Journal Club

本日は、月3-4回行われているDr. MoodyによるJournal Clubでした(すべて英語で行っています)。プレゼンテーションは、感染症科フェローまたは感染症科ローテーターが行います。プレゼンテーションは、一定のフォーマットのもとに行っています。使用する文献は、感染症診療に関連したものに限定しています。
本日のプレゼンターは、フェロー2年目の黒田浩一が担当しました。選択した文献は、'' A Placebo-Controlled Trial of Antibiotics for Smaller Skin Abscesses''(N Engl J Med 2017;376:2545-55)でした。

(1)この文献を選んだ理由

非複雑性の皮膚膿瘍は、切開排膿・ドレナージのみで改善することが多く、ドレナージのみで治療し、抗菌薬使用に消極的な医師がいる。一方で、ST合剤(バクタ 1回4錠 1日2回内服)は、プラセボより治療成績がよいことが示されている(N Engl J Med 2016;374:823-32)しかし、ST合剤8錠を7日間内服した場合の副作用は、多いに懸念される。また、2014年に発表されたIDSAの皮膚軟部組織感染症診療ガイドライン(Clin Infect Dis 2014;59:10-52)は、皮膚膿瘍の治療で抗菌薬を使用すべきか、明確には記載していない。軽症の皮膚膿瘍において、抗菌薬は使用すべきかどうか検討するために、今回上記の文献を選択した。

(2)Conflict of Interest(利益相反)・資金提供先

Corresponding authorは、複数の企業から謝礼や助成金を受け取っている。NIH(the National Institutes of Health)が、資金を提供している。

(3)研究デザイン

米国の多施設(6施設)、前向き二重盲検無作為比較試験、優越性試験。隠蔽化とマスキングは適切に行われている。
対象:直径5cm以下の単発皮膚膿瘍の基礎疾患のない小児・成人(詳細は、exclusion criteriaを確認していただくのがよいが、糖尿病やCKDなども除外されている)、
介入:クリンダマイシン(300mg 1日3回 10日間)またはST合剤(2錠 2回 10日間)
比較:プラセボ
Primary outcome:治療終了7-10日後の治癒率

(4)結果

原因微生物は、786例中718例(91.3%)で判明。67%が黄色ブドウ球菌(全体の49.4%、黄色ブドウ球菌の73.6%がMRSA)であった。Primary Outcome(治療終了7-10日後の治癒率)は、CLDM群とST合剤群ともに、プラセボ群より有意に高かった。黄色ブドウ球菌(全体、MRSAのみ、MSSAのみ)感染症に対しても、CLDM群とST合剤群ともに、プラセボ群より治療成績が有意に優れていた。CLDM群とST合剤群では差はなかった。黄色ブドウ球菌以外の細菌では、3群間で有意な差は認めなかった。

(5)考察

試験デザインに問題はなく、内的妥当性は担保されている。外的妥当性については、日本の臨床現場にそのまま適応できるかはやや疑問が残るが(CA-MRSAの占める割合が米国より少ない、亀田総合病院に受診する患者群は基礎疾患のある患者が多い)、少なくともMSSAによる皮膚膿瘍に対するST合剤またはクリンダマイシンの効果は期待できると思われる。また、(CA-MRSAが少ないため)通常日本で選択される第1世代セフェム(セファレキシン)やアモキシシリン/クラブラン酸の効果は、この試験では評価されていないので、同様の効果が期待できるかどうかは不明である。


写真は前々回のものです(雰囲気をお伝えするため)。

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このサイトの監修者

亀田総合病院
臨床検査科部長、感染症内科部長、地域感染症疫学・予防センター長  細川 直登

【専門分野】
総合内科:内科全般、感染症全般、熱のでる病気、微生物が原因になっておこる病気
感染症内科:微生物が原因となっておこる病気 渡航医学
臨床検査科:臨床検査学、臨床検査室のマネジメント
研修医教育