亀田感染症ガイドライン:抗MRSA薬の使い方
亀田感染症ガイドライン
抗MRSA薬の使い方
2018年6月最終更新
【要点】
- MRSA感染症の治療は、原則としてバンコマイシン(VCM)を第1選択薬に使う
- VCM以外に3種類の薬剤が使用可能であるが、第1選択となる状況は非常に限られる
- バンコマイシンとテイコプラニンは、血中濃度(トラフ濃度)の測定が必要である
(1)抗MRSA薬の適応
- βラクタム系抗菌薬に耐性のグラム陽性菌による感染症、またはその疑い
- 菌種:MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)、PRSP(ペニシリン耐性肺炎球菌:ただし髄膜炎に限る)、アンピシリン耐性腸球菌(E. faecium)、βラクタム薬耐性Corynebacterium、βラクタム薬耐性Bacillus cereusなど
- 感染臓器
- MRSA:菌血症、IE、CRBSI、骨髄炎、肺炎、皮膚軟部組織感染症、髄膜炎
- PRSP:髄膜炎
- E. faecium:尿路感染症、胆管炎(重症な場合にカバーを考慮する)
- これら以外の菌種:contaminationのことが多いため、真の感染か判断が必要。治療方針については、感染症科にご相談ください。
(2)抗MRSA薬の使い分け
- 原則としてバンコマイシンと第1選択薬として使用する
- バンコマイシン対して、明らかに治療効果が優れると示された薬剤はない
【バンコマイシン】(点滴)
- 第1選択薬
- MRSA感染症における使用経験とEvidenceが豊富である
- 初回投与量:25-30mg/kg(体重は実体重を用いる、max 2g/回まで)
- 2回目からの投与量:腎機能正常の場合、15-20mg/kgを8-12時間おきが目安となる
- 2回目からの投与量と投与間隔については、TDM(therapeutic drug monitoring:治療薬物モニタリング)担当者(薬剤師)に相談する
- 4(5)回目の投与直前に血中濃度(トラフ濃度)を測定する。目標トラフ濃度は、15-20 ?g/mL。治療効果と副作用モニタリングのため測定。
- 主な副作用
- 腎障害(透析をしていない進行したCKD患者の場合には特に注意する)
- Red man症候群(体幹上部の皮膚発赤) - 投与速度:投与速度が早すぎるとRed man症候群が起こりやすくなる。500mgあたり30分以上→1g以下の場合:1時間点滴、 1gより多い場合:2時間点滴。
- 溶解液:5mg/ml以下の濃度が望ましいとされるが、500mgを100mlに溶解→非現実的。1g以下の場合:100mlに溶解、1gより多い場合:250mlに溶解。
※内服薬は腸管から吸収されず、MRSA感染症では使用しない。メトロニダゾールに反応しないCDI(Clostridium difficile infection)で使用。
【テイコプラニン】(点滴)
- バンコマイシンより優れているデータはないため、第1選択にはならない
- バンコマイシンで薬剤熱・薬疹がでた場合、比較的安全に使用可能とされる(副作用10%未満)
- 血中濃度(トラフ濃度)測定が必要だが、外部発注のため数日間かかる
- 使用検討する場合は、適応・投与量について、感染症科にご相談ください
【リネゾリド】(商品名:ザイボックス)(点滴、内服)
- 菌血症への治療効果は、バンコマイシンに対して劣る可能性がある
- 肺炎、皮膚軟部組織感染症が適応となる
- 経口薬があるため、外来治療が可能
- 使用検討する場合は、適応について感染症科にご相談ください
- 投与方法:
(点滴)600mg 12時間おき
(内服)600mg 1日2回
【ダプトマイシン】(商品名:キュビシン)(点滴)
- 菌血症、IE、骨髄炎、皮膚軟部組織感染症で適応あり
- 肺サーファクタントで不活化されるため肺炎には使用できない
- バンコマイシンが使用できない場合(進行する腎不全、アレルギー、副作用など)、MRSAのVCMのMIC=2で治療経過が悪い場合に、使用を検討する
- 使用検討する場合は、適応・投与量について、感染症科にご相談ください
- 投与方法:
基本投与量:6mg/kg 24時間おき
重症感染症・IE・骨髄炎・人工物感染・椎体炎の場合:8-10mg/kg 24時間おき
※CCr < 30 ml/minの場合は、48時間おきに投与
【参考文献】
1) Clin Infect Dis 52:e18, 2011 米国感染症学会のMRSA診療ガイドライン
2) Am J Health-Syst Pharm. 66:82, 2009 米国のバンコマイシンのTDMガイドライン
3) 日本化学療法学会抗菌薬TDMガイドライン, 2012
4) Circulation. 2015;132:1435-1486 AHAのIEガイドライン
5) Clin Ther 2009;31(9):1977-86
注意:上記を臨床現場に適応するは、担当医の責任のもと行ってください。
このサイトの監修者
亀田総合病院
臨床検査科部長、感染症内科部長、地域感染症疫学・予防センター長 細川 直登
【専門分野】
総合内科:内科全般、感染症全般、熱のでる病気、微生物が原因になっておこる病気
感染症内科:微生物が原因となっておこる病気 渡航医学
臨床検査科:臨床検査学、臨床検査室のマネジメント
研修医教育