SKY-DEX
【Reviewer】RU・RY
【論文】Skrobik Y, Duprey MS, Hill NS, Devlin JW. Low-Dose Nocturnal Dexmedetomidine Prevents ICU Delirium. A Randomized, Placebo-controlled Trial. Am J Respir Crit Care Med. 2018;197(9):1147-1156. doi:10.1164/rccm.201710-1995OC.
【Research Question】せん妄のないICU患者において夜間低用量DEXの点滴を行うとプラセボに比べてICUでのせん妄発生を予防するか
【わかっていること】
- せん妄は入院日数を伸ばし, 医療費や長期死亡率を悪化させる
- DEXはpropofol (prop)やbenzodiazepine(benzo)と比べてせん妄発生率が低い
- 心臓外科を除く軽症術後患者においてはDEXを24h使用するだけでせん妄発生率が下がった
【わかっていないこと】
- Propやbenzoの使用によるせん妄が多いせいでDEXのせん妄発生率が低いのか, DEXにせん妄予防効果があるのかは不明.
- ICU入室患者のような重症患者においてDEXにせん妄予防効果があるのかは不明
【仮説/目的】21:30-6:15の間, RASS -1を目標にDEXを0.2-0.7mcg/kg/minで15分おきに調整して投与したら, ICU入室中の非せん妄日数がプラセボよりも伸びる
【PICO】
P: 48時間以上ICU滞在が見込まれる患者で, 既に鎮静が導入されている患者
Inclusion Criteria:ICUに入室した成人患者、48時間以上滞在見込み、間欠的ないし持続的に鎮静薬(ミダゾラム、ロラゼパム、プロポフォール)が投与されている患者。
Exclusion Criteria:ICDSC >=4, 重症認知症, 脳出血などのせん妄評価困難患者, アルコール離脱, HR<50などdexの投与が困難な患者, Child B/Cの肝障害, PM未導入の房室ブロック患者, クロニジン/DEXで治療中, 妊婦, 英語/仏語を話せない
I :21:30-6:15にDEXを0.2-0.7mcg/kg/min、15分おきに調整して投与
C:5%Glu
O:ICU入室中にせん妄を発生しなかった患者の割合
【期間】2013/2-2016/1
【場所】カナダ16床ICUとアメリカ10床ICUの2施設
【デザイン】二重盲検プラセボ対照群RCT
- ランダム化の方法: コンピューターによるランダム生成、ブロックランダム化(サイズ4)
- マスキング:医療者・患者・アウトカム評価者・データ評価者はマスキング
薬剤は薬剤師により見分けがつかないように用意される - 隠蔽化の有無: あり
【介入郡】デクスメデトミジンを21:30から06:15まで0.1-0.7mcg/kg/hrで投与
【対照群】プラセボ(5%Glu)を21:30から06:15で0.1-0.7mcg/kg/hrを投与
【両群共通】0.2 mcg/kg/hr で21:30からRASS-1を目標に開始し、RASS-1を目標に薬剤を0.1mcg/kg/hr増量ないし減量し15分毎に評価する。最大投与量は0.7mcg/kg/hr。06:15に終了する。薬剤開始前にすでに始めている薬剤を50%減量する。もともとの内服薬は変更しない。興奮がある場合はMidazolamで治療。鎮痛はフェンタニルで行う。人工呼吸はAC/PCもしくはPACで管理。
【主要評価項目】ICDSC≧4で定義されるせん妄を発生しなかった患者の割合
【副次評価項目】RASS<-4意識障害発生率, ICU入室中の非せん妄日数, 各RASSスコアで何時間過ごしたか, RASS測定回数, 夜間疼痛程度, 鎮静薬/麻酔薬/ステロイド使用量
【解析】
- サンプルサイズ計算: 先行研究がないのでせん妄発生率の予測は行わず, 100名と決めた.
