亀田感染症ガイドライン:リケッチア感染症

亀田感染症ガイドライン
リケッチア感染症

【問診・診察】

  • 症状が非特異的なため、皮疹、季節、暴露歴、居住地からリケッチア症を「まず疑うこと」が重要。
  • 皮疹をみて判断に困ったら、感染症科にご相談ください。

(1)症状

  • 発熱、皮疹、倦怠感、頭痛、全身痛などの非特異的な症状で受診することが多い。

(2)曝露歴・居住地

  • 野山に入ったかどうか(山での仕事・畑仕事・散歩など)を聴取する。
  • 流行地では、問診しても曝露歴がはっきりしないことがある。リケッチア症の好発地域である南房総在住であること自体が感染のリスクであり、普段の生活居住地域を確認することが重要である。
  • ツツガムシやマダニに刺されたことを自覚する患者は少ない。

(3)身体所見

  • 発熱、皮疹、刺し口が三徴。
  • 皮疹、刺し口は患者自身が気づかずに、訴えないことがあるので、注意深く診察する。
  • 皮疹を認める場合でも、皮膚の表面(表皮)には異常をきたさない。疼痛、掻痒感を伴わず、浸潤を触れる。
  • 皮疹の分布は、ツツガムシ病では体幹優位、日本紅斑熱は四肢優位であることが多い。
  • 必ず全身の皮膚所見を確認する。大腿部の皮疹は観察しやすい。
  • 刺し口は、全身の隅々まで探す。腋窩、膝窩、臍、陰部、頭部、腕時計の下、下着の当たる部分などは見落としやすいので注意する。

【参考所見】
血液検査:血小板減少、肝逸脱酵素上昇、低ナトリウム血症、CRP上昇、異型リンパ球
尿検査:尿潜血、尿蛋白陽性
これらの検査異常はリケッチア感染症に特異的ではないので、参考程度に留める。

【確定検査】
検査提出と保健所連絡は、感染症科で対応しますので、ご連絡ください

<必要な検体> 初診時に、以下を保存しておく。冷蔵、冷凍は問わない。

  • 痂皮(PCR用):ピンセットで剥いで、滅菌スピッツに入れる
  • 全血(PCR用):血算スピッツ
  • 血清(抗体用):生化スピッツ

<解説>

  • 診断はペア血清の抗体検査で行う。1回目(急性期)から、約2週間後に2回目(回復期)のペア血清をとる。IgMの有意な上昇(≧40倍)か、急性期と回復期のペア血清で、IgGが4倍以上の上昇を認める時に、確定診断とする。
  • 抗体検査は、ツツガムシ病の標準三型(Kato、Karp、Gilliam)についてのみ保険収載されており、電子カルテでオーダー可能(2回目のペア血清提出を忘れないこと)。Irie/Kawasaki、Hirano/Kuroki、Shimokoshiの非標準型による感染であった場合には、通常の抗体検査では見逃す可能性がある。標準三型の抗体が陰性でも臨床的にツツガムシ病を疑う場合は、保健所経由で各地方衛生研究所に抗体検査を相談する。
  • 抗体検査の欠点は時間を要することで、回復期の血清提出時には治療は終了していることが多い。迅速に診断したい場合には、ツツガムシ病、日本紅斑熱ともにPCR検査が有用である。PCR検査は、刺し口の痂皮・紅斑部の生検組織、全血(buffy coat)、血清の順に感度が高い。通常は、回復期のペア血清がそろった時点で、PCR用の検体(当院では痂皮、全血:血算スピッツ)を一緒に提出するが、重症で診断を急ぐ場合には、急性期の血清、痂皮、全血がそろった時点で、検査の実施が可能か保健所に相談する(感染症科が対応します)。

【治療】

  • 治療の遅れが重症化につながるので、臨床的に疑う場合は、検査結果を待たずに治療を開始
  • 大半の症例では、治療開始後2-3日で速やかに解熱し、症状が改善する。
  • 臨床的改善に乏しい場合は別の鑑別疾患を考える。
  • 第1選択薬は、ツツガムシ病も日本紅斑熱も、テトラサイクリン系抗菌薬。
    点滴:ミノサイクリン 100mg 12時間おき
    内服:ドキシサイクリン 100mg 1回1錠 1日2回

    ミノサイクリン 100mg 1回1錠 1日2回

    ※ミノサイクリンはめまいが出やすいので、高齢者に使用する場合には注意が必要である。
  • 第2選択薬は2つの疾患で異なる
    ツツガムシ病:アジスロマイシン(ニューキノロン系抗菌薬は無効)
    日本紅斑熱:ニューキノロン系抗菌薬
  • 治療期間:7-14日間(中等症以上では10-14日間)
  • 重症の日本紅斑熱では、テトラサイクリン系抗菌薬に加えニューキノロン系抗菌薬の併用を推奨する専門家もいるが、併用療法がテトラサイクリン単独療法に比して優位であることを示した比較試験は存在しないため、当院ではテトラサイクリン系抗菌薬単剤で治療している。

【参考文献】

Derma. (1343-0831)242号 Page185-190(2016.04)
Hospitalist (2188-0409)5巻3号 Page519-528(2017.09)
忽那賢志、山藤栄一郎、高橋徹・他. 感染症診療とダニワールド; 2016.
Kansenshogaku Zasshi. 1992;66:201-5.
Emerg Infect Dis. 1997;3:105-11.
Intern Med. 2012;51:2313-20.
Ann N Y Acad Sci. 2006;1078:60-73.

注意:上記を臨床現場に適応するは、担当医の責任のもと行ってください。

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このサイトの監修者

亀田総合病院
臨床検査科部長、感染症内科部長、地域感染症疫学・予防センター長  細川 直登

【専門分野】
総合内科:内科全般、感染症全般、熱のでる病気、微生物が原因になっておこる病気
感染症内科:微生物が原因となっておこる病気 渡航医学
臨床検査科:臨床検査学、臨床検査室のマネジメント
研修医教育