若手家庭医における診療範囲と燃え尽き(バーンアウト)との関連性(第3回RJC#2)

ジャーナルクラブ 第3回
2018/05/31
岡田唯男

1 タイトル

「若手家庭医における診療範囲と燃え尽き(バーンアウト)との関連性」(第3回RJC#2)
Amanda K. H. Weidner et al. Burnout and Scope of Practice in New Family Physicians.
Ann Fam Med. May/June 2018vol. 16 no. 3 200-205.
doi: 10.1370/afm.2221
http://www.annfammed.org/content/16/3/200

カテゴリー research journal club
キーワード 燃え尽き(バーンアウト) 家庭医療 診療範囲

注:何度読んでもabstractに大きな間違いがあると思ったため、eletterを出しており、アクセプトされています。
http://www.annfammed.org/content/16/3/200.short/reply#annalsfm_el_30614

2 背景・目的・仮説・PICO

●背景
米国で最初のphysician burnoutの報告は2011年(1)、その後上昇している。(2)
burnoutの側面にプロフェッショナル、心理的、患者ケア側面などがある(3-17)
physician burnoutを同定したり予防したりする取り組みが進められている。(18)
physician burnoutへの様々な影響要因(個別、構造的、組織的)の研究から、介入策の提案が生まれてきている(19-24)

家庭医は医師の中でもburnout率の高い専門分野のひとつ(2)
既知の通り家庭医療は診療の幅が広い。その研修の幅の広さにもかかわらず、守備範囲(scope of practice)が狭くなってきているという最近の研究がいくつか存在する(25-29)
この現象は、研修中には実際に多くの家庭医が提供している範囲よりも幅広い診療をしたいと考えているにもかかわらず、おこっている(30)
家庭医の幅広い診療の恩恵は医療システムのレベルで明らかで(31 Starfield)、コストを減らし、入院の可能性も減らす(32)
しかし個人のレベルでは、雇用者や保険者、市場からの制限、またはライフスタイルへの影響などで、幅広い診療は挑戦となり得る(25,26,28,33-35)
幅広い診療のライフスタイルへのマイナスの影響の可能性にもかかわらず、診療範囲が家庭医のburnoutへ与える役割についてはまだ研究がされていない。
プライマリケアを強調するシステムで住民はより健康になり(31)、包括的家庭医療がコストを下げる(32)、ということはともに、triple aimの達成を目標として家庭医が幅広い診療をすることの根拠となる。
もし、幅広い診療がburnout率の低下と関連するならば、quadruple aimの達成にも寄与する(17)

●目的
家庭医の診療範囲と自己申告のburnoutとの関係を調べる

3 方法 研究デザイン・批判的吟味

●方法/研究デザイン
National Family Medicine Graduate Surveyの横断的分析
2013年にレジデンシーを修了した家庭医療専門医に対しABFM(家庭医療専門医認定機構)によって2016年に実施された調査。(そもそもの目的はレジデンシープログラムは認定基準を十分満たせるよう支援し、比較をするために、ABFMとAFMRD(レジデンシー責任者の会)とのコラボプロジェクト(37)。調査の内容は、修了後への現場への準備、診療範囲、診療施設の組織、満足度、burnoutを含んでいる(38)。家庭医の個人背景のデータ(demographics)はABFMの会員データベースから取得。

●メインアウトカム:自己申告のburnout
Maslach Burnout Inventoryの精神的疲弊要因と高い相関が認められている1項目を使用(39)
精神的疲弊要因が一般的にいわゆる'burnout'のことと認識されているのでこれを選択。(任意)
7項目中「週1回以上(上位3つ)」と答えた人を'burnout'と定義(2、15)

●診療範囲の測定:
surveyの1項目から2変数を設定 (入院と参加診療を含む)
Table 1 8臨床領域 commonな17手技(広義の手技:management of hepatitis Cなども)
table 2 メインの診療場所以外に定期的に診療を行っている9つのセッティング(救急、病院、在宅など)
労働量の測定は自己申告の1日あたり診療患者数と時間外の電話対応や週末や夜間の患者診療をやっているかどうかを聴取。(自己申告の1週間あたりの労働時間のデータもあったが、患者数と高い相関があり、除外した)

対象医師:外来の継続ケアを提供している医師に限定(診療範囲とburnoutの関連に関心があるため。言い換えればすでに診療のセッティングや診療範囲をurgent care、スポーツ医学、救急、hospitalistなどに絞っている人は除外)

●統計:対象を記述統計で分析
その後 burnoutのあるものと、ないもので、2変量解析(bivariate analysis)(table 3)
診療範囲とburnoutとの関連は個人的また診療施設のdemographicsを調整してロジスティック回帰分析 logistic regression analysisを実施 (table 4)
診療場所が増えることや手技の数は入院と産科の変数と高い相関のため、前者2つは回帰モデルからは除外した。

利益相反なし

4 結果

●demographics (table 2)
全体のburnout率 41.9%
平均手技数7.7
2069名の回答者(回答率67%)
対象者(患者の継続診療を行っている)は1617(78%)名、全体の52.4%

●demographics/診療負荷とburnoutとの関連 (table 3, table4)
女性 OR1.32
米国医学部卒業 OR1.37
上記は2変量でもロジスティック回帰でも有意にburnoutが多い
1日あたりの患者数、時間外電話対応、週末、夜間の患者診療はは関連なし

●診療範囲とburnoutの関連(table 3, table4)
2変量
1カ所以上での診療 とくに、病院診療、往診がburnoutが少ない
入院診療、産科診療、平均よりも多くの手技もburnoutが少ない
外来小児診療は関連なし
ロジスティック回帰
産科診療 OR 0.64
入院診療 OR 0.70
手技数は産科診療、入院診療と相関しているため解析せず

5 考察

●限界/制限
若手 (専門医取得3年後)
診療範囲の広さがburnoutの少なさと相関(特に入院と産科) (交絡因子?)
狭い診療の結果burnoutとなるのか、burnoutの結果狭くせざるをえないのかはわからない (因果関係はわからない)
自己申告なので想起バイアスや模範解答の影響
osteopathic physicianのデータがない

今後/日本で
同様の研究は有意と言える
MBIの正式な日本語訳は?

このサイトの監修者

亀田ファミリークリニック館山
院長 岡田 唯男

【専門分野】
家庭医療学、公衆衛生学、指導医養成、マタニティケア、慢性疾患、健康増進、プライマリケア・スポーツ医学