microbiology round

今日は、microbiology roundでした。microbiology roundとは、細菌検査技師さんと一緒に一つの菌について語り合う会です。今回は、Aeromonasについて語り合いました。
進め方は、まず臨床側が症例提示します。その後、検査室側から培養の進め方、陽性になった血液培養のグラム染色、培地のコロニーなどを提示していただきます。その後、担当の感染症科フェローが、調べてきた内容(下記に記載するような内容)を発表・共有します。また、調べていてわからなかった点などを質問し、教えていただくことができます。逆に、微生物検査技師さんたちから、臨床現場での状況について、質問いただくこともあります。情報共有やお互いの仕事について理解を深めるよい機会となっています。

写真は、BTB/血液寒天培地です。乳糖非発酵菌なので黄色くなりません。

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【Aeromonas属について】
Aeromonas属は、淡水、河口部、海水に広く常在しているグラム陰性桿菌。 幅広い温度で発育するが、温暖な時期(北半球で5-10月)によく発育する。 恒温動物・変温動物(魚、爬虫類、両生類、人)に様々な症状を呈する。

(微生物学)
・Aeromonas属は、1980年代にVibrionaceaeから再編成された。 大きく二つの主要なグループに分けられる。
・ 運動性のある中温性菌(至適温度は35-37度。「臨床微生物学」ではA. hydrophilaは22-28度が最適温度と記載あり)で、人に感染を起こす8菌種を含む。A. hydrophila, A. dhakensis, A. veronii biovar sobria, A. caviae, A veronii biovar veronii, A. jandaei, A. schubertii, A. trota
・運動性のない低温菌(至適温度は12-18度)で、魚にのみ疾患を起こすもの。オキシダーゼ陽性でブドウ糖を発酵させる。 発育は0-42℃で可能。

(病原性)
Aeromonasが消化管感染症の起因菌としての役割についてはっきりしていない点もある。 理由としては、(1)下痢患者の便から発育する頻度は様々だが1%〜60%で、加えて無症状の患者からも分離されている事、(2)報告されているメジャーなアウトブレイクは1つしかない事、(3)健康なボランティアにエロモナスを投与した実験ではうまく感染を引き起こせなかった事(株が悪かった?)などである。それでも、ある株のAeromonasは下痢を起こすと言われている。 旅行者において小規模なアウトブレイクも複数報告されている。 スペインの863人の旅行者下痢症の研究では18人(2%)がAeromonasによるもの。 下痢で入院した3500の便検体を調べたインドの研究では、164(4.7%)がAeromonas。どのAeromonasが下痢を起こすかを予測する事は難しい。

(疫学)
中温性のAeromonasは世界中の水辺に分布している。
・淡水
・河口
・表流水(特にプールなどの水)
・飲用水(井戸水など)
・汚染された水
・排水汚泥
一般的に海水にはいない菌と考えられている。 しかし極端に濃い塩分濃度でなければ、例えば汽水域などでは生存可能。 地下水には栄養分が少ないので通常は存在しない。 栄養分が豊富な水であれば夏季に繁殖、暖かい湖や塩素消毒された飲用水にも存在。

(臨床症状)
<下痢症>
・急性の水様性下痢で時々嘔吐を伴う
・急性の大腸性下痢、粘液や血液を伴う
・慢性下痢、10日以上持続する
・米のとぎ汁様のコレラ様下痢
・旅行者下痢症(おそらく米国で多いプレゼンテーション)

<創部感染>
軽症から重症まで創部感染を起こし得る。
感染は典型的には水辺で受傷した四肢に起こる(男>>女)。
蜂窩織炎が多い。
壊死性筋炎/筋膜炎、横紋筋融解や、壊疽性膿瘡に類似した病変の報告もある。

