タントクセン病院@シンガポール その4

第2週の午前中は、隔離の必要な患者のいる病棟の病棟ラウンド(National Centre for Infectious Disease)の見学をしています。接触予防策、飛沫予防策、空気予防策のいずれかが必要な患者が入院しています。具体的には、肺結核(罹患率は日本の約3倍です)、麻疹疑い、MERS-CoV疑い、水痘疑い、MRSA感染症などです。1フロアに20床の個室があります。現在14床に入院患者がいて、そのうち12名が感染症科入院です。最大20名の患者を、2人のmedical officer(日本の後期研修医レベル)と1人のconsultant(指導医)が担当しています。

朝8時30分ごろから全体回診がはじまります。その前にmedical officerはプレラウンドを完了させています(1人あたりの担当患者は10名弱ですので、1時間もあれば十分だと思います)。全体回診は、だいたい2-3時間です。Medical officerがconsultantにpresentationして、その後一緒に診察して、その日の方針を決めます(米国と同様です)。

たまたま月曜日は別のconsultantが代わりに来ていましたので、この2日間別のconsultantのやり方を見ることができました。今まで各種ラウンドのconsultantも合わせると8名くらいみてきましたが、それぞれにやり方がちがって興味深いです(日本でもそうです)。
積極的にCRP・プロカルシトニンをチェックするconsultantもいれば、managementに影響しないならとっても意味がないというconsultantもいました(少数派です)。感染症以外の内服薬を全部チェックしてコメントする人、medical officerのカルテ記載の誤字脱字をひとつひとつ指摘して修正させる人もいました。概ね日本の指導医よりも面倒見がよい印象を持ちました(dutyが少ない、というのも理由としてはありそうです)。一方、最低限のことしかやらない人もいます。
Consultantは、診察後方針などをmedical officerのカルテに追記するのですが、記載する内容を述べてmedical officerに記載させる人もいれば、自分でカルテに直接記載する人もいました。いずれの場合も、方針の大半は、consultantが決定しているように感じました(medical officerは、日本の初期研修医と後期研修医の中間くらいの権限があるようなイメージです)。
ラウンド中に、見ている患者のdiscussion pointついてのみコメントする人もいれば、時々質問を投げかけて(麻疹のincubation period、感染性のある期間、典型的症状3Cは?etc)、理解度を確認している人もいました。
診療についてですが、MERSコロナウイルス感染症疑い(中東からの旅行者の急性肺炎)は、接触予防策+空気予防策で開始します。疑う閾値は、非常に低いです(数日でPCRの結果がでます、検査へのアクセスが非常によいです)。結核を疑う閾値も非常に低かったですが(空気予防策の閾値が低い)、実際に結核の入院患者はたくさんいました。
患者の国際色は豊かです。ドバイ経由で入国したイギリス人、インドネシア人など。また、シンガポール人でも、中国語を主に話す人、英語を主に話す人、マレー語を主に話す人(中には英語を理解していない人もいました)がいますので、かなり多様性のある患者層でした。

3月11日月曜日の午後は、ICU roundの見学をしました(2回目です)。前回と別のconsultantでしたが、やはり診察はせずに、各ICU(medical, surgical, neurosurgical)に出向いて、そこでそこの医師からpresentationを受けて、治療方針についてrecommendationを述べて、カルテに記載する、という流れでした。Microbiologistも同行して、微生物検査についてのコメントをすることがあります。

ICU round中に、medical staffの感染予防策をどの程度順守しているか、観察してみました。日本と同じような問題があるようでした。必要であることは理解している(はず...)が、きちんと実行することは難しいのだと常々感じます。
アルコール手指消毒薬は、各部屋の前、ベッド柵、部屋の洗面台など、複数個所に設置されていますし、neurosurgical ICUでは各部屋のドアにWHOの5 momentsについての掲示がされていました。順守率向上のための方策がかなり実行されていましたが、ICUの医師や看護師の入室前と退室後の手洗いの順守率はざっとみたところ50%程度でした(ちなみに感染症科Drは100%でした)。また、顎にマスクをひっかけている人や、接触予防策の部屋からガウンを着たまま出てきてしまう人など、国が変わっても問題は同じであることがわかりました。

3月12日火曜日の午後は、ASP round。この日は7例が議題にあがっていました。術後の尿閉に、シプロフロキサシンを投与(ASP roundの推奨は、中止してください、です)など、キノロンを安易に使用している現状があるようです(E. coliのシプロフロキサシン耐性は50%程度)。半分以上の症例は、抗菌薬が不要な症例でした。耐性菌が多い理由はこの辺にもあるのでしょう。参加している薬剤師は7名、すごいマンパワーです。

3月13日水曜日の午後はID consultation roundで新規の相談が9例ありました。Candida血症、MRSA菌血症、CRP上昇、骨髄炎、尿路感染症、胆管炎、新規に発見されたHIVなどです。積極的に専門家にコンサルトをする、という文化があるのでしょうが、これだけコンサルトをもらえるのは、信頼されているからであり、そういう関係が成立していることは羨ましいなと思いました。ID consultation roundはいろいろな病棟に行くのですが、どの病棟でも、付き添いの家族が多く(ざっとみて昼過ぎの病棟の患者の70%くらいに家族が付き添っていました)、身体抑制されている患者がほとんどいませんでした。医師・看護師の数が多いというのもあると思いますが、家族の付き添いは大事であることを再確認するとともに、家族(男性も女性も)が付き添える環境にあるシンガポールという国は素晴らしいと思いました(1人あたりのGDPは日本よりも大きい、かつ、就労している女性の割合も日本より多いです)。また、このような人権にも配慮した医療が提供できているシンガポールの医療は、日本も見習うべき点がたくさんあります。


Tag:, , , , ,