microbiology round

今回のmicrobiology roundは、緑膿菌でした。当科フェローが作成してくれた資料とムコイド型緑膿菌の写真を添付します。

Microbiology round 2017.9.07
Pseudomonas aeruginosa

症例

喉頭癌のため咽頭摘出術後の84歳男性。その際の術前検査でS状結腸癌と胃癌が判明した。
8.22 S状結腸癌による大腸閉塞懸念され腹腔鏡下S状結腸摘出術を施行。
8.23 収縮期血圧70台まで血圧低下ありICU入室。腹部膨満を認め腹腔内感染を想定してピペラシリン・タゾバクタム開始。
8.24 腹部の術後創部から悪臭を伴う浸出液あり、前日の血液培養2/2セットからEnterobacter cloacae、Pseudomonas aeruginosaが検出され当科併診開始。
下部消化管穿孔による汎発性腹膜炎が疑われ緊急手術施行、下行結腸に3mmの穿孔部を認めた。血圧低下改善なく、バンコマイシン・ミカファンギンを追加した。
その後も多臓器不全が進行、透析離脱困難となり抗菌薬加療を継続するも9.3のご家族との面談で透析継続は行わず緩和方針となった。9.5 血圧低下し心肺停止、永眠された。

微生物学総論

1.3~3.0×0.5~0.8μmの偏性好気性のグラム陰性桿菌。プロピオバクテリア門ガンマプロテオバクテリア網Pseudomonas科Pseudomonas属 P.aeruginosaでPseudomonas科にはP.aeruginosa,
P.fluoreecens, P.putida, Stenotrophomonas maltophilia, A xylosoxydans, A.baumanniが含まれる。
名前の由来はドイツの植物学者(walter migula)で''Pseudo''は''偽物''、''monas''は''単位''を表している。語源の詳細は不明である。

疫学

P. aeruginosaは市中感染、院内感染のいずれの原因菌となるが、後者の方がより一般的で米国の院内感染の原因菌の第5位である。また、人工呼吸器関連肺炎、カテーテル関連尿路感染、血管内カテーテル血流感染の原因第2位である。
ICU入室中、熱傷、好中球減少、嚢胞線維腫症が感染リスクファクターである。

病院

シンク、蛇口、シャワーヘッド、飲料水、呼吸機器、花瓶、アイスメーカー、プール、清掃具(モップ・バケツ)、気管支鏡、内視鏡

市中

加湿器、ホットタブ、水害を受けた住宅

培養方法

・端に1本の鞭毛を持ち、直線的に活発に運動する。ムコイド型の集落を形成するものは菌体の周囲にグラム陰性に染まる多糖体が観察される。
・至適温度は37℃、41℃でも発育可能、4℃では発育できない。
・BTB培地、血液寒天培地、選択培地であるNAC寒天培地に発育する。
・BTB培地、血液寒天培地では1~2mmの扁平で辺縁不正、ムコイド型の菌株の集落は金属光沢を伴うコロニーを形成する。特徴的な匂いがあり、線香臭と例えられる。血液寒天培地でβ溶血する。ピオシアニン(緑色色素)産生、アセトアミド分解、41℃での発育も重要なポイントである。

同定

TSI寒天培地で高層部・斜面部の酸産生(-)、アシルアミダーゼ(+)、King A・King B培地で緑色の色素酸性菌であれば緑膿菌である。
オキシダーゼ試験陽性、ブドウ糖を酸化的に分解(好気的解糖)、乳糖分解陰性、インドールテスト陰性である。
緑色のコロニー、線香臭、β溶血、金属様光沢でほぼ間違いなく同定できる。
Mandelには葡萄、トウモロコシ、タコスの匂いにも例えられている。

抗菌薬耐性機序

固有の耐性機序
緑膿菌の耐性獲得は様々な機序がある。標的部位への浸透低下、標的部位改変、または酵素を使用した抗菌薬不活性化などが挙げられる。

外膜の透過性低下

緑膿菌の持つ半透過性外膜はポーリンと呼ばれるチャネルを持ち、それを介して重要な栄養素を取り込んでいる。βラクタム、アミノグリコシド、テトラサイクリン、フルオロキノロン、およびカルバペネムなどの多区の抗菌薬は、これらのポーリンを介して緑膿菌の細胞内に入る。ポーリンにはいくつかのファミリーがあり、OprF、OprD、OprM、TonBが挙げられる。

OprFは、大型の物質を通す主要なポーリンだが、OprFのポーリンが消失した変異株でも、抗菌薬浸透は変化がなく薬剤耐性への関与は証明されていない。OPRDは研究が進んでおり、カルバペネムは通すがβラクタムは通さないことが分かっている。しかしOprDの減少が、すべてのカルバペネムに対するMIC上昇に等しい影響を有しているわけではない。最後に、OprMは排出システムの一部であると推定されている。すべての抗菌薬が緑膿菌の細胞内にポーリンを介して入るわけではない。細胞膜上のリポ多糖に結合することによって、細胞膜の安定性を低下させて入るものもある。例:アミノグリコシド、ポリミキシン

