プライマリケア患者における孤独感:有病率研究(2019年第3回RJC)

ジャーナルクラブ 第3回
2019/05/27
高橋亮太

1 タイトル

「プライマリケア患者における孤独感:有病率研究」
Loneliness in Primary Care Patients: A Prevalence Study
Rebecca A. Mullen, Sebastian Tong, Roy T. Sabo, Winston R. Liaw, John Marshall, Donald E. Nease, Jr, Alex H. Krist, and John J. Frey III
Ann Fam Med March/April 2019 17:108-115; doi:10.1370/afm.2358
カテゴリー research journal club
キーワード 
loneliness 孤独感
3-item UCLA Loneliness Scale 3アイテム UCLA孤独感尺度
primary care プライマリケア
prevalence 有病率

2 背景・目的・仮説

●背景
「孤独感」は個人的な関係性の欠如に関する内的な認識(文献1)と定義されるが、健康への有害な影響があり、公衆衛生上の課題として認識されてきている。

孤独感の有病率は7%〜49%と高く、調査地域・国、測定方法、年齢層等によって幅がある。

米国では、45歳以上の一般人口における調査で3分の1が孤独感があるとの結果がある(文献4)

孤独感は、身体的および精神的な健康アウトカムへの影響があり、高血圧の増加、心血管イベント・脳血管障害の増加、うつ状態、認知機能低下、アルツハイマー病、総死亡と関連することが示唆されている。(文献5〜10)

実は、孤独感はタバコ15本/日と同程度の有害性があるという報告もある(文献6)

一方で、プライマリケアにおいては孤独感に関する研究は十分にわかっていない。
妥当性が検証された尺度は存在するが、プライマリケアの臨床現場では通常使用されていない。さらに、孤独感の治療に関してプライマリケアの役割は不明である。

●目的
本研究の目的は、プライマリケアにおける孤独感について、その特徴と孤独感をもつ患者の行動を分析することである。プライマリケア診療所の定期外来に受診する成人患者における孤独感の有病率を記述し、自己申告による属性因子、医療資源利用、健康関連QOLとの関連を分析した。

3 方法・研究デザイン

*方法
2つのPBRN(practice-based research networks)において、
プライマリケア外来を定期受診した成人患者に対して横断調査を実施した。
3項目のUCLA孤独感尺度を用いて孤独感を評価した。

●研究デザイン 横断研究
●方法
*対象者
・2017年4月〜2018年1月
 2つのPBRNの定期外来を受診した成人患者
・the State Networks of Colorado Ambulatory Practices and Partners (SNOCAP)
・the Virginia Ambulatory Care Outcomes Research Network (ACORN).
・SNOCAP 5つのPBRNのコラボ コロラド 600以上のプライマリケア医師
・ACORN  唯一のPBRN バージニア    500以上のプライマリケア医師
 > 全てのクリニックに対して電子メールおよびニューズレターで参加を呼びかけ
   関心ある16のクリニックが参加 (8 SNOCAP, 7 ACORN)
・研究参加者はコンビニエンスサンプリングで募集
 自分の受診前の時間でアンケートに記載してもらう
・年齢 18歳以上 89歳未満
・除外 英語が読めない患者
・1クリニックあたり100人に到達するまで継続した
・SNOCAP 受付で調査参加への呼びかけを実施した
・患者は調査参加は義務なく、医師には調査参加の有無はブラインドされていた。
・全体の参加率は収集していない、また、2回以上調査に参加したかどうかの確認はしていない

*調査方法
・妥当性検証された質問票
 孤独感の尺度 社会人口学的因子 健康関連QOL 医療資源利用
 > Supplemental Appendix
   http://www.AnnFamMed.org/content/17/2/108/suppl/DC1/
・年齢 性別 郵便コード 婚姻状態 就業状態
 郵便コード > 都市部 地方部を区別した(文献18)
・孤独感の尺度
 3項目のUCLA孤独感尺度を用いて孤独感を評価した。(文献19)
 フルバージョンは20項目の質問票(日本語での和訳バージョンもあり)
 > lack of companionship     人との付き合いがないと感じる
   feeling left out         取り残されていると感じる
   feelings of isolation from others 他の人から孤立していると感じる
 参加者は3段階で回答(全くない、ときどきある、良くある)
 それぞれに1点から3点でスコア > トータルで3〜9点
 > 6点以上を孤独感ありと判定した(文献21)
・健康関連QOL
 Healthy Days Measures from the Centers for Disease Control and Prevention measurement of Health-Related Quality of Life(文献22)
・主観的健康観 5段階で評価
・医療資源利用
 最近12ヶ月間における 救急外来受診 プライマリケア受診 入院
*統計解析
 連続変数 平均値と標準偏差
 カテゴリー変数 頻度と割合
 カイ二乗検定 generalized linear mixed models

