第4回KINDセミナー:講義4「性感染症」質疑応答

KINDセミナーの、STI(担当:村中絵美里)の質疑応答です。

Q
Neisseria gonorrhoeaeのスライドのGram染色像がかなり貪食されていましたが,貪食されやすいのでしょうか。
A
Mandellを含む教科書で記載を見つけることはできませんでしたが,細川先生のご経験上,淋菌は貪食されやすい菌のひとつとのことです。一方で,肺炎球菌は莢膜を有し,貪食されにくいです。

Q
当院ではドキシサイクリンの採用がありません。PID治療で何を使用しますか。
A
同じテトラサイクリン系のミノサイクリンで代用が可能です。用量はドキシサイクリンと一緒で,1回100mgを1日2回です。非淋菌性尿道炎でのstudyで,ドキシサイクリンと同等の効果との報告があります(1)。

Q
手足の皮疹で,他の疾患に比べて梅毒に特徴的な所見はないのでしょうか。
A
皮疹は全身のあらゆる場所に出現しますが,50〜80 %の症例で手掌と足底にも出現する(2)とされ,手掌・足底を含む皮疹は梅毒を疑う手がかりになります。しかし特異的なものはないため,新規発症の全身性の丘疹や扁平な皮疹では,二期梅毒を鑑別に挙げる,というのがメッセージです。

Q
PIDの治療でドキシサイクリンを併用するのはなぜですか?
A
クラミジアカバーのためです。

Q
1期梅毒で治療期間は14日とありますが,RPRが1/4〜8倍以下になるまで投薬を続けるという意味ですか?
A
14日間で投薬を終了してRPR(もしくはVDRL)をフォローアップするという意味です。正しく治療が行われた場合でも,ゆっくり下がるので、次の週に測定する必要はありません(正常化するまでの期間は感染からの期間に比例し,大まかに1期で1年,2期で2年と理解すると良いと思います)。早期は6ヶ月と12ヶ月,晩期は6ヶ月,12ヶ月,24ヶ月にRPRを測定します。1/4以下になれば,治療成功と判断します。

Q
24ヶ月時点でもRPRが下がらないときはなにを考えるべきでしょうか?
A
梅毒のペニシリン耐性はみつかっていないので,RPRが下がってこなかったときは

  • 薬をきちんと飲んでいない
  • 治療中/治療後の再感染
  • 実は隠れた神経梅毒
  • 免疫不全状態(HIV)

の可能性を考慮します。まず再感染(新たな暴露はないか? chancre や皮疹はないか?)について検討したのち, HIV検査と髄液検査について検討します。神経梅毒があれば,水溶性ペニシリンG 点滴静注で2週間治療を行います。

Q
パートナーも治療に参加させるとき,どのように説明して来院させていますか?
A
パートナーの治療参画は,パートナーへの対応だけに留まらず,患者本人への啓発も兼ねています。STIに罹患したことのある患者は他のSTIを含めた再感染のリスクが高い集団ですので,STIについて正しい知識を獲得してもらい,行動変容に繋げる機会ととらえて説明を行います。例えば男性の淋菌性尿道炎のケースでは,患者本人は自覚症状が強いため治療する機会がありますが,女性淋菌感染症は自覚症状に欠ける場合があるため,放置することによって異所性妊娠,不妊症,母子感染などの重篤な合併症を生じうることについて説明し,パートナーへの受診を促します。思春期の症例では,医療現場でのカウンセリングの他に,養護教諭など教育関係者との連携による個別の指導も重要になります。

Q
梅毒の治療で,プロベネシドを使用するのは,なぜですか?
A
プロベネシドは高尿酸血症の治療薬で,尿酸排泄促進薬ですが,近位尿細管でペニシリンの排泄と拮抗するため,血中濃度を維持することを期待して使用します。ベンザチンペニシリンG筋注が使用できない本邦での苦肉の策として使用されています。2015年に国立国際医療研究センターの大規模研究(3)をみると,ある程度有効性は確立していると考えて良さそうです。2018年,都立駒込病院からプロベネシドを用いないアモキシシリン 500mg 1日3回内服での治療(4)に関する報告がありました。治療成功率は全患者で95.2 %,HIV陽性患者で95.7 %,HIV陰性患者で93.8 %,早期梅毒患者で 97.8%,後期梅毒患者で 88.2%と,HIV感染の有無,病期によらず良好な成績でした。また,2013年には IDATENが厚労省に「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬」としてベンザチンペニシリンG筋注製剤の承認を要望し,現在メーカーに開発を要請している段階で,近い将来梅毒の国際標準治療薬が使用できるようになる可能性があります。

