小児の3つの頭部CTルールの有用性について

Accuracy of Clinician Practice Compared With Three Head Injury Decision Rules in Children: A Prospective Cohort Study
Ann Emerg Med. 2018 Jun;71(6):703-710 PMID: 29452747

【Back Ground】
小児の頭部外傷は非常にありふれた疾患であり、TBI(traumatic brain injury)は幼少期の死亡や障害の原因として最多である。TBIの中でも、それが原因で死亡・脳外科的治療介入が必要となるもの・24時間以上挿管が必要となるもの・2泊以上の入院が必要となるものをciTBI(clinically important TBI)と定義するが、それを早期に検出し、治療介入することは臨床上非常に大切である。一方で、ciTBIを検出するための頭部CT撮影は、小児への被曝のリスクが問題視され、現在主に3つの頭部CT ruleに基づいてCT撮影の判断をすることが望ましいとされていた。

【Research Question】
軽症頭部外傷の小児に対し、臨床家の判断による頭部CTの撮影は、ciTBIの診断精度(感度・特異度・陽性的中率・陰性的中率)において、3つのclinical decision rule(PECARN, CATCH, CHALICE)に勝るか。

【Research Contents】
本研究では、3つのCT ruleを比較した前向き多施設観察研究のsubstudyとして行われた。方法として、オーストラリアとニュージーランドの10の小児救急施設に受傷後24時間以内に来院した18歳未満、GCS 13-15の頭部外傷患者に対して、臨床医がCT撮影を必要とするか否かを判断し、撮影した場合のciTBIの検出精度を算出した。対立項として、3つのCT ruleにしたがって撮影判断をしたものによる検出精度を算出し、両者を比較をした。結果は、3つのCT ruleと臨床医の判断による頭部CT撮影のciTBI検出感度は同程度(臨床医 158/160=98.8%, PECARN(<2y/o) 42/42=100%, PECARN(>=2y/o) 117/118=99.2%, CATCH 147/160=91.9%, CHALICE 148/160=92.5%)であったが、特異度に関しては臨床医による判断が最も高い(臨床医 17,332/18,753=92.4%, PECARN(<2y/o) 2,957/5,004=59.1%, PECARN(>=2y/o) 7,143/13,749=52.0%, CATCH 13,193/18,753=70.4%, CHALICE 14,735/18,753=78.6%)ことが示された。結論として、clinical decision ruleを導入してもciTBIの検出精度は上がっておらず、むしろruleに従うことでCTの撮影頻度が増加する可能性があることから、その地域の臨床医の診断精度を確認した上でCT ruleを導入すべきとされた。

【Implication】
 本研究は、元々CT撮影の頻度の低いオーストラリアやニュージーランドにて行われた研究であり、世界各国のCT検査の背景事情の内の一例である。頭部CT撮影の閾値は、CT ruleのみだけでなく、CT検査へのaccesibility、医療法律背景、患者家族のCT撮影への期待度、外科的なサポート体制、患者の観察体制などによって大きく左右されるため、一つの背景事情による結果が遍く全ての環境に適応できるわけではないが、類似する環境においては、臨床医の診断精度が高いことを示す一つの材料となった。また、本研究では、患者層は一般的な小児の頭部外傷のそれと類似しており、この点においては普遍性のあるデータとして利用可能であろう。
 一方で、本研究では対象施設の臨床医・研究アシスタントが研究目的について知らされた上での研究であり、一般的な診療に比して、極めて慎重な臨床判断を行った結果、良い診断精度となった可能性がある。それを反映してか、本研究では軽症頭部外傷の患者層に対して20%前後が入院となっており、やや一般的診療状況からは外れる。また、臨床判断を行った医師が、小児救急に特化した専門医であることや、全てのCTを放射線科専門医が読影していることも、世界共通の臨床環境とは言えないだろう。加えて、ciTBIでないことの判断が、非CT撮影群の90日間の電話フォローアップで何も起こらないことと定義されているが、非ciTBIであることのgold standardは不明確で、CT撮影群のフォローアップも含めて再評価すべきと考える。何れにしても、限定した環境で、かつ小児救急の専門医によってなされた頭部CT撮影の判断であれば、ciTBIを検出する精度が高いが、一般臨床医の判断ならば、PECARNに従うのが妥当であろう。

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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科