創部感染で最もコモンな菌はA. hydrophila、A. veronii、A schubertii。
津波被害者の創部からもよく検出される。
A. hydrophila以外の壊死性筋膜炎の報告もある。
かつてはarabinose陰性A. hydrophilaと呼ばれていたA. dhakensisは、台湾・マレーシア・豪州においてより重症な感染症に関連している。
重症な創部感染・敗血症は、医療用ヒルの使用後でも報告されている。
時々そのような患者ではシプロフロキサシンの予防投与を受ける人もいるが、ヒルから分離された菌株でシプロフロキサシン耐性株の報告も現れてきているのでその効果も限定的かもしれない。

<菌血症>
敗血症はA. veronii biovar sobriaと強く関連している。
患者はGNR敗血症の古典的な症状に加えて、消化器症状を呈するかもしれない。 敗血症は、血液悪性疾患・重篤な肝胆道系疾患や他の免疫不全・外傷をもつ高齢者に起こりやすい。 常に菌がどこから侵入してきたかわからない事があるが、その場合には消化管からを考えることは理にかなっている。

<その他>
眼感染症、骨髄炎、髄膜炎、溺水後の肺炎、骨盤内膿瘍、中耳炎、膀胱炎、心内膜炎、腹膜炎、胆管炎、関節感染症の報告がある。

(診断)
便培養では多くの検査室では通常のprotocolでAeromonasを検出することはルーチンではしていない(亀田は拾っている)。 創部培養や血液培養では容易に同定可能。 自動同定機はほとんどのAeromonasをA. hydrophila groupもしくはA. hydrophila/A. caviaeのレベルで同定することができるがしばしば不完全であったり間違っている。
Aeromonas属は、オキシダーゼ陽性、極鞭毛を有し、グルコース分解性の通性嫌気性菌。血液寒天培地での溶血は様々であるが多くの種は、β溶血を起こす。 ほぼ全ての腸内細菌分離培地で発育するが、 MacConkey培地で過大評価される。(A. caviaeはE. coliのように乳糖分解性をもつ為)。
Ampicillin含有培地は他の正常腸内細菌叢を抑制するために使用すべきでない(ある程度、A. caviae A. trotaはAmpicillinに感受性があるため)。A. caviaeは膀胱炎、A. trotaは膵膿瘍と肝硬変患者の敗血症性ショックで重要な菌。 MICを自動で出すシステム(Vitekなど)は、βラクタム系耐性の検索には信頼性がないかもしれない。

(治療)
<抗菌薬感受性>
染色体性にAmpC遺伝子を持つ(Clin Microbiol Rev. 2009;22:161) 。臨床研究ではAeromonasの薬剤感受性は種の間で異なるとされている。 殆どのAeromonas属は、ペニシリン、アンピシリンに耐性で、ST、フルオロキノロン、第二・第三世代セファロスポリン、アミノグリコシド、カルバペネム、テトラサイクリンに感受性がある(医療用ヒルでキノロン耐性の報告があるので注意)。

<臨床でのアプローチ>
ほとんどのAeromonasによる下痢症は自制内で改善する。
重症の下痢症の場合や免疫不全者の下痢の場合に抗菌薬が有効かもしれない。
創部感染症や菌血症の場合には抗菌薬治療が適応。
菌種名・感受性がわかるまでの抗菌薬は、フルオロキノロン、第三世代セファロスポリン、ST合剤。 ただし、台湾とスペインで感染したなら、ST合剤は使用すべきでない。 アンピシリンや第一世代セファロスポリンは不適切である。 アンピシリンは、A. trotaと時々A. caviaeで感受性を示す(他は耐性!)。
治療期間で確立したものはない。臨床反応によるが、下痢は3days, 創部感染では7-10days, 菌血症では2weeksが一般的。

このサイトの監修者

亀田総合病院
臨床検査科部長、感染症内科部長、地域感染症疫学・予防センター長  細川 直登

【専門分野】
総合内科:内科全般、感染症全般、熱のでる病気、微生物が原因になっておこる病気
感染症内科:微生物が原因となっておこる病気 渡航医学
臨床検査科:臨床検査学、臨床検査室のマネジメント
研修医教育