第11回:糖尿病とインプラント治療は関係があるのか?

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糖尿病は血液中の糖(血糖)が増えてしまう病気です。そもそも糖はからだのエネルギー源であり主に食事から摂取します。その糖をエネルギーとして使うにはインスリンが必要となります。血液中の糖は筋肉や細胞にたどり着いてもインスリンが働かないと細胞に取り込まれず血液中であふれてしまいます。血糖の濃度が高いままで放置されると全身の細胞のエネルギーが不足して様々な障害が出てしまいます。一般的に空腹時の血糖値が126mg/dl以上か2ヶ月の平均血糖値を示すHbA1c(ヘモグロビン・エーワンシー)が6.5%以上であると糖尿病型と診断されます。今回はその状態が歯科治療、特にデンタルインプラント治療にどう影響するのかというお話です。

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糖尿病の患者さんは細胞のエネルギー不足によって血管が弱くなる、組織が酸欠状態になる、細菌と戦う白血球(好中球)の機能が悪くなる、骨の代謝が悪くなる、という状態になってしまいます。内科的な治療が行われ血糖値が良好にコントロールされている場合、歯科治療はほとんど問題がありません。しかし、コントロールが不良の場合は傷の治りが悪く、口の中の細菌の感染に対する抵抗力が弱いです。また、インプラントは骨の中にネジを入れる治療ですので骨の代謝が悪いとうまくくっつかない可能性があります。

糖尿病でインプラント治療ができなくなることはありませんが、インプラントの脱落やインプラント周囲炎(第10回コラム参照)のリスクが上がります。実際に世界では信頼性の高いデータが様々出ており、根拠を持って患者さんのリスクを説明することができます。

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  • グループ4はグループ1と比較して明らかにインプラント周囲の歯肉炎が多い。<2015年の報告>
  • グループ2と3はインプラント周囲の歯肉炎や骨の吸収が多くリスクが高い。<2018年の報告>
  • HbA1cが8%以上でもインプラントは健常な人と同じように成功するが、周囲の歯肉炎は多い。<2017年の報告>
  • 糖尿病でない方はインプラント周囲炎が7%だったのに対し、糖尿病の方は24%であった。<2006年の報告>

糖尿病の患者さんでもインプラント治療は受けることが可能です。安全にインプラント治療を提供するために当院では以下のような工夫をしております。

  • リスクについての十分に理解いただけるような説明を心がける
  • 複雑な手術を避けるように治療計画をできるだけシンプルにする
  • 手術前に歯周炎(歯槽膿漏)の治療を行い、細菌の数や活動を抑える
  • 血液検査を行いコントロール状況の確認する
    • 空腹時の血糖値140mg/dl以下(食後200mg/dl以下)でHbA1c(ヘモグロビン・エーワンシー)6.9%以下が望ましい
  • 手術の際に使う麻酔の種類を工夫する
  • 点滴による抗菌薬の投与を行いながら手術をする

文責:歯科口腔外科 松田博之
◎インプラント治療をご希望の方は
松田博之医師をご指定ください。

このサイトの監修者

亀田総合病院
歯科口腔外科医長 松田 博之

【専門分野】
口腔外科、インプラント