パネルサイズ、クリニックにおける医師勤務時間、外来予約へのアクセス(第16回RJC)

ジャーナルクラブ 第16回
2018/12/26
高橋亮太

1 タイトル

「パネルサイズ、クリニックにおける医師勤務時間、外来予約へのアクセス」
Panel Size, Clinician Time in Clinic, and Access to Appointments
David Margolius, Douglas Gunzler, Michael Hopkins, and Kathryn Teng
Ann Fam Med November/December 2018 16:546-548; doi:10.1370/afm.2313
http://www.annfammed.org/content/16/6/546.full
カテゴリー research journal club
キーワード ケアへのアクセス プライマリケア 労働力

2 背景・目的・仮説

●背景
タイムリーな外来予約はプライマリケアの基本的な要素の一つであり、患者の健康アウトカム改善に影響する。病院の再入院や不必要な救急受診を減らすカギとなるが、患者の取得可能な外来予約は限定されている。
先行研究において、外来予約取得に影響する因子を評価した研究は限定的(文献4−5)
1)アクセスとパネルサイズの関連性
2)アクセスとパートタイム勤務の関連性
これら2つずつを検討した研究はあるが、3つを同時に評価したものはない。

●目的
外来予約の待ち時間は、パネルサイズまたはプライマリケア医の半日勤務と関連性があるかについて検証することを目的として研究を実施した・

●仮説
パネルサイズが大きいほど、半日勤務状況で補正をしたとしても、プライマリケアへのアクセスの悪さと関連すると仮定した。

3 方法・研究デザイン

●研究デザイン 後ろ向き研究

●対象者
MetroHealth System オハイオ州北東部の3次教育センターに勤務する臨床医
アテンディング 上級臨床医 個別のプライマリケア患者パネルを持つ
それぞれの医師はチームを形成しておらずパネルを共有していない
> 114人の臨床医が参加(22人を除外:15人は複数箇所勤務 7人データ収集期間中に勤務を開始したため)

●目的変数
1)アクセス
プライマリケアへのアクセスはTNAA(3つめの取得可能な外来予約(third next available appointment)で計測した。1つ目、2つ目の取得可能な外来予約よりも信頼性の高い指標とされている(1つ目、2つ目は直近のキャンセルが影響しうるため)
各医師ごとにTNAAを毎週計算し、それを12週間分平均して算出した。(長期休暇やその他のエピソードでの影響を排除するため)
2)パネルサイズ
過去2年間に診療した「固有の患者 unique patients(*)」を足し合わせて計算
(*)患者カルテにその医師の名前が記載されている もしくは
(*)他の医師の診療を受けなかった
3)フルタイム勤務相当分(full-time equivalent value: FTE)
1週間に何日半日勤務をしたか(その勤務は指導などではなく、自分のプライマリケア患者の診療にあてた時間をカウント)「An FTE of 0.5」は5日間の半日勤務に相当

●統計解析
1)2変量解析 スピアマン相関係数(ブートストラップ法)
2)多変量回帰分析

4 結果

●記述疫学
調査に参加したのは主に医師であった(87人)27人はadvanced practice providers
5つの専門分野(・44 family medicine ・42 internal medicine ・13 medicine-pediatrics・13 pediatrics ・2 geriatrics)20箇所の医療期間
アウトカム
・平均パネルサイズ1,146 patients (SD 618)
・平均FTE 0.65 (SD 0.27)
・平均TNAA 25 days (SD 20).

●統計解析
1)TNAAはFTEと負の相関があった(スピアマン相関分析)
  Spearman correlation coefficient = −0.38 [95% CI, −0.53 to −0.23]
2)TNAAとパネルサイズの相関 ほぼゼロ
  −0.04 [95% CI, −0.21 to 0.14]
3)多変量回帰分析(表1)
  FTE        パネルサイズを補正した後でもTNAAと負の相関があった
  医師数/医療機関  TNAAと有意な関連はなかった
  パネルサイズ    FTEを補正した後ではTNAAと正の相関があった

5 考察

●研究結果のまとめ
・FTEの低さ
 パネルサイズおよび医師数/医療機関と独立してアクセスの悪さと関連していた
・パネルサイズ
 FTEと医師数/医療機関と独立してアクセスとの相関は強くない

●長所
 アクセス、パネルサイズ、FTEの3者の関連性をみた最大の研究
 独立的な関係性をみた研究としては初めて

●短所
・単一のヘルスケアシステムであること(ただし、複数の医療機関、異なった場所で実施)
・患者特性の分析は困難
・測定方法が静的(static) 今後の研究で改善の余地ある
・FTEの換算方法
1.0 FTEを10日間の半日勤務と換算するのは標準的ではない
通常週に1−2日のprotected timeが提供されていることが多い 書類作業などに対して

●先行研究
文献4)3つの医療機関 家庭医 小さな研究
> アクセスの悪さがパネルサイズの大きさに関連する
文献5)内科と家庭医 別々に実施
> TNAAとFTEが負の関連(パネルサイズの要素を分析していない)

●結語
1)まとめ
本研究の初見として、パートタイム勤務医師はフルタイム勤務医師と比べて患者の外来予約の取りやすさで劣る可能性が示された
これはパートタイム医師割合が増えている現状にとって重要な初見である
2)今後の解決策
・医師のチーム制
 パネルの共同管理 よりタイムリーな外来予約の提供(文献7−8)
・医師以外の職種とチームを作る
 伝統的なface to face診察を減らすため
・パネルサイズを減らすことだが、それを実現するのは難しいだろう

6 日本のプライマリケアへの意味 

・プライマリケアにおけるアクセスの重要性
 > 日本においても研究が必要
・アクセスの測定方法(TNAA)、パネルサイズの研究などの課題がある

以上

このサイトの監修者

亀田ファミリークリニック館山
院長 岡田 唯男

【専門分野】
家庭医療学、公衆衛生学、指導医養成、マタニティケア、慢性疾患、健康増進、プライマリケア・スポーツ医学