4 結果

*参加者の属性 表1
 16診療所、1246人が参加した
 平均年齢 52歳(SD 16.5)
 女性 63%、白人71%、都市部居住 77%
 結婚 54%、就業(フルタイム) 45%

*孤独感の有病率 図1、図2
 全体の孤独感有病率 20% (246/1,235).
 年齢とともに孤独感有病率が低下傾向
 33%(25歳未満) > 11%(65歳以上)

*孤独感と属性の関連性 図3
 孤独感は婚姻状態および就業状態と有意に関連した
 一方で、人種・民族、性別、居住地域との有意な関連性はなかった。

*孤独感と健康関連QOL、医療資源利用との関連性 図3 表2
 孤独感は健康状態の悪さと有意に関連した
 就業状態、婚姻状態を調整した結果でも、同様の結果
 プライマリケア受診、救急外来受診、入院は孤独感状態と関連が見られた

5 考察

1) 研究結果のまとめ
 プライマリケア診療所に定期受診する英語識字可能な成人患者における孤独感有病率は20%であった。また、若い患者において高い傾向を認めた。
 婚姻状態、就業状態との関連性、健康状態の悪さ、医療資源利用と有意な関連が見られた。 これらの結果は関連因子を調整したあとでも有意な結果が見られた。

2) 先行研究との比較
先行研究での孤独感の研究成果が、プライマリケア領域でも存在することが示された。
ある研究では、地方でのみ孤独感の有病率が高いという結果であったが、本研究では有意な地域差を確認出来なかった。

一般人口における状況と同様に孤独感の有病率の存在を確認した。
言い換えれば、孤独感を感じる人々がプライマリケアの現場から隔離された状態ではないということ、つまり、プライマリケア環境において、今後何らかの解決策や介入方法を示すことが出来る可能性が示唆された。

本研究と同様に、孤独感の有病率が青年期に高いという結果は見られている(文献34、35)

この結果についての原因は十分に明らかになってはいないが、この年代が抱える課題(発達課題)としての親からの分離・独立、自信、自己アイデンティティーなどの要素が関連している可能性がある。

コミュニケーションにおける世代間の違いも孤独感経験に対して何らかの役割を有していると思われる。

今回の分析では幅広い年齢幅での分析を行ったので、今後の研究では、より狭い年齢幅での検討を実施すべきであろう

3) 長所と限界
限界点のいくつか
一つ目、英文識字が可能な参加者を対象とした
低いSESの集団(孤独感のハイリスク集団)を除外してしまった可能性がある
移民や難民の集団は高い孤独感を持っているという研究成果もある(文献47、48)
2点目として、非参加者のデータ収集が出来なかったこと。一般人口との比較が困難であり、今回の参加者との違いは不明である
3点目として、横断研究であるため因果関係については不明である

6 結論

今回の結果からプライマリケアにおいても、孤独感は見られるということ、そして、悪い健康状態、医療資源利用の増大などの健康アウトカムとの負の関連が見られた。

今後の方向性として、プライマリケアにおける孤独感スクリーニングの価値および介入方法に関しての研究が必要と考えられる。

7 日本のプライマリケアへの意味

*孤独感に関するリサーチ
 日本においては十分研究されているのか?
 > 文献レビューが必要

*プライマリケアにおける孤独感研究
 どういう意味があるのか
 > 研究成果をどう実践していけるのか

*PBRNでのリサーチ
 非常に現実的な研究方法
 質問票もシンプル 待ち時間に記載可能
 コンビニエンスサンプリング 100人に到達すれば終了
 > この方法であれば日本でも可能ではないか

*UCLA孤独感尺度
 日本語版もあり
 > 日本のプライマリケア現場でも同様の研究は可能

以上

このサイトの監修者

亀田ファミリークリニック館山
院長 岡田 唯男

【専門分野】
家庭医療学、公衆衛生学、指導医養成、マタニティケア、慢性疾患、健康増進、プライマリケア・スポーツ医学