Q
早期梅毒と後期梅毒を,1年で分ける臨床的意義はありますか?
A
区切ることの臨床的意義は,後期梅毒ではより長期の治療期間が必要になるためです。1年で区切る理由は,感染皮膚粘膜の梅毒病変の接触を介した感染が, 1年以降ではほとんど起こらなくなるため(5)です。

Q
淋菌診断には培養が重要であるとのことですが,淋菌+クラミジアの両方を診断したい場合,膿が出なければ尿のPCRで検査を出しているのですが,実際のところ淋菌を保険で切られずに培養を出すのは難しくないでしょうか?
A
膿が出ない場合には淋菌とクラミジア両方の核酸増幅法で検査を出す方法で良いと思います。膿が出た場合は,淋菌についてはグラム染色と培養検査で,クラミジアのみ尿の核酸増幅法を行います。

Q
TPHA(+),RPR(-)で紹介された患者様で,感染の機会が過去3ヶ月以内になく,身体所見でも早期梅毒を疑う所見がなく,かつ治療歴がない場合は,どのように解釈すればよいですか?
A
CDCのSTDガイドライン(5)では,他の非トレポネーマ検査(VDRLなど)で再検することを推奨しています。RPRもVDRLも陰性で,梅毒のリスクや臨床的可能性が低いと考えられる場合には,これ以上の精査は不要です。再検の非トレポネーマ検査が陽性なら,後期潜伏梅毒として治療することを勧めています。

Q
セフトリアキソン耐性淋菌の治療法は?
A
セフトリアキソンは淋菌感染症に対して信頼できる「最後の砦」となる抗菌薬ですが,2009年に京都で世界初のセフトリアキソン耐性淋菌が分離(6)されて以来,アジアを中心に世界中へ広がりを見せています。セフトリアキソン耐性淋菌の北米上陸は,2018年 感染症10大ニュースの第一位となり大きな話題を呼びました(7)(リンク先のコメントに,「アジアでコンドームなしの性交渉をした病歴があれば要注意」と書かれています)。
セフトリアキソン耐性淋菌に対する有力な治療薬候補は,新薬の開発も旧薬の再発見も含めて,ほぼありません。セフトリアキソン耐性/感受性低下した淋菌の治療にも,セフトリアキソンとアジスロマイシンの組み合わせが推奨されています(8)。2009年京都の症例は,セフトリアキソンに対するMICが2mg/mLでしたが,セフトリアキソンの複数回治療で幸い治癒が得られました。症例ごとに,セフトリアキソンを高用量で使用したり,複数回投与したりして工夫しているのが現状ですが,いつも成功するとは限らず,長期的な解決には結びつかない可能性が高いです。新薬の開発と淋菌ワクチンの開発が待たれます。

Q
アモキシシリン 2g は,保険で切られませんか?
A
幸い当院では返戻となっていませんが,地域によって事情が異なると思いますので,最終的に審査上認められるかどうかについては責任を負いかねます。症状詳記に理由を書いて提出してみてはいかがでしょうか。とはいえ,アモキシシリン2gは,先発品のサワシリンでも100円足らずですけれども。

Q
入院時のスクリーニングとして,RPR, HBs抗原,HCV抗体,HIVをチェックすべきでしょうか?
A
入院時のこうした検査は,STIのスクリーニングというよりは医療従事者を血液・体液暴露から守ることが目的である場合が多いと思います。基本的にはすべて標準予防策で予防可能であり,感染予防策としてはチェックする必要はありません。梅毒については顕性梅毒患者を暴露源とする針刺し事故での感染の報告(9)はありますが,極めてまれな事象で,ルーチンチェックは不要です。

Q
淋菌・クラミジア いずれか片方陽性なら,全例両者の治療なのでしょうか。片方のみPCR陽性例も多いと思うのですが。
A
病原微生物を特定できていない時点での初期治療は,たとえ病歴と症状から淋菌性尿道炎を疑ったとしても(あるいはグラム染色で淋菌性尿道炎と診断した場合でも),クラミジアも一緒に治療したほうがよいですが,ご質問の場合のように,すでに核酸増幅法で片方のみとわかっている場合には,片方のみの治療を行います。核酸増幅法でクラミジアのみ陽性とわかっている場合には,アジスロマイシンもしくはドキシサイクリンで治療します。

