ロタウイルスワクチンの定期接種化

厚生労働省は、2020年10月1日からロタウイルスワクチンを新たに定期接種の対象とすることを決定しました。

日本医師会ニュース:https://www.med.or.jp/nichiionline/article/008923.html
厚生労働省の予防接種・ワクチン分科会の資料:https://www.mhlw.go.jp/content/10601000/000553925.pdf
CDCの推奨:https://www.cdc.gov/vaccines/hcp/acip-recs/vacc-specific/rotavirus.html

日本では現在、2種類のワクチンが使用可能です。効果は同等であり、どちらのワクチンを優先すべき、という推奨はありません。
単価ロタウイルスワクチン:ロタリックス®(GSK社)
5価ロタウイルスワクチン:ロタテック®(MSD社)

英国では、2013年から単価ロタウイルスワクチンを定期接種に導入し、その後接種率は約90%に達しています。また、定期接種になる前の10年間と比較し、2013/2014年のシーズンは、検査で確定したロタウイルス感染症は67%減少し、特に2-11ヶ月の乳児で減少が顕著でした(J infect. 2015;71:128-131. PMID:25614960)。

日本のロタウイルスワクチンの接種率は、2012年7月の時点で約35%、2013年4月の時点で45%に達していると推計されます(IASR Vol.35 p.73-74.)。日本でも定期接種となることで、今後更に接種率が増加することを期待したいです。

以下、pinkbook(Vaccine-Preventable Diseasesに関するCDCの教科書)の、rotavirusの概要です。
原文参照:https://www.cdc.gov/vaccines/pubs/pinkbook/rota.html

【ウイルスについて】

  • 2本鎖のRNAウイルス
  • 非常に安定したウイルスであり、消毒されなければ環境中で数週-数ヶ月に渡り生存する
  • 牛や猿などの哺乳類にも感染を起こすが、これらの株が人に感染を起こすことは稀である

【病原性】

  • 経口接種で体内に侵入し、小腸の絨毛性上皮で増殖を開始する
  • 重症のロタウイルス腸炎の小児では、2/3で、血清からウイルス抗原が検出された
  • 一度感染しても、終生免疫は得られない
  • 2回目以降の感染は、一般的には初感染よりも重症ではない
  • 1回の自然感染した小児のうち、38%は次の感染から、77%は下痢から、87%は重症下痢から守られる

【臨床的特徴】

  • ロタウイルスの下痢の潜伏期間は短く、一般には48時間以内である
  • 初感染か、再感染かで症状が異なる
  • 初感染で最も重症なのは、3ヶ月以降の乳児である
  • 症状は様々で、無症状のことや、自然寛解する水様性下痢、また熱や嘔吐を伴い、脱水を来す重症下痢のこともある
  • 1/3の子供は、39℃以上の熱が出る
  • 消化器症状は3-7日で改善する
  • 臨床経過や下痢は非特異的で、他の微生物でも起こりうる症状である

【合併症】

  • 乳児や小児では、重症下痢、脱水、電解質異常、代謝性アシドーシスなど
  • 先天性免疫不全や、骨髄/固形臓器移植による免疫不全があると、重症の腸炎症状が長期間続き、腎不全や肝不全など、多臓器不全を来すことがある

【診断】

  • 世界で最も広く使用されているのは、便中のrotavirus抗原を検出するEIA法
  • 下痢発症から3-7日の期間で、血清からウイルス抗原が検出される

【疫学】

  • 世界中で発症しており、先進国と途上国では特に差がない。これは、衛生環境の改善のみでは、感染予防が不十分であることを示している
  • reservoirは、感染したヒトの腸管
  • ヒト以外の哺乳類でも感染が起こるが、ヒト以外の哺乳類からヒトへの感染はマレであり、また臨床的な症状は起こさないとされる
  • 免疫不全者は長期間ウイルスを排出するかもしれないが、真のキャリアについては報告されていない
  • 温帯では、秋-冬に多く、熱帯では、季節による差は少ない

【伝播】

  • 感染者の便中に。高濃度のウイルスが排泄される
  • 感染様式は以下がある:
    ・糞口感染
    ・ヒト-ヒトの濃厚接触
    ・fomites(便で汚染されたおもちゃや環境表面)
  • 汚染された水や食物による感染は一般的ではない

【感染性】

  • 非常に感染力が強く、ワクチンのない時代は、5歳までにほぼ全員が感染する
  • 感染者は、便中に多量のウイルスを排泄し、発症の2日前から発症後10日まで続く
  • 免疫不全者では、感染してから30日以上検出される
  • 家族、施設、病院、子供の保育施設などでよく感染する

