プライマリケアにおける緩和ケアニーズのコンピューターでのスクリーニング:混合研究法による調査(第2回RJC #1)

ジャーナルクラブ 第2回
2018/05/16
高橋亮太

1 タイトル

●タイトル
「プライマリケアにおける緩和ケアニーズのコンピューターでのスクリーニング:混合研究法による調査」(第2回RJC #1)
Bruce Mason, Kirsty Boyd, John Steyn, Marilyn Kendall, Stella Macpherson and Scott A Murray. Computer screening for palliative care needs in primary care: a mixed-methods study. Br J Gen Pract May 2018 68:e360-e369; doi:10.3399/bjgp18X695729

2 背景・目的・仮説・PICO

●背景
70%以上の人々は亡くなる1年前から緩和ケアによる恩恵を被ることができるはず
しかし、実際には亡くなる数週間前もしくは全く緩和ケアを受けないことも多い
特にマルチモービディティやフレイル患者において
GP(スコットランドにおけるプライマリケア医)もそれらの患者の中から緩和ケアが必要な患者を同定することに困難を感じている

●目的
コンピューターアプリケーション(AnticiPal)の有用性を評価すること
GP診療所において登録患者のうち、緩和ケアが必要な患者をリストアップする
GPおよび患者・介護者にインタビューして詳細を

3 方法 研究デザイン・批判的吟味

●研究デザイン mixed-method 混合研究法

●対象
8つのGP診療所 スコットランド 6ヶ月間(2016〜2017年)
> 都会と田舎 deprivation indicatorsを踏まえて幅広く抽出

●方法
1.ソフトウェアによる緩和ケア該当患者のリストアップ
反復ソフトウェア開発ライフサイクル法(図1)
以前に開発したアプリケーション(AnticiPal)をさらに確固たるものとするため
AnticiPal 電子カルテ中のRead Codesを読み取る
> 単一用語 もしくは 複数用語の組み合わせで(Appendix 1, 2)
緩和ケアが必要な患者をリストアップする
除外基準 すでに緩和ケア登録済み ケアホームに居住等

2.グループインタビュー 医療従事者
6つの学際的な(multidiciplinary)会合を実施
1.の検索結果について討議

3.患者および介護者のインタビュー
それぞれの対象診療所ごとに2名以上の患者および介護者
※version 1 to version 2への変更
Ver.1での患者数が多いため、検索アルゴリズムを修正 > Ver.2とした

●批判的吟味
サンプルサイズの計算 > 記載なし
抽出バイアス     > 匿名化して統計操作を実施
回答バイアス     > インタビュー 匿名化 コード化(性、年齢群、役割)
交絡因子の調整    > 記載なし
研究資金源      > Marie Curie, Edinburgh and Lothians Foundation, and the OAK Foundation as part of a Lothian Palliative Care redesign project

4 結果

●結果
1.ソフトウェアによる緩和ケア該当患者のリストアップ
 全体で62,708名を検索 → 512名(0.82%)をリストアップ (表1)
 8つの診療所 → 0.61%〜1.23%の分布

Table 1.
Summary of patients identified for AnticiPal versions 1 and 2a

Patients identified IP1 IP2 IP3 IP4 IP5 IP6 IP7 IP8 Total
Version 1 462 111 342 332 429 205 333 245 2459
Version 2 55 29 63 69 78 41 106 71 512
List size 4459 3086 9971 10 832 9367 6766 10 847 7380 62 708
V2 by list size 1.23% 0.94% 0.63% 0.64% 0.83% 0.61% 0.98% 0.96% 0.82%


2.グループインタビュー 医療従事者
ソフトウェアの実用性
> プライマリケアチームのジレンマ 現在の仕事量と追加の緩和ケア該当患者への対応
非癌患者の同定
> 非癌患者で緩和ケアが必要な患者が増えている
前緩和ケア状態(pre palliative status)の把握

3.患者および介護者のインタビュー
人生における独立性(independence)
> 将来について「計画(planning)」することへの抵抗感
NHS リソースについての意見
> GPは忙しすぎて、そのような「計画」について話す時間はないだろうと推測
緩和ケアについての理解欠如

5 コメント 考察

●コメント
・コンピューターアプリケーション 第3者に委託 匿名化して情報提供
 検索結果を返信されるシステム 1%程度のリストアップ率
 > 現場のGPの負担は少なく患者抽出できる可能性
・グループインタビュー
 医療従事者:非癌患者 前緩和ケア状態の抽出
 > 今後の課題
 患者、介護者:緩和ケアへの理解が進まない現状
 > 独立性、抵抗感、stigmaなどある 今後もpublic sector含めた啓発が重要
・mixed-method 混合研究法における批判的吟味の方法
 そもそも混合研究法とは?
 > 参照:樋口2011(日本国際保健医療学雑誌)
・ACP Anticipatory Care Planning
 > NHS Scotland特有の概念 割と新しい用語
・KIS Key Informtation System
 > ACPによって記載された電子記録 多職種で共有

6 参考文献

●参考文献
 文献7 ACP Anticipatory Care Planning
 NHS Scotland特有の概念 割と新しい用語

 文献12 AnticiPalについての先行研究

このサイトの監修者

亀田ファミリークリニック館山
院長 岡田 唯男

【専門分野】
家庭医療学、公衆衛生学、指導医養成、マタニティケア、慢性疾患、健康増進、プライマリケア・スポーツ医学