Q
PCRで,DNA,rRNAのいずれがよいでしょうか?
A
PCRは淋菌・クラミジアのDNA を増幅の標的とする核酸増幅法で,rRNA を増幅の標的とするのはTMA(transcription mediated amplification)法と呼ばれます。細胞あたりに多く含まれるrRNAを標的とするためTMA法の方が感度がよい(10)と報告されていますが,PCR法が良くないとまでは言えないと思います。

Q
生物学的偽陽性のマネジメントをもう少し詳しく教えてください。
A
生物学的偽陽性とは,RPR陽性,TPHA陰性の状態を指します。RPRはrapid plasma reaginの略で,ウシ心臓から抽出されたリン脂質とT. pallidumによってダメージを受けた細胞が放出する物質の抗原の共通性を利用した生体内での交差反応を見ているため,梅毒以外の原因でも上昇することがあります。妊娠中や,心内膜炎・リケッチア感染症などの急性熱性疾患,伝染性単核球症,あるいは最近の予防接種などでも一過性に偽陽性となることがあります。3ヶ月から半年後に再検することで偽陽性かどうかを判断します。RPR単独陽性の中には梅毒の超急性期が隠れていることがありますので,生物学的偽陽性と判断する前にしっかりsexual historyを聴取し,身体所見を詳細にとることが重要です。疑わしい場合にはRPRより早期に陽性化するFTA-ABSを追加するか,1〜2ヶ月後に検査を繰り返すことが大切です。

Q
STIでHAV, HBV, HIV,梅毒,淋菌,クラミジアで1つ見つけたら,具体的に問診・検査はどこまで行えば良いでしょうか。
A
問診は5Psに沿って行えばよいと思います。「1つ見つけたら全部調べる」というのがSTI治療の大原則です。
検査は,HBs抗原, HCV抗体,クラミジア・淋菌(尿核酸増幅法)、HIV,RPR定量,TPHA定量を提出します。

【参考文献】

(1) Minocycline Compared with Doxycycline in the Treatment of Nongonococcal Urethritis and Mucopurulent Cervicitis. Annals of Internal Medicine, 119(1), 16.
(2) Clinical manifestations of early syphilis by HIV status and gender : results of the syphilis and HIV study. Sex Transm Dis. 2001; 28(3): 158-165.
(3) High-dose oral amoxicillin plus probenecid is highly effective for syphilis in patients with HIV infection. CID 2015:61(2)177-83
(4) 感染症学雑誌. 2018; 92(3): 358-364.
(5) Sexually transmitted diseases treatment guidelines, 2015. Syphilis. MMWR Recomm Rep. 2015;64(No. RR-3):1-137.
(6) Is Neisseria gonorrhoeae initiating a future era of untreatable gonorrhea? : detailed characterization of the first strain with high-level resistance to ceftriaxone. Antimicrob Agents Chemother. 2011; 55: 3538-45.
(7) NEJM Journal Watch Infectious Diseases Top Stories of 2018. https://www.jwatch.org/na48066/2018/12/26/nejm-journal-watch-infectious-diseases-top-stories-2018?query=etoc_jwacc&jwd=000020124253&jspc=ID
(8) Emergence of multidrug-resistant, extensively drug-resistant and untreatable gonorrhea. Future Microbiol. 2012;7(12):1401-22.
(9) Clinical case of seroconversion for syphilis following a needlestick injury: why not take a prophylaxis? Infez Med. 2007;15:187-190.
(10) Systematic review: noninvasive testing for Chlamydia trachomatis and Neisseria gonorrhoeae. Ann Intern Med. 2005;142(11):914.

このサイトの監修者

亀田総合病院
臨床検査科部長、感染症内科部長、地域感染症疫学・予防センター長  細川 直登

【専門分野】
総合内科:内科全般、感染症全般、熱のでる病気、微生物が原因になっておこる病気
感染症内科:微生物が原因となっておこる病気 渡航医学
臨床検査科:臨床検査学、臨床検査室のマネジメント
研修医教育