック回帰分析(その他の関連要因も調整)も実施

4 結果

 1)表1
 281人の高血圧者
 > 222人は治療中の高血圧者
 >  59人(21.0%)が未診断の高血圧者
 59人の未診断高血圧者のうち、20%が2度高血圧(sBP >160, or dBP > 100)に相当
 治療中の高血圧者のうち
 68% 診察室血圧 コントロール良好
 60% 家庭血圧  コントロール良好
 47% 両者    コントロール良好
 2)表2 未診断の高血圧者 関連要因
 > 統計学的に有意に関連があったもの(11項目)
 男性 独居 高いアルコール摂取 健康状態の認識が良いもの
 心血管疾患および糖尿病の既往がないもの 脂質異常症治療を受けていないもの
 高血圧の家族歴がないもの GP受診回数が少ないもの BMIが低いもの
 腹囲が小さいもの 血糖値が低いもの
 3)表3
  表2の関連要因のうち、多変量ロジスティック回帰分析(ステップワイズ法)
  にて有意であった5つの因子
  > 男性 腹囲が小さいもの 心血管疾患および糖尿病の既往がないもの
    高血圧の家族歴がないもの GP受診回数が少ないもの
 4)図1
 表3の5項目をもとにリスクスコアを算定
 未診断の高血圧者における点数と割合をグラフ化

5 考察

1) 主な研究結果
・この研究では未診断の高血圧者に関連する因子として5つの要因を明らかにした
・つまり、男性であること、腹囲が小さいこと、心血管疾患の診断がないこと、高血圧の家族歴がないこと、GP受診回数が少ないことである。
・また、独居 高いアルコール摂取 健康状態の認識が良いもの 脂質異常症治療を受けていないもの BMIが低いもの 血糖値が低いものの6項目についても、2変量における分析ではあるが、統計学的に有意な結果であった。
・これらの新規性の高い所見は、未診断の高血圧者のリスクパターンを理解し、潜在的な高血圧者を拾い上げることにつながると思われる。
・先行研究では、17〜50%の範囲であった。(文献8〜12)一方、本研究では未診断の高血圧者割合は21%であった。この違いは、STANISLAS コホートが調査開始時には健康な成人を対象にして開始し、20年間の追跡調査を実施したことが影響していると考えられた。

2) 先行研究との比較
・この研究では未診断の高血圧者関連因子として5要因を明らかにした
・これらの所見は2つの先行研究結果と合致する
・米国女性(18-49歳)、英国成人(40-74歳)では、男性、低体重、虚血性心疾患・糖尿病の既往がない、プライマリケア受診が少ないという結果であった(文献15、16)

*男性が高血圧の未診断が多い理由
 女性に比べて高血圧への関心が低い、心血管疾患の知識が乏しい(文献24−26)
 GP受診回数が少ないこと
 高血圧診断を受ける機会が少ないことの原因
 本研究では、未診断の高血圧者は69.5%が年に少なくとも1回受診、37.3%は3回以上の受診をしていた
 今回の結果では、数十年間の公衆衛生教育において高血圧の重要性を啓発してきたにも関わらず十分ではないことを教えてくれた

*その他の因子
 独居 高いアルコール摂取 健康状態の認識が良いもの
 脂質異常症治療を受けていないもの BMIが低いもの 血糖値が低いものの6項目
 2変量における分析で有意であったが、多変量解析ではそうではなかった。

*上記についてのいくつかの仮説
 1つ目)独居 ソーシャルサポートが少ない 高いSES
  これらは高血圧と関連する
 2つ目)アルコール摂取の高さ
  アルコール消費が少ないと脳機能の維持、判断、注意喚起が保たれる
 3つ目)健康状態の認識の高さ
  GP受診をしない傾向につながる
  それが血圧測定 診断機会の減少になっているのではないか
 4つ目)低いBMI 腹囲
  高血圧リスクを疑われる状態になることが少なくなるのではないか
  同様に脂質異常症治療を受けていないものも高血圧と疑われにくいだろう
 最後に)本研究で明らかになった未診断の高血圧者の特徴は
  治療中の高血圧者の高血圧と同様なのかどうかという新たな疑問がわいてくる
  このテーマに関するさらなる研究が必要

3) 実臨床への応用
 高血圧の早期診断は世界的に推奨されている
 一方で血圧測定方法、頻度、診断基準は異なる
 今後どのように血圧モニタリング方法を推奨していくかが重要
 本研究における50-76歳成人においては5項目が未診断の高血圧者の関連要因としてあげられた
 現場の臨床医はこれらの項目を満たす人々を注意深く探し出していくべきだろう。すなわち、高血圧のリスクが低いと思われている集団に対しても定期的に血圧測定を進めていく必要があるではないだろうか
 一度、高血圧の診断が確認された場合には、タイミングを変えて再度血圧評価を行っていくことが重要である。(自宅血圧測定もしくは24時間血圧測定)
 さらにはアルコール摂取が高いことも未診断の高血圧者と関連
 アルコール摂取を減らすことも重要
 現場のプライマリケア医が、診察時に未診断の高血圧を発見し、最終的には適切な生活習慣管理へと導いていくことが重要である
 今回の結果は医師の生涯教育、卒後教育にも有用
 臨床医が患者と効果的なコミュニケーションをとること、患者の関心や希望にそってエンパワーメントすることが重要
 患者中心のケア、継続性をもったケアはプライマリケアにおける重要な要素である

4) 長所と限界
*長所
1)主にコントロールされていない高血圧に焦点をあてている
2)診察室の血圧(3回測定)および24時間血圧測定の両者を未診断の高血圧の定義として用いている
3)白衣高血圧、仮面高血圧を除外している

*限界
1)ローレイン地方は心臓イベント発生率が中等度〜高い地域(南部ヨーロッパで)
2)最終参加率が低い(52%)。フランスにおける20年間のフォローアップ期間後としては比較的高いが
3)血圧データがないものを除外した。これによりオッズ比を過小評価している可能性がある。

6 結論

 我々の研究では、50-76歳の成人において、どのような要因が影響して未診断の高血圧者となっているかの理解を提供した。要因として、男性であること、腹囲が小さいこと、心血管疾患の診断がないこと、高血圧の家族歴がないこと、GP受診回数が少ないことが関連していると考えられた。
 さらに、これらの5項目が高い割合で満たされるものは、未診断である可能性が高まることも証明された。臨床医はこれらの項目が満たされるものについて未診断の高血圧者である可能性について考慮すべきと考えられた。
 本研究結果から、未診断の高血圧者の早期診断および適切な生活習慣管理へとつながるシス的および量的な研究の必要性があると思われた。

7 日本のプライマリケアへの意味

*大規模な疫学調査のデータベースを利用した研究
 疫学研究の部類に入るが、臨床的にも非常に有用な調査結果

*未診断の高血圧の存在
 日本のプライマリケアでも十分にその存在が考えられる
 どのように拾い上げていくか まずは「男性」「50〜76歳」「たまにしか受診しない」人だけでもアンテナをはること

*KFCTでも実施している方法
 オープン受診者全員に血圧測定、リハビリ時に血圧測定
 > ただし、これはUSPSTFの推奨事項に沿って18歳以上全員に対して実施

以上

このサイトの監修者

亀田ファミリークリニック館山
院長 岡田 唯男

【専門分野】
家庭医療学、公衆衛生学、指導医養成、マタニティケア、慢性疾患、健康増進、プライマリケア・スポーツ医学