下気道感染にプロカルシトニン測定は有効か?

Procalcitonin-Guided Use of Antibiotics for Lower Respiratory Tract Infection.
N Engl J Med. 2018 May 20. doi: 10.1056/NEJMoa1802670.
PMID: 29781385

プロカルシトニンは、ウイルス感染よりも細菌感染で上昇しやすいと言われているペプチドで、いくつかの欧州の試験において、プロカルシトニンの結果に基づく診療は抗菌薬の使用を抑制できる可能性が示唆されており、2017年米国食品医薬品局(FDA)は下気道感染症が疑われる場合に抗菌薬の開始または中止の指標としてプロカルシトニンを測定することを承認した。しかしながら、プロカルシトニン値をルーチンに日常臨床へ応用できるかは不明であったため、今回のProACT(Procalcitonin Antibiotic Consensus Trial)試験が実施された。

本研究は、プロカルシトニン値に基づく抗菌薬処方ガイドラインを作成しこれを用いて抗菌薬の投与を決定することで、有害事象を増加させずに抗菌薬暴露量を減らすことができるかどうかを検討した多施設オープンラベルRCTである。下気道感染症疑いで受診し、抗菌薬を投与すべきかどうかは決まっていない18歳以上の患者を対象とし、プロカルシトニン使用群と通常治療群に無作為に割り付けた。プロカルシトニン群の治療医には、プロカルシトニンの測定値と、測定値を4段階に分け、それぞれの推奨治療が記載された抗菌薬使用のガイドラインが提供された。実際に投与するかは臨床医の判断に委ねられた。通常治療群にもプロカルシトニンの測定が行われたが、臨床には使用されなかった。

2014年11月〜2017年5月の期間に、米国の14施設1,656例が登録され、826例がプロカルシトニン群に、830例が通常治療群に割り付けられた。
ITT解析では、primary outcomeとして設けられた30日以内の平均抗菌薬投与日数には有意差を認めなかった。(プロカルシトニン群:4.2日、通常治療群:4.3日)(difference, -1.5 percentage points; 95% CI, -0.6 to 0.5; P=0.87)
また、死亡などの有害事象の複合アウトカムの発生割合は、プロカルシトニン群:11.7%, 通常治療群: 13.1%(difference, -1.5 percentage points; 95% CI, -4.6 to 1.7; P<0.001 for noninferiority)とプロカルシトニン群の通常治療群に対する非劣性であった。
本研究でのlimitationは、抗菌薬処方するか否かの最終判断が臨床医に任されていること、オープンラベルによるperfomance bias、アメリカ単一国であることが挙げられる。結局臨床医の判断で抗菌薬処方されるためプロカルシトニンの意義が直接検証されたわけではない。
今回の結果をうけてプロカルシトニンを使用しても抗菌薬処方日数は変えず、有害事象も変えないためEDにおける下気道感染に対するプロカルシトニン測定の意義は乏しい。亀田ERでも基本的に測定していない。

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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科