高血圧を合併した高齢者における収縮期血圧と認知機能低下の関連性(第22回RJC)

ジャーナルクラブ 第22回
2019/03/27
高橋亮太

1 タイトル

「高血圧を合併した高齢者における収縮期血圧と認知機能低下の関連性」
Systolic Blood Pressure and Cognitive Decline in Older Adults With Hypertension
Sven Streit, Rosalinde K.E. Poortvliet, Wendy P.J. den Elzen, Jeanet W. Blom, and Jacobijn Gussekloo
Ann Fam Med March/April 2019 17:100-107; doi:10.1370/afm.2367
カテゴリー research journal club
キーワード 高血圧 高齢者 認知機能 日常生活機能 QOL

2 背景・目的・仮説

●背景
 高血圧ガイドラインでは、高齢者の収縮期血圧を下げることを推奨している
しかし、コホート研究では、収縮期血圧を下げ過ぎることでの患者への害(例えば、認知機能低下)が起こる懸念を示している。(文献1〜11)
 最新の17高血圧介入研究のメタアナリシス(文献12)では収縮期血圧を130mmHgまで低下させることの効果と安全性を示されており、ACC/AHAでは、入所していない高齢者について130mmHgまでの血圧低下を推奨している。(文献13)
 しかし、高血圧の介入研究では、たびたび、高齢者、フレイル患者、複雑な健康問題を抱える患者などを除外している。つまり、研究結果の一般化、適応、については疑問の余地がある(文献14−16)
 本研究の先行研究であるオランダの地域住民対象のコホート研究(570人の85歳高齢者を対象)では、収縮期血圧の低下は総死亡リスク上昇および認知機能低下と関連があったが、それは高血圧治療を行っているフレイル患者においてのみみられた。(文献17)
●目的
 本研究の目的として、収縮期血圧の低下と認知機能低下の関連性があるかどうかについて、先行研究より比較的若い75歳以上の高齢者を対象に、高血圧治療の有無を含めて検討することである。また、収縮期血圧と日常生活機能およびQOLについても同時に検証した。

3 方法・研究デザイン

●研究デザイン 前向きコホート研究
●データベース
クラスター無作為化試験であるthe Integrated Systematic Care for Older Persons (ISCOPE) studyのデータベースを使用
560人の家庭医(family physicians (FPs))を募集
> 104人が参加
加入条件 75歳以上
除外条件 末期状態、余命3ヶ月以内
11,476人の患者のうち7,285 (63.5%)が調査票に回答

収縮期血圧データ 電子カルテから抽出
高血圧治療の有無 Anatomic Therapeutic Chemical (ATC) codesから判断した

(1) they consented for us to analyze their EMR data;
(2) we could link their EMR data to the data set;
(3) they were selected for 1 year of follow-up in ISCOPE; and
(4) their SBP measurements were recorded for the year before they were included in ISCOPE
> 1266人を分析対象とした(図1)

●説明変数
収縮期血圧 最近5回までの平均値
3群に分けた
3 SBP categories (<130, 130-150, >150 mm Hg).
SBP <130 mm Hg を基準とした

●目的変数
リサーチナースによる家庭訪問 1年後のフォローアップ
認知機能 MMSEで評価
日常生活機能 Groningen Activity Restriction Scale (GARS) questionnaireで評価
> 18点から72点まで(高スコアほど障害が大きい)
QOL the EQ-5D-3L index

●調整変数
ベースラインデータ
年齢、性別、MMSE, GARS, or EQ-5D-3L
causal modeling approach
> 交絡因子となる可能性のある因子を検証する方法
  crude modelとadjusted modelの結果の差で判断

●複雑な患者
複雑な健康問題を抱えているかどうかの検証(文献18)
妥当性ある質問 4ドメイン(それぞれに4〜9項目の質問)
4 domains (functional, somatic, mental, social)
4ドメインのうち1〜3ドメイン該当する場合に、複雑な健康問題を持つと定義

●統計解析
1)記述疫学
2)プライマリ分析
収縮期血圧のカテゴリーを高血圧治療で層別化
> MMSE, GARS, EQ-5D-3Lの差(ベースラインから1年後)との関連をみた
3)感度分析
4)セカンダリー分析
プライマリ分析と同様 ただし、複雑な健康問題の有無でさらに層別化した

4 結果

1)表1 ベースライン参加者の属性 1266人
平均年齢 82.4歳 女性 69%
高血圧治療 83.5%

2)図2 点数の変化
A) MMSE
> 高血圧治療群(左側)
  0.90点の低下(< 130mmHg群)に対して、0.14点の低下(> 150mmHg群)
  傾向性のPが統計学的に有意
B) GARS
C) EQ-5D-3L
> どの群も有意差なし

3)表2 基準群との比較
A) MMSE
> 高血圧治療群(左側)だけ統計学的に有意
B) GARS
C) EQ-5D-3L
> どの群も有意差なし
4)表3 複雑な健康問題を持つ患者(サブグループ解析)
> 674名(53%)を対象
> 表2と同様の結果
 (この結果は複雑な健康問題を持たない患者では見られなかった★重要★)

5 考察

1) 研究結果のまとめ
・オランダにおける75歳以上の高齢者を対象にしたプライマリケアコホートにおいて、高血圧治療群で、かつ、ベースライン収縮期血圧が< 130mmHgの群は統計学的に有意に認知機能低下がみられた
・この関連は、特に複雑な健康問題を抱える患者に強い
・日常生活機能、QOLは収縮期血圧、高血圧治療に関連しなかった

2) 先行研究との比較
・本研究でのMMSE低下は臨床的に意味があると考える
・先行研究
(同様の結果)
 認知症、MCIの患者を対象としたもの(文献25)
 フレイルとの関連を分析した研究(文献26、27)
(異なる結果)
 高血圧治療の有無で層別化していない研究(文献28、29)
・日常生活機能、QOL
 正の関連、負の関連(文献3、31、32)

3) 長所と限界
・長所
 多数の高齢者が参加
・限界
 残りの交絡因子の影響
 電子カルテを使っていない家庭医が担当する患者(除外されてしまう)
 血圧測定していない患者(除外されてしまう)

4) 結論
・高血圧治療実施している高齢者における認知機能低下
・血圧値について注意深く観察していくこと
・特に複雑な健康問題を抱える患者に対して
・今後の研究として、因果関係、メカニズムを明らかにする研究の必要性

6 日本のプライマリケアへの意味 
・日常的に高齢患者に対して高血圧治療を実施している
・高血圧治療と認知機能低下について診療を見直すきっかけ
・また、プライマリケアの現場での臨床研究のヒントにつながる

以上

このサイトの監修者

亀田ファミリークリニック館山
院長 岡田 唯男

【専門分野】
家庭医療学、公衆衛生学、指導医養成、マタニティケア、慢性疾患、健康増進、プライマリケア・スポーツ医学