- ITT解析:あり
- その他の解析:cox hazard解析でせん妄発生していない患者の割合を計算
【結果】
- フローチャート:375人をスクリーニングし110人が組入基準を満たし100人が割り付けられた。脱落はなし
- 集団特性:62歳、APACHE23.6 vs 21.9、人工呼吸患者45 vs 44、せん妄リスクスコアが54 vs 51、RASS≧0の患者が31vs21、RASS<0の患者が19 vs 29人であった。
- 主要評価項目:
非せん妄患者の割合はDEX群で統計学的有意に多かった (AR 80 vs 54%, RR 0.44(p=0.006, 95% CI 0.23-0.88))ARR24% - 副次評価項目:
・ICU滞在中の非せん妄日数は8日 vs 6日で有意差を認めた。
・Leeds Sleep Ecaluation Questionnaireによる睡眠の質に有意差はなかった
・低血圧, 徐脈の割合はDEX群の方が多かったが統計学的有意な差はなかった
・RASS -1の目標を達成するためのprop投与量はDEX群の方が少なかった. (22.6±18.4, 34.9±31.9 mcg/kg/min)
・ICU滞在、入院期間、早期離床、ICU死亡に有意差はなかった。
【Strength・Limitation】
- Strength
・最初からせん妄の患者をenrollしていないのでinterventionの治療効果ではなく予防効果を確認できる
・臨床的に意味のあるアウトカムを設定して研究している
・両群の鎮静薬の介入protocolも丁寧に設定されている
・フォローアップに漏れがない
【批判的吟味】
<内的妥当性>
- アウトカムのせん妄発症はICDSCで定義されており、主要評価項目が主観評価による
- ベースラインに差があり対照群で飲酒が多い、無鎮静患者5割弱いる
- DEX群の方が心拍数の低い傾向があり, 介入者は薬剤の反応性をみるためマスキングが完璧にならなかった可能性がある。この点でperformance biasが生じうる。
- 誤差を厳密に検出するためのサンプルサイズ計算はされていない。
- ICU退室タイミングは患者によって異なるので, ICU退室後のせん発生はフォローできない. しかし両群でICU入室期間はmedian 9-10日で類似しており, どちらかの群にright censoringが多い訳ではない
- early mobilityは研究期間の間に徐々に盛んになってきた概念でほとんど実施されていない (8 vs 10%) 同様に, 3年間の治療期間はperformance biasに関わる.
- ステロイド使用量はDEX群の方で多く, (44 vs 16%) これが結果に影響しているのかは不明である
- ICDSCの測定タイミングが統一されていないためdetection biasがある。
<外的妥当性>
- inclusion/exclusion criteriaを満たす患者は限られる
【Implication】
鎮静薬をすでに使用している患者に対して低用量DEXを夜間投与することでICU患者のICDSCで定義されるせん妄の割合が24%減少することが示唆された。
せん妄研究の難しいところであるが、せん妄の診断評価が主観的であり、マスキングがきちんとできない場合にバイアスの影響を受けやすいことが予想される。また、せん妄が減るにも関わらず、ICU滞在、ICU死亡には差はついておらず、ハードアウトカムに影響を与えるかはまだ不明である。2群間のベースラインの差もあり、小規模RCTでは効果量が増大して見えがちであることも考えると今後研究期間を短縮、外的妥当性しつつ、 サンプル計算を行ったハードアウトカムを検証するphase IIIの研究が期待される。
【本文サイト】
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/29498534
【引用】
Skrobik Y, Duprey MS, Hill NS, Devlin JW. Low-Dose Nocturnal Dexmedetomidine Prevents ICU Delirium. A Randomized, Placebo-controlled Trial. Am J Respir Crit Care Med. 2018;197(9):1147-1156. doi:10.1164/rccm.201710-1995OC.
このサイトの監修者
亀田総合病院
集中治療科部長 林 淑朗
【専門分野】
集中治療医学、麻酔科学