microbiology round

本日のmicrobiology roundは、Edwardsiella tardaについてでした。

【歴史】
Edwardsiella属は1962年に初めて報告された。実は最初の報告は日本からであり、養殖ウナギで"ちょうまん"や"鰭赤病(ひれあか病)"と呼ばれる疾患の原因菌としてAeromonas hydrophilaとともに報告された。当時は新種のParacolobacterium anguillimortiferumという名称で報告されたが、その後報告されたE. tardaと同一菌種であることが判明した。種名としてはP. anguillimortiferumが本来であれば優先されるべきだったが、すでにE. tardaが広く使用されていた点、P. anguillimortiferumとして報告された菌株が残されていないなどの理由からE. tardaの名称となった。その名残りで、日本のウナギにおけるEdwardsiella感染症は通称パラコロ病と呼ばれており、Paracolobacteriumから由来している。
EdwardsiellaはE. tarda、E. ictaluri、E. hoshinaeの3つのspeciesで構成される。E. tarda、E. ictaluriは魚類へ感染することが多く、それに対してE. hoshinaeは爬虫類や鳥類に感染する。さらに、Panangala らは淡水魚から分離されたE. tardaとE. ictaluriが鑑別可能であることを発見し、E. tardaはインドール産生、メチルレッド還元、硫化水素生成が特徴であると報告した。

【微生物学的性状】
Edwardsiella tardaは、腸内細菌科に属する短いグラム陰性桿菌で通性嫌気性菌である。大きさ2~3×1μm程度。通常運動性。(真鯛とブリから分離された株は非運動性でありvariantと考えられている)
Nacl濃度0〜4%(海水は約3.5%)、pH 4.0〜10.0、温度14〜45℃で生存可能。生化学的性状はグルコース発酵、カテラーゼ陽性、シトクロムオキシダーゼ陰性、インドールおよび硫化水素を生成可能であり硝酸塩を亜硝酸に還元、などの特徴が挙げられる。
一方でクエン酸利用、硫化水素生成、マンニトールおよびアラビノース発酵は、Edwardsiella属の中でもバリエーションがある。この差によりEdwardsiellaはwild typeとbiogroup 1に分類される。Wild typeはマンニトール・アラビノース・スクロースを産生せず硫化水素を産生し、Biogroup 1はその逆である。
生化学的性状はサルモネラと似ているが、サルモネラは原則マンニトール・ソルビトール・ラムノースを発酵しコリスチン感受性である点が異なる。

【ヒト以外への感染】
典型的には淡水や汽水(海水と淡水が混ざっているところ)から検出される。それゆえ、淡水・海水の魚類由来の報告が多い。ウナギ・ヒラメ・マダイ養殖においてEdwardsiella属による感染は大きな問題となっており、不活化ワクチン開発も行われている。
また他にも無脊椎動物、両生類、爬虫類、哺乳類(ヒト、ウシ、ブタ、イヌ)など幅広い種類の生物から検出されている。E. tardaに感染した魚の症状は多彩だが、所見として色素沈着、食道炎、目の不透明、腹部腫脹、臀部および皮膚の点状出血、および直腸ヘルニアなどを認める。多くの生物に感染しうるため流行可能性が高く、人獣共通感染症として重要な微生物である。

【ヒトへの感染】
ナマズやウナギなどの感染生物を摂食した結果、ヒトの腸管からも検出された報告がある。通常、ヒトの腸管内にcolonizationする確率は極めて低く、日本人の保有率は0.0073%である。
・腸管感染症
ヒトに感染する場合に起こす疾患は80%が腸炎である。嘔気や嘔吐は原則認めない。微熱および間欠的な水様下痢が出現する程度であり、基本的に対症療法で自然軽快する。特異的な治療は原則不要。
・腸管外感染症
もっともcommonなものは創部感染である。魚のヒレやヘビを触ることが原因となり、Aeromonas hydrophilaなどとの混合感染もしばしば認められる。本例のような胆管炎、腹腔内膿瘍、感染性心内膜炎、椎体炎、膿胸、腹膜炎、髄膜炎なども報告されているが、稀である。
菌血症は感染症例の5%にとどまる。死亡率と関連する因子は肝硬変が唯一知られている。免疫不全、胆道疾患、悪性腫瘍、糖尿病を基礎疾患として持つことが多い。死亡率は45%と報告されている。

【治療】
多くの抗菌薬に感受性がある。βラクタマーゼ産生株がほとんどだが、ペニシリンとオキサシリン以外のβラクタム薬耐性は報告されていない。他、セファロスポリン、アミノグリコシド、フルオロキノロンST合剤、テトラサイクリンには通常感受性である。シナジー効果の証明はされていないが髄膜炎や敗血症性などの重症例にはβラクタム薬+アミノグリコシドで治療を行うこともある。

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このサイトの監修者

亀田総合病院
臨床検査科部長、感染症内科部長、地域感染症疫学・予防センター長  細川 直登

【専門分野】
総合内科:内科全般、感染症全般、熱のでる病気、微生物が原因になっておこる病気
感染症内科:微生物が原因となっておこる病気 渡航医学
臨床検査科:臨床検査学、臨床検査室のマネジメント
研修医教育