【米国でのワクチンの効果】
<ワクチン導入前>

  • 年間300万人が罹患し、95%の子供が、5歳までに感染した
  • 1年当たり、
     病院受診:400,000人
     ER受診:200,000人
     入院:55,000-70,000人
     死亡:5歳未満の子供で、年間20-60人
  • 年間の経済的損失は、約1,000億円(子供のケアのため、仕事ができないことによる)
  • ワクチン前の時代は、5歳までの小児の、腸炎による入院の30-50%を占めていた
  • 最も頻度が多いのは3-35ヶ月の小児
  • 3ヶ月未満の小児が比較的少ないのは、おそらく母体からの受動免疫と。母乳栄養によるものである
  • 成人での感染は通常無症状であるが、下痢を起こすこともある

<ワクチン導入後>

  • ワクチンが導入された2006年から、ロタウイルスのactivityは非常に減少した
  • 2010-2011年シーズンのロタウイルス流行期間は、ワクチン前に比較し、8週間短縮した
  • ロタウイルス陽性例は、ワクチン開始前と比較して74-90%減少し、行われた検査自体が、28-36%減少した
  • ワクチン開始により、小児の入院やERで受診が減少した
  • 2008年は、ワクチン前に比較し、小児の下痢に関連する入院が40,000-60,000人減少した
  • このシーズンには、ワクチン接種可能年齢よりも上の年齢の小児の感染も減少した

【ワクチン】

  • 1998年に、最初に米国で承認されたのはRRV-TV, Rotashieldであった
  • ワクチン接種後の腸重積症との関連が指摘され、発売から1年以内で回収された
  • 現在使用可能なワクチンは、RotaTeq(5価)と、Rotarix(1価)の2種類
  • どちらのワクチンを優先すべきということはない

<ワクチンの効果>

  • あらゆるロタウイルス腸炎:74-87%減少
  • 重症の腸炎:85-98%減少
  • 下痢による病院受診、ロタウイルス関連の入院が減少
  • 免疫の持続期間は正確には分からないが、2 season、または2歳まで

<接種スケジュール>
※ここは日本小児科学会の推奨スケジュールを記載しています:

  • 生後6週から接種可能、初回接種は8−15週を推奨する
  • ロタリックス(1価):2回、4週以上あける 24週までに完了
  • ロタテック(4価):3回、4週以上あける 32週までに完了

<注意点など>

  • 嘔吐したり、吐き戻したりした場合は、再投与は推奨しない
  • 同じワクチン製剤で、1 seriesを完了する
  • 既にロタウイルス腸炎に罹患した 乳児も、ロタウイルスワクチンを接種すべきである
    (初感染では、その後のロタウイルス感染に足して部分的な免疫しかできないため)

<禁忌>

  • 腸重積症の既往
  • 重症複合免疫不全症 (SCID:Severe combined immunodeficiency)
  • ワクチンの成分(ラテックスを含む)や、過去にワクチンに対して重症のアレルギーの既往がある場合
    ※現在、日本で使用されているロタウイルワクチンには、容器を含め、ラテックスは含まれておりません。米国で使用されているRotarixの、内服する際に使用する器具には、ラテックスが含まれています。

<その他>

  • 37週未満で出生した早期生児は、生後1-2年でロタウイルス感染症により入院するriskが高く、正期生の新生児と同じスケジュールで接種することを推奨
  • 家族に免疫不全状態のものがいる乳児でもワクチン接種は可能である
  • ワクチンのロタウイルスが免疫不全の家族に伝播する小さなriskよりも、家庭内の乳児を野生のロタウイルス感染から守ることで得られる、間接的なbenefitの方が大きいと考える
  • 妊婦と同居する乳児も、ワクチン接種を受けるべきである。
  • ワクチン接種した乳児のおむつ交換等、便を接触するような行為をする家族は、十分に手洗いするのが良い

【Adverse events:有害事象】
<腸重積>

  • 60,000万人を超える乳児のphase ? trialでは、プラセボと比較して、どちらのワクチンでも腸重積のriskは増えなかった

<腸重積に関する、承認後の評価>

  • メキシコでは、ロタリックス:100,000回の初回接種あたり1-3件
  • オーストラリアでは、少ない症例に基づくものだが、ロタリックス、ロタテック双方で、腸重積のriskがある可能性があった
  • アメリカでは2010年2月以降、ロタテックにおいて腸重積のrisk増加は認めなかったが、他の状況においても、riskを除外できるわけではない

【Adverse reaction:有害反応】
<Rotarix>

  • 易刺激性(irritability):11.4%
  • 咳、鼻汁:3.6%
  • 鼓腸:2.2%

<RotaTeq>

  • 下痢:18.1%
  • 嘔吐:11.6%
  • 中耳炎、鼻咽頭炎、気管支痙攣など

このサイトの監修者

亀田総合病院
臨床検査科部長、感染症内科部長、地域感染症疫学・予防センター長  細川 直登

【専門分野】
総合内科:内科全般、感染症全般、熱のでる病気、微生物が原因になっておこる病気
感染症内科:微生物が原因となっておこる病気 渡航医学
臨床検査科:臨床検査学、臨床検査室のマネジメント
研修医教育