microbiology round

本日のmicrobiology roundは、Yersinia pseudotuberculosisでした。血液培養と喀痰培養の両方から検出された非常に貴重な肺炎症例です。病歴からはどこから入ったかは不明でしたが、使用していない井戸があったようです。以下、まとめを添付します。

(微生物学)
Yersinia属は腸内細菌科細菌に分類される多型性グラム陰性桿菌で芽胞や莢膜を持たない(喀痰のスメアは様々な形ですね)。本菌属には現在11菌種があり、このうち人や動物に病原性を示すものとして、本菌の他にY. enterocoliticaとY. pestisが含まれる。本菌は至適発育温度が28度付近で、4度以下でも発育可能な低温発育性の病原菌として知られている。0抗原により、現在1-15の血清群に分類され、亜群を含むと21種類の血清群が知られている。Y. pestisと遺伝子学的に80%以上類似している。

(疫学)
1883年に初めてヒトから分離され、世界中で報告がある。日本では、1913年に初めてヒトの敗血症症例から分離された。1981年に岡山県で集団発生事例が確認され、いままで泉熱(いずみねつ、と呼びます。水由来ではなく医師の名前からきているようです)と呼ばれていた発熱・発疹を主症状とする原因不明の感染症はYersinia pseudotuberculosisの感染によるものであることが明らかになった。下記のような15例の集団発生が報告されているほか、散発例も毎年報告されている。Y. entericoliticaとは異なり、秋から春にかけての寒冷期がほとんどで夏季にはあまり見られない。患者の年齢分布は、2-3歳をピークにする小児に多く、成人では稀である。

(臨床症状)
一般的には、下痢・腹痛などの胃腸炎症状を示す(腸間膜リンパ節炎)が、そのほかに発疹、結節性紅斑、咽頭炎、苺舌、四肢末端の落屑、リンパ節腫大、肝機能低下、腎不全、敗血症など多様な症状を呈する。

(保菌動物)
産業動物では、ブタやヒツジが保菌動物として知られており、比較的高率に本菌が分離される。ウマやニワトリからは分離されない。伴侶動物であるイヌとネコも保菌動物であり数%程度で分離される(不顕性)。野生動物では、ノネズミが高率に保有しているが、Yersinia pseudotuberculosisを保有しているのは西日本と北海道にほぼ限られている。東日本では、Y. entericolitica 08が分布している。また、本菌はサル、シカ、イノシシ、ノウサギなど多種の野生動物から分離され、我が国ではタヌキが本菌を高率に保有している。また、野鳥も保有動物である。
食品では、食肉、特に生の豚肉に限られており、豚肉からは比較的高率に分離される。また、沢水や井戸水からも分離される。

(感染経路)
集団感染事例では、本菌に汚染された豚肉や食品の摂取による場合も報告されているが、散発例の多くは本菌に汚染された沢水や井戸水の摂取による水系感染によるものと考えられている。また、保菌動物であるイヌやネコとの接触による感染事例も報告されている。

(治療)
Yersiniaの薬剤感受性は、血清型によって様々なので分離株の感受性パターンにしたがって決定する。
Y. entericoliticaで最も多い03は、染色体性にβラクタマーゼを持つのでペニシリンやアンピシリン、第一世代セファロスポリンに耐性。Yersinia pseudotuberculosisはβラクタマーゼを持たないので、アンピシリンが第一選択。代替薬はゲンタマイシンやテトラサイクリン。マクロライドには耐性。

写真はひだり上からエルシニア選択培地のCIN培地、BTB、喀痰塗抹です。

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このサイトの監修者

亀田総合病院
臨床検査科部長、感染症内科部長、地域感染症疫学・予防センター長  細川 直登

【専門分野】
総合内科:内科全般、感染症全般、熱のでる病気、微生物が原因になっておこる病気
感染症内科:微生物が原因となっておこる病気 渡航医学
臨床検査科:臨床検査学、臨床検査室のマネジメント
研修医教育