プライマリケアにおける社会的ニーズの拾い上げに関する臨床家の経験(第2回RJC #2)

ジャーナルクラブ 第2回
2018/05/16
岡田唯男

1 タイトル

「プライマリケアにおける社会的ニーズの拾い上げに関する臨床家の経験」(第2回RJC #2)
Sebastian T. Tong et al .
Clinician Experiences with Screening for Social Needs in Primary Care
J Am Board Fam Med May-June 2018 vol. 31 no. 3 351-363
doi:10.3122/jabfm.2018.03.170419
http://www.jabfm.org/content/31/3/351.full

カテゴリー research journal club
キーワード 統合ケア 社会的処方 social prescribing  社会的ニーズ 研究

2 背景・目的・仮説・PICO

●背景
SDHは健康アウトカムに影響を与える(1-6)
SDHの定義(7)
SDHの影響は医療よりも大きい(8-13)
にもかかわらず米国では資源の大半が(公衆衛生に対してやSDHよりも)直接の医療の提供に使われている(14)
幾つもの団体がプライマリケアと公衆衛生が統合してSDHの問題に取り組むべきと主張(15-18)
個人、家族、コミュニティーの包括ケアを目指している以上、プライマリケア医(PC医)は医療現場の中でどのようにSDHが拾い上げられ、対応されるかついて大きな役割を担いうる(20-22)
プライマリケアと公衆衛生の統合は以前から提案されている(COPC)(23-25)がまだ大規模では実現していない
そんな中12のSDHドメインの情報を電子カルテでわかるようにしておくべきとコンセンサスがNAM(national academy of medicine)からでた(26,27)
仕組みをうまく作れば臨床現場でPC医がSDHのスクリーニングを行うことは可能である(28-31)
しかし、SDHを知ることがアウトカムを改善させるかどうかはわかっていない。
また、より多くの情報を取得することは結局それに対応できないのであれば、臨床家にとっての負担増となり得る(32-34)(35-36)
ヘルスケアの中でSDHに対応すべきかどうかはまだわかっていない(21,36)
これまでの多くのSDH拾い上げの研究はunderservedな状況で行われた(28-30)、全員に拾い上げるように言われているが、裕福な地域での運用可能性や効果はわかっていない
リソースは"cold spot"に集中させるべきとの主張(37)
cold spotの同定方法は現在別研究で行っている(38)

●目的
日常診療で地理的なハイリスク群の患者からSDHの情報を取得し、どのようにその情報を利用するかについての臨床家の経験と考えを明らかにすること

3 方法 研究デザイン・批判的吟味

●方法/研究デザイン
混合研究(質がメイン) 2016/4〜2016/12
社会的ニーズを拾い上げる評価票 social needs screening instrument/social needs survey
を利用するPCC(Primary care clinician:医師以外も含むと考えられる)の経験について評価
また、並行してSDHについて学ぶlearning collaborativeについて参加
ヴァージニア北部の12の診療所から17人のPCC(半径45マイルの中に含まれる)
基本的に米国の中で平均収入が最も高い地域(96%は民間保険に加入、84.9%が英語を主言語)

cold spotの同定(地域の生命予後、貧困、教育、SDI(social deprivation index)の最も低い4分位)

cold spotに住む患者が17人の参加医師と予約を取ると、受診前に調査票でsocial nedsを評価(待合室)
医師ごとに対象患者が10人集まるまで実施 (18歳未満、英語が使えない人は除外)
調査票は独自作成(NAMの測定表(27)にHennepin County Lifestyle survey(43)から補足)
(Appendix A)
調査票が記載されたら医師が視察中にそれを確認
診療後、医師は構造化された日記(Appendix B)を1週間以内にオンラインで記載
(closed/oped questions)
調査票を見て、ケアや患者についての知識が変わったか、調査票の使用感はどうか?

並行して医師はSDHについて学ぶ4回のlearning collaborativeについて参加(ここには17人の被検者:医師だけでなく、3人の患者代表、3人のcold spotに住む患者、3人の診療所管理者、6人のpopulation health manager 合計32名を3グループに分割)

ここではcold spotの患者の健康アウトカムを提示、調査票の運用方法について意見をもらう

2回は調査票運用開始前、2回は調査票運用終了後に実施(前後比較を可能とする)
金銭的謝礼はなし

データ:learning collaborativeのテープ起こし、臨床家の日記エントリー、調査票の結果
質的な情報はtemplate approach(47)で3人で独立して分析。

4 結果

●結果
215人の患者のうち123人が調査票を記載(22拒否、13予約に来ず、23予約キャンセル、18運用上の不備でできず(時間制約、調査表紛失、記載せずなど)、1英語読めない、15は不明)
●SNSIの結果 (table1)
少なくとも1つ以上ニーズのあったのは86.2% 運動を除くと 70.7% 一方でhelpを求めたのは3.3% (ただ項目によっては100%一致 safetyなど)
●臨床家の日記 (table2)
ケアの内容が変わった(良い方に)22.5%(77.5%は変わらなかった)
情報は参考になった 33.9%
cold spotに住んでいるということは参考になった 33.3%
患者のことをさらによく知る助けとなった 52.5%
自由記載では実施前は意義がわからないとしていたものも、実施後は意義が分かったと

●自由記載の質的分析(table3)
以下大項目
* social needsの評価は難しく、リソースがかかる
*  social needsのある患者の支援のための資源が少なすぎる
* 社会的なサービスの提供の助けとはならないが、患者をよく知る助けとなり、医師患者間のやりとりを変える
* 情報の集め方、支援の仕方、健康への影響についてのエビデンスがもっと必要

5 コメント 考察

●考察
実際の臨床家の使用体験が新たな知見となった
ケアの内容やコミュニケーションが変わった
裕福な地域でもsocial needsがかなり存在することがわかった

普及と運用にはまだまだわかっていないことが多い
拾い上げたあとの社会的処方リソース、どのように対応するか、地域のパートナーとの連携方法が不十分

多くにニーズがあるが、helpを希望するのはわずか
(ニーズのある人全員への対応はいろいろな制約があるが、逆にhelpを希望するグループだけに集中することは可能)

●限界
1 被験者の選択バイアス(興味のある人だけが手を挙げている)
2 患者の選択バイアス
a) cold spot以外に住む患者の排除(より格差によるdeprivationの実感が大きいかもしれない)
b)英語の読めない患者の排除(よりニーズがある可能性)
c) 予約に来なかった患者の排除(アクセスに障害の大きい患者の可能性)
3  サンプルサイズが少ないかも
4 調査票がvalidateされていない
5 患者サンプルが少なくそれらの患者の社会的ニーズの結果に対しての医師の反応しか見られていない

このサイトの監修者

亀田ファミリークリニック館山
院長 岡田 唯男

【専門分野】
家庭医療学、公衆衛生学、指導医養成、マタニティケア、慢性疾患、健康増進、プライマリケア・スポーツ医学