患者中心のケアモデルを用いたマルチモビデティ患者の管理:3Dアプローチによるクラスターランダム化介入試験(第20回RJC#1)

ジャーナルクラブ 第20回 #1
2019/02/26
高橋亮太

1 タイトル

「患者中心のケアモデルを用いたマルチモビデティ患者の管理:3Dアプローチによるクラスターランダム化介入試験」
Management of multimorbidity using a patient-centred care model: a pragmatic cluster-randomised trial of the 3D approach.
Salisbury C, Man MS, Bower P, Guthrie B, Chaplin K, Gaunt DM, Brookes S, Fitzpatrick B, Gardner C, Hollinghurst S, Lee V, McLeod J, Mann C, Moffat KR, Mercer SW.
Lancet. 2018 Jul 7;392(10141):41-50. doi: 10.1016/S0140-6736(18)31308-4. Epub 2018 Jun 29.
カテゴリー research journal club
キーワード

2 背景・目的・仮説

●背景
複数の慢性疾患を抱える人々のマネジメントは、単一疾患へのマネジメントを元に構築されたヘルスケアシステムに対する挑戦

マルチモビデティ患者マネジメントの国際的なコンセンサス
> 英国(NICE 2016)、米国(USDHHS 2010)、ヨーロッパ(JA-CHRODIS 2018)、国際的(Adriane principles 2014)に、それぞれの機関からガイダンスが発表されている。

アプローチの鍵となるモデルとして
患者中心のケアモデル、慢性疾患モデルなどが推奨されている。

具体的な内容
・定期的な包括的レビュー
・QOLを重視すべき(疾患のコントロールだけでなく)
・患者負担を減らす(特にポリファーマシー)
・合意された目標に向かってのセルフマネジメントを推進すべき
・意思決定プロセスを患者と共有
・個別ケアプランの共有
しかし、これらのアプローチの効果については限定的なエビデンスしかない。

先行研究のエビデンス
*2012年のシステマティックレビュー(Smith 2012 BMJ)
・プライマリケアにおけるmm患者のアウトカム改善の介入研究
 10件のRCTを抽出。しかし、患者抽出条件、介入方法、アウトカムの種類が研究間で大きく異なっていた。また、結果は合致しなかった。
・著者らの結論としてリサーチが不足している。プライマリケア現場でのさらなる現実的なリサーチが必要と結論付けられていた。
・また、アウトカムについても、疾患特異的なアウトカムではなく、QOL、生活機能、症状負担などの疾患横断的なアウトカムを用いることが提案された。
*2016年のコクランレビュー(アップデート版)(Smith 2016 Cochrane)
・2012年版から8件の介入研究が追加されたが、結論は同様であった。

●仮説
患者中心のケア(3Dアプローチ)がマルチモビデティ患者に対して、健康に関連するQOLを改善すること。

●目的
上記の仮説を検証するため、マルチモビデティ患者に対する3Dアプローチと通常のケアの2群に分けたランダム化介入研究を実施した。

3 方法・研究デザイン

●研究デザイン (現実的な)クラスターランダム化介入研究
●方法
*対象者
18歳以上成人を対象(除外基準:余命12ヶ月以内。自殺リスク。12ヶ月以内に転居予定。英語での質問票回答が困難等。)
イングランドおよびスコットランドの33GP診療所において実施。
17診療所を通常のケア。16診療所を3Dアプローチによる介入を実施した。
診療所ごとのランダム化はコンピューターにより実施され、地域、診療所サイズ、deprivationなどにより層別化された。

*マルチモビデティの定義
EMIS(電子カルテシステム)データベースにおいて、17の慢性疾患(UK QOF pay-for-performanceプログラムに含まれる)を抽出
これらの17慢性疾患を10タイプの慢性状態に再分類した(似たようなマネジメントを実施するグループで整理)
これらの10タイプのうち、3つ以上の慢性状態を持つものをマルチモビデティと定義
> 10タイプの慢性状態については表1参照

*介入方法(患者ケア)
・通常のケア
 慢性疾患レビュー 看護師により実施 疾患特異的なデータエントリー画面、テンプレートを使用。看護師は特定疾患ごとに専門分化されており、マルチモビデティ患者は、複数の看護師よるレビュー予約を必要とし、継続的なケアを受けることが少ない。
・3Dアプローチ
 患者中心のケアモデルに基づくもので、継続性、協調性を改善することを念頭において実施。6ヶ月ごとに包括的な多職種によるレビューが行われる(図1)
> 看護師レビュー、薬剤師レビュー、医師レビュー
・3D: Dimensions of health, Depression, Drugs
・3Dレビュー;2回の受診予約(看護師および担当医)、薬剤師による電子カルテ記録のレビュー