排出ポンプ

名前が示すように、排出ポンプは細菌内の抗菌剤を外へ排出する。これらのポンプは(ポリミキシンを除く)抗菌薬の大多数への耐性を与え、多剤耐性緑膿菌の主要なシステムである。排出ポンプには5つスーパーファミリーが知られている。RNDファミリーは、最も主要なものである。RNDファミリーの排出システムであるMexAB-OPRMとMexXY-OPRM排出システムはフルオロキノロン、アミノグリコシド、βラクタム、テトラサイクリン、チゲサイクリン、およびクロラムフェニコールを含む多数の抗菌薬への耐性獲得に寄与する。MexAB-OprMはメロペネムへの耐性獲得はさせる、イミペネムはできない。このため、同じカルバペネムでも感受性に差が出ることがある。同様に、MeXY-OprM排出ポンプはセフェピムを除去できるがセフタジジムは除去できない。

抗菌修飾酵素

抗菌修飾酵素は、AmpC、染色体コード誘導性セファロスポリンを除く大半はプラスミドを介して獲得される。AmpCにより第四世代セファロスポリンおよびカルバペネムを除き、すべてのβラクタムに対する耐性を獲得する。AmpC過剰生産の場合、第四世代セファロスポリンおよびカルバペネムにも耐性を獲得しうる。重症緑膿菌感染症や好中球減少症または嚢胞性線維症を有する患者においては新たな耐性出現による治療の失敗は50%の症例に起こる。

獲得耐性

獲得耐性遺伝子は、主にアミノグリコシド、βラクタム耐性をもたらす。ESBLはプラスミドにより媒介され、ペニシリン、広域セファロスポリン、アズトレオナム、時にはカルバペネムに対する耐性をも持つ。緑膿菌で同定されたESBLファミリー は PER、VEB、GES、TEM、SHV、およびCTX-M酵素がある。GES型の場合、カルバペネムにまで耐性を持ちうる。これらの酵素は、中国、南アフリカ、ブラジル、フランスからの分離株で認められる。カルバペネムに対する耐性はメタロカルバペネマーゼ介して起こりを経由して発生し、VIM、IMP、およびNDMファミリーがある。これらはペニシリンやセファロスポリンなどカルバペネムに対して耐性であり注意が必要である。   最初に報告されたVIM型分離株 緑膿菌は、 1997年にイタリアで発見され、その後腸内細菌科、特にKlebsiellaに広がった。
《多剤耐性緑膿菌:イミペネム、シプロフロキサシン、アミカシンの3種類に耐性の緑膿菌》

多剤耐性緑膿菌は定点報告対象(5類感染症)であり、指定届出機関(全国約500カ所の基幹定点医療機関)は月毎に保健所に届け出なければならない。

臨床像

血流感染
緑膿菌の血流感染(BSI)は最も重篤な感染の一つである。死亡率は39-60%と高率でありカンジダ菌血症と同等である。危険因子は免疫不全、抗菌薬使用歴、高齢者、手術歴が挙げられる。緑膿菌菌血症に単剤治療を行うか、併用療法を行うかは様々な議論がある。数個の研究で併用療法が死亡率を下げたという報告があるがweak pointが多い研究であり単剤で治療を行うことが多い。併用される場合はβラクタム+アミノグリコシドが多い。

感染性心内膜炎

IE全体の3%をしめる。緑膿菌はNon-HACECグループで大腸菌に次いで多いGNRである。緑膿菌によるIEに特徴的な所見はないが、Ecthyma gangrenosum(中心部が壊死し, その周囲に紅斑のHaloを形成する皮膚所見)は緑膿菌の疑いが強める所見である。死亡率は36%-60%と高い。
Iv drug userは緑膿菌によるIEのハイリスク患者である。大多数は、汚染された水や道具を使用するためである。右心系のIEを起こしやすく、緑膿菌と黄色ブドウ球菌によるIEなど複数菌による感染を起こすこともしばしば認められる。非iv drug userの左心系IEも稀ではあるが起こり、主に心臓または泌尿器処置などの処置後に生じる。血管内カテ感染もIEに関与している。弁膜症は必ずしも緑膿菌のリスク要因ではない。

抗菌薬の併用療法

強いエビデンスはないものの、重症の緑膿菌菌血症が疑われる患者で多剤耐性緑膿菌の可能性が高いと考えた場合、どちらかでカバーするという意味において、検討しても良い。ポリミキシンBは多剤耐性緑膿菌に備えておく。多剤耐性緑膿菌に対する持続点滴治療も研究されており、セフタジジム・アズトレオナム・トブラマイシンでの治療成功報告もある。

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このサイトの監修者

亀田総合病院
臨床検査科部長、感染症内科部長、地域感染症疫学・予防センター長  細川 直登

【専門分野】
総合内科:内科全般、感染症全般、熱のでる病気、微生物が原因になっておこる病気
感染症内科:微生物が原因となっておこる病気 渡航医学
臨床検査科:臨床検査学、臨床検査室のマネジメント
研修医教育