家庭医療の現場診療レベルにおける患者参画推進の取り組みの現状(第10回RJC#2)

ジャーナルクラブ 第10回
2018/09/27
岡田唯男

1 タイトル

家庭医療の現場診療レベルにおける患者参画推進の取り組みの現状
Anjana E. Sharma, Margae Knox, Lars E. Peterson, et al.
How Is Family Medicine Engaging Patients at the Practice-Level?: A National Sample of Family Physicians.
J Am Board Fam Med September-October 2018 vol. 31 no. 5 733-742
http://www.jabfm.org/content/31/5/733. 10.3122/jabfm.2018.05.170418
カテゴリー research journal club
キーワード 家庭医 ロジスティック回帰分析 患者中心のケア 患者参画推進 質改善 調査および質問票

2 背景・目的・仮説

●背景
Patient engagement is the active partnership of patients, families, and caregivers with health care clinicians and staff to improve health care delivery on the individual, organizational, and policy level.(1)

患者参画推進(patient engagement)は個人の診療レベルでは取り込みが進んでいるが、組織レベルでの導入はそれほどでもない。
患者参画推進はFQHCでは1970年代から取締役会(board of directors)の半分以上を患者にすることを義務付けている
PCMHの認証ではQI活動への患者参画推進が選択単位として認められている
Medicare/medicaid ACOではadvisory board (諮問会)に患者や家族、介護者を含むことが要求されている。
これまでの研究はFQHC/PCMHに限定されていた。
家庭医の診療現場における患者参画推進(patient engagement)が組織レベルでどの程度実践されているか、どのような方法が多いか、より強力な方法の採用がどのぐらいか、どのような因子が患者参画推進と関連するかなどについてこれまで研究が存在しない。

3 方法 研究デザイン

●方法
対象は2016年の専門医試験(初回/再認定)春/秋の受験者
質問紙による主たる診療現場での患者参画推進について+5人に一人はPCMHとQI活動についての質問

●分析モデル (fig 1)
構造/プロセス/アウトカム

●仮説 
構造(大きいグループなど)がより患者参画推進をサポートするのではないか?
地域(助成金)による差があるのではないか?
PCMH認証の診療所はより患者参画推進を取り入れているのではないか?

●組織の特徴(構造)
診療グループの大きさ、経営者の種類、地理的位置、vulnerable populationをケアする割合

●PCMHの特徴(プロセス)
自己申告によるPCMH認証の有無
AHRQのPCMHモデルの特徴(チームベースドケア、ケアの調整、患者アクセス、QI)(10)
チームベースドケア;ケアチームに関わる職種の種類
ケアの調整:ケアコーディネイターが採用されているか
患者アクセス:(患者が医師にメールできるか、時間外診療/診療時間延長、電話相談、オンライン患者サイト)
QI:個人的なQIへの参加、契約上のQI参加義務、慢性疾患管理へのフィードバックがあるか、慢性疾患管理の診療支援ツールがあるか

●診療レベルの患者参画推進(アウトカム)
"How do you, or your office practice, involve patients who are seen in your clinical site, or their families and caregivers, in practice improvement?"
選択肢(ご意見箱、患者/家族アンケート、経営会議への参画、QIに関わる諮問会への参画*、特定のQI活動へのボランティアもしくは職員としての参画*)

上記を弱い/強い(複雑で双方向性)介入の二つに分類(7、1) 上記*が「強い」介入 経営会議への参画はFQHCの要求事項であり形式的であることも多いので強い活動から除外

患者参画推進の過去の研究から質問を抜粋(11 同じ研究者)

●統計解析/感度分析 省略

4 結果

●結果
質問紙 6900
PCMHモジュールの回答 1368
100%(受験に必須なので)

●回答者属性(Table 1)
38.0%が2−5人グループ、32.4%が6−20人グループ
55%がprivate/solo
56.7%が10〜50%のvulnerable populationをケア

●患者参画推進活動(fig2)
「強い」活動は31.1%で実施 (これがPCMH認証診療所/それ以外だと58.5%vs 22.1%に p<0.001)(PCMHモジュールグループも同じ比率であり、代表性を確認)

●予測因子(table 2)
大グループ(>20人)(OR 3.30)
vulnerable populationのケア(OR 1.77)
PCMHの要素の中ではケアの調整(OR1.75)、QI活動(OR1.56) (それ以外は関連せず)

5 考察

●議論/解釈
early adopterからearly majorityの段階に入ったのではないか?
患者参画推進はQI活動を強化し、新しいプロジェクトの優先順位付けに有用な情報を与え、現在のプロジェクトがより患者に優しいかのフィードバックを与える(18−20)
大グループが「強い」活動を導入することと相関するが、2-5人の診療所でも28.2%が「強い」活動の導入をしている(できないわけではない)

●限界
横断研究なので相関のみ
外来がメインの家庭医のみ(内科、小児科のことは分からないが、米国外来ケアの大半は家庭医が提供)
vulnerable populationの用語の定義をしていないので回答者の解釈が異なる可能性
患者参画推進活動について自己申告
患者参画推進活動の分類や強い/弱いの定義は任意
強み 100%回答率/最も大きなデータセットの一つ

今の所患者参画推進活動がどのような利益をもたらすかははっきりわかっていない

このサイトの監修者

亀田ファミリークリニック館山
院長 岡田 唯男

【専門分野】
家庭医療学、公衆衛生学、指導医養成、マタニティケア、慢性疾患、健康増進、プライマリケア・スポーツ医学