*アウトカム
1) primary outcome
 健康関連QOLを測定する指標としてEQ-5D-5Lを採用(疾患特異的なアウトカムではなく
・EQ-5D-5L
 5つの質問(移動、身の回り、ふだんの活動、痛み・不快感、不安・ふさぎこみ)で構成
 それぞれに5段階(全く問題ない〜非常に問題がある)で自己評価
2) secondary outcome
 3つのドメイン
1.illness burden
  a single question about self-rated health
  the Bayliss measure of how much illness affects the individual's life
  the Hospital Anxiety and Depression score to assess mental health
2.treatment burden
  in the absence of a suitable existing measure,
  medication adherence using the Morisky Medication Adherence eight-item score
  the number of different drugs prescribed in light of the aim to simplify inappropriate polypharmacy.
3.patient-centred care
  Patient Assessment of Care for Chronic Conditions (PACIC) measure
  Consultation and Relational Empathy (CARE) measure of relational empathy
  single questions (adapted from the NHS Long Term Conditions 6 questionnaire and the NHS General Practice Patient Survey) about the proportion of patients reporting care related to their priorities

*統計解析
フォローアップ期間は15ヶ月間であった。
分析はintention-to-treat解析で行われ、欠損データはmultiply imputationで補完した。

4 結果

●主な結果
intention-to-treat解析の結果では、primary outcomeとしてのEQ-5D-5LによるQOL評価は介入群と対照群の間で全く差がなかった。
78人の患者が追跡中に死亡したが、これらは、介入との関連はないと考えられた。

●研究プロトコール 図2参照
2015年5月20日から同年12月31日までの間に
トータルで33のGP診療所から248,488人の成人患者が登録された。
このうち、18歳以上で3つ以上の慢性状態をもつ患者は9772人(3.9%)であった。
このうち、5253人を無作為に抽出 575人が除外基準から除外され4678人が適格となった。このうち、1546人の患者が研究参加した。
・17診療所の749人を通常のケア。
・16診療所の797人を3Dアプローチによる介入を実施した。

●研究参加者のベースラインデータ 表1参照
 介入群と対照群 ほぼ同様の属性
 慢性疾患状態 CVD/CKD > 90%, DM COPD > 50%, Depression > 33%

●アウトカム:フォローアップ期間終了時点(15ヶ月) 表2参照
 プライマリアウトカム 介入群と対照群で差は見られなかった
 セカンダリアウトカム illness burden, treatment burden > 有意差なし
            Patient centerd care > 介入群で改善が見られた

●ケアプロセスのアウトカム:フォローアップ期間終了時点(15ヶ月) 表3参照
 Continuity of Care Index > 介入群で点数高い
 quality of disease management > 有意差なし
 high risk prescribing > 有意差なし
 看護師受診 > 介入群で増加
 プライマリケア医師受診 > 介入群で増加
 入院患者数 > 有意差なし
 病院外来受診数 > 有意差なし

5 考察

1) 研究結果のまとめ
3Dアプローチによる介入群ではQOLの改善は見られなかった。
セカンダリーアウトカムにおいても、illness burden, treatment burdenを改善する効果は見られなかった。ケアプロセスのアウトカムについては、結果は混在していた。

2) 長所
本研究は、マルチモビデティ患者のマネジメントとして国際的なコンセンサスが得られた方法による最大の介入研究
クラスターランダム試験として推奨された標準的な手法を厳格に実施

3) 短所
・介入群のうち、3Dレビューを2回実施されたのは49%しかなかった。
 これにより3Dアプローチの効果が減弱された可能性はありうる。
・リクルートバイアス 研究対象者のうち、3分の1しか研究参加しなかった。
・3つ以上の慢性疾患をもつ患者 もともとQOLが低い可能性
・ベースラインでのプライマリアウトカムのアンバランス
・多数のセカンダリーアウトカム > 検査が多いことによる偽陽性所見の可能性

4) アウトカムについて
・マルチモビデティ患者は疾患横断的なアウトカムでの評価が望ましい(疾患特異的なアウトカムよりも)なぜなら、慢性疾患の異なった組み合わせによるものだから
・3Dアプローチ EQ-5D-5Lで評価する「移動」や「身の回りの管理」に対して影響を与える方法ではない。

5) 先行研究との比較
・別な解釈として、国際的なコンセンサスとなっている因果モデルに欠陥がある可能性
・過去のコクランレビュー(2016年)においても、抽出されたRCTごとの異質性(介入方法、定義、アウトカム、効果等)が高く、結果は混在しており、一致しなかった。
・アウトカムとしては、QOLを改善した研究成果は少なかった(メンタルヘルス関連のアウトカム改善した研究がある一方で)
・コクランレビュー(2016年)のアップデートを実施
 > 本研究を含めて8件の追加研究を抽出した。
*結果のメタアナリシス
 マルチモビデティ患者に対する介入研究は、QOL改善効果はほとんどない、もしくは全くないというメタアナリシス結果であった。
*funnel plot 
 publication biasの可能性が疑われた
 大きい研究 > 改善効果乏しい。 小さい研究 > 陽性所見のみ

6) 今後の研究への実践
・3Dアプローチ QOL改善効果は見られなかったが、患者のケア認識は改善をみた。
・患者経験はヘルスケアのtriple aimsのうちの一つ

以上

このサイトの監修者

亀田ファミリークリニック館山
院長 岡田 唯男

【専門分野】
家庭医療学、公衆衛生学、指導医養成、マタニティケア、慢性疾患、健康増進、プライマリケア・